フォーカス 100km徒歩の旅で
子どもたちに生きる力を

100km徒歩の旅で 子どもたちに生きる力を

「100km徒歩の旅」は1998年に福岡県のつくし青年会議所が開始したプログラムで、5日間で100kmを歩く体験を通じて子どもたちに生きる力を育むことを目的に、現在は全国14カ所で開催されています。「つくば路100km徒歩の旅」は2007年、当時私が所属していた常総青年会議所(現・茨城南青年会議所)の青少年育成事業として実施したのが始まりです。

参加対象は小学4年生から6年生。夏休み中の5日間、寝食を共にしながら100kmを歩いて、ゴールを目指します。100kmを歩き抜くというのは体力的に大変ですし、精神的にも大きな負担が掛かります。4泊5日で親元を離れることはほとんどの子どもにとって初めての経験で、その間テレビもなければゲームもないという普段と全く異なる環境に身を置くことになります。子どもたちにとっては、むしろ精神的な負担の方が大きいかもしれません。そうした体験をすることによって自立心が芽生え、子どもたちは大きく成長していきます。

私は常総青年会議所で実施した第1回の責任者として運営に当たり、その翌年に「常総100km徒歩の旅運営協議会」(17年「つくば路100km徒歩の旅運営協議会」に名称変更)を立ち上げました。プログラムの精度を高く維持するには、独立した団体で取り組む方がよいと考えたからです。運営協議会の主催になった第2回以降も、青年会議所やライオンズクラブから協賛を頂きながら継続してきました。子どもたちの成長は、学校教育と家庭教育、そして地域教育の三つの輪で支えていくもので、その地域教育を担うのが青年会議所やライオンズ、また我々のような団体の役割だと思います。

ライオンズ提供のかき氷を食べてひと息つく参加者とボランティア

つくば路100km徒歩の旅は、1時間歩いたら15分休むというペースで、1日に約20km進みます。夏の夕方は天気が急変することが多いので、我々スタッフは午前4時、子どもたちは5時に起床して6時に出発し、午後4時ぐらいまでには宿泊地へ到着。泊まるのは小学校の体育館で、プールのシャワーで汗を流し、夜9時には消灯します。旅の間は、自分が脱いだ靴はそろえる、トイレは次に使う人のために奇麗にしておくなどの生活指導も徹底して行います。

初参加の4年生には、すぐに弱音を吐いて動けなくなる子も多くて、そんな子にはスタッフが1人付いて励ましながら前進します。精神的な弱さのある子は、初日にへこたれてしまう。でも、大体1日を乗り切ると腹をくくるのか、一生懸命に歩くようになります。最終日の前日、4日目に筑波山に登るのが旅の山場なんですが、その時には最初はへこたれていた子が他の子を励ますこともあって、子どもたちの変化には毎回驚かされます。参加者は3学年混合の班を作って6年生が下級生の面倒を見るなど、自然にお互いの助け合いも生まれます。

参加者は130人、5、6年生は経験者限定で、新規に募集するのは4年生のみです。毎年5月に募集を行いますが、希望者が多いので抽選で決定します。参加者が決まるとまず保護者説明会でプログラムのねらいや出発までの準備、心構えなどを理解してもらい、開催の1カ月前には保護者研修会を開きます。靴の選び方や、熱中症予防のために汗をかく練習をしておいてもらうといった注意の他に、旅が終わった後のことも含めた研修です。子どもたちは5日間で確実に成長しますが、家に帰って元通りの生活に戻るのではなく、更に成長を促すためにどうしたらよいかを考えていきます。

保護者の皆さんにはスタッフの一員として協力してもらいますが、最終日のゴールまでは子どもの様子を見に来ないようにお願いしています。子どもは親と一緒の時とそうでない時では、覚悟が違います。途中で親の顔を見るとどうしても甘えが出てしまう。泣き言も言わずに黙々と歩き続けた子たちの苦しさ、つらさが、ゴールで保護者の顔を見た途端に涙と一緒にあふれ出すのを見ると、何度続けていても感動します。我慢することを学び、やり抜く喜びを知るには、5日間という期間が必要なのだと思います。

130人の参加者を受け入れるには70人ぐらいのスタッフが必要で、大学生のボランティア・スタッフを集めます。この旅には学生ボランティアに生きる力を醸成するという側面もあって、半年以上前から週1回のミーティングを行い、本番では彼らが中心になって働きます。ミーティングは研修を兼ねたもので、積極性やコミュニケーション能力など社会に出る上で必要な要素も組み込んでいます。スタッフを経験することで、人前で堂々と話せるようになったり、自信を持って行動出来るようになったり、学生たちにとっても学びがあり、就職活動にも大いに役立っているようです。

私自身は引っ込み思案な子どもで人前に出るのは苦手な方でしたが、自分の会社を持ち、社員を育てる立場になって、いろいろと勉強するようになりました。30歳になって、「人を幸せにする経営」を提唱されている経営学者の坂本光司先生に学ぶために法政大学に入学したんです。そうして学んだことが、子どもや学生の育成にも役立っていると思います。

この活動を始めてから10年以上が経ち、気が付くと小学生だった参加者が成長して、ボランティア・スタッフとして戻ってくるようになりました。参加経験者には高校生からスタッフに加わってもらいます。最初は考えもしませんでしたが、旅を経験した子たちが今度はスタッフとして子どもたちをサポートするという循環が生まれたのは、本当にうれしいことです。

つくば路100km徒歩の旅には取手、取手中央の二つのライオンズクラブが協賛。資金面での協力に加えて、取手ライオンズクラブはスイカを、取手中央ライオンズクラブはかき氷を参加者に提供している

つくば路100km徒歩の旅は全国17の徒歩の旅の中で、参加者・ボランティアの数が共に最も多いんです。私は第1回から第12回まで団長を務めましたが、続けてきて良かったとやりがいを感じています。昨年の第13回からは、若く頼もしいスタッフに団長を引き継ぎました。残念ながら今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、全国の徒歩の旅は一斉中止となりましたが、彼は活動が困難な状況でも学生ボランティアをまとめて奮闘しています。5年生と6年生には3年間で300kmを歩く目標を立てている子がいるので、その子たちのために何とかしたいと、9月から約2カ月の間に保護者と一緒に合計で100km歩くという形の旅に挑戦してもらっています。

近年のいちばんの問題は、暑さです。熱中症についてはかなり勉強して、経験も積んできたので対策には自信を持っていましたが、10年前に比べて猛暑が厳しさを増し、これまで通りとはいかなくなってきました。時期をずらすなどの議論をしているところです。ほぼ1年を通じた事業ですし、子どもたちの命を預かる責任は非常に重く、続けていくことは本当に大変です。でも、子どもたちや保護者の方々に「また来年会いましょう!」と言われると来年はもっと良い旅にして、成長した子どもたちの顔が見たいと思います。

2020.11更新(取材/河村智子 写真提供/つくば路100km徒歩の旅運営協議会)

たじま・こうた:1968年2月、千葉県柏市生まれ。株式会社クーロンヌジャポン代表取締役。高校卒業後パン職人の道に進み、26歳で茨城県取手市にパン工房・クーロンヌを開業。そのかたわら30歳で法政大学経営学部に入学し修了。現在は県南地区を中心にピッツェリアやペンションなどを含め12店舗を経営。体験型学習事業を主催する、つくば路100km徒歩の旅運営協議会会長。09年1月取手ライオンズクラブ入会。20-21年度クラブ幹事。