取材リポート
クラブの作った観光地
あじさい坂景観保全活動
栃木ライオンズクラブ
#環境保全
8月23日(日)の午前6時45分。集合場所であるあじさい坂の入口駐車場に栃木ライオンズクラブ(毛塚一男会長/31人)のメンバーが集まりだした。7時から、坂の両脇に植えられたアジサイへの追肥と除草、清掃活動を行うためだ。
栃木市西部、標高341mの太平山(おおひらさん)の頂に社殿を構える太平山神社の表参道の一部を「あじさい坂」という。シーズンには1000段の石段の両側を埋め尽くす約2500株のアジサイが一斉に花をつける。セイヨウアジサイにヤマアジサイ、ガクアジサイが入り交じり、この山で産出する自然石をそのまま積み上げた野面(のづら)積みの石段と相まって、一幅の絵画さながらの景色で訪れる人々を魅了する。
あじさい坂は、毎年6月中旬から下旬にかけて開催される「とちぎあじさいまつり」の会場でもあるが、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のためまつりの開催は見送られた。ライオンズによる年に一度の今回の活動も中止すべきか検討を重ねたが、屋外での活動であること、作業時間も限られ、参加者が班別活動をすることで「三密」を避けられると判断し、予定通り行うことに。家族や知人も誘っての参加を呼び掛けたところ、クラブ・メンバー以外の参加者を含め19人が参加。共に汗を流した。
栃木ライオンズクラブのメンバーがこの地で活動を続けるのには理由がある。1974年に、クラブ創設時のメンバーらが「緑こそいのち」のスローガンを掲げ、石段脇にアジサイを植栽したことで、あじさい坂は生まれた。つまり毎年65万人が訪れる県を代表する観光名所が今あるのは、クラブの先人たちのおかげなのだ。
一帯は太平山を中心に、太平山県立自然公園に指定されていることもあり、県を始めとする行政や各種団体と協力し合い、クラブは整備事業を継続してきた。
今年8月は猛暑続きだったが、当日は曇天。気温もそれほど上がらず絶好の作業日和となった。高齢のメンバーが多いということもあり、健康管理と短時間作業を心掛け、熱中症対策も万全で臨んだ。密を避けるよう作業は五つの班に分けられ、同時にスタートした。アジサイに追肥する肥料班とヤブガラシの除草班は2班ずつ、それぞれ参道の上下に分かれて進んだ。残る1班は、あじさい坂の入口付近に設置されているハイキングマップの汚れ落としを担当する清掃班だ。
太平山の四季や見所を写真入りで紹介するハイキングマップは2015年に栃木ライオンズクラブが寄贈・設置したもの。あじさい坂周辺には、他にもクラブ結成50周年の記念モニュメントや参道入口に立つ木製看板など、ライオンズクラブが関わったものも多い。こうした寄贈物の周辺の除草や清掃も念入りに行われた。
8月末に追肥を行うのは、アジサイの成長に最も適した時期だから。夏に出てきた芽が大きく育てば育つほど、翌年大きな花をつけるという。人間には暑さの厳しい時期だが、ここはアジサイ・ファースト。せめて出来るだけ暑さを避けるために、開始時間を午前7時にしているのだ。
この時期、ヤブガラシの成長も著しい。ブドウ科ヤブガラシ属の一種で、急速につるを伸ばして他の植物の上に覆い被さるように葉を茂らせる。覆われた植物は光を浴びることが出来ずに枯れてしまうことからその名が付いた。ヤブガラシの他にも何種類ものつる植物がアジサイを覆ってしまうため、この機会に取り去っている。もし1年でもこの作業を怠ると、アジサイをダメにしてしまうという。それほどまでにつる植物の生育は脅威的だ。もともとヤブガラシは山ではあまり見掛けない平地の植物だったが、近年の温暖化のせいか栃木市内でも比較的高い場所にあるあじさい坂でもよく見られるようになった。
2015年9月には関東・東北豪雨であじさい坂も大きな被害を受けた。坂の周辺で土砂崩れが発生し、多くのアジサイが根こそぎ流されてしまった。また、近年はイノシシがアジサイの根を掘り起こす被害も発生している。こうして失われたアジサイを補植する取り組みも、行政や市の団体と協力して行っている。16年には、ハイキングマップを作るために開催したチャリティー・コンサートの益金などを活用し、アジサイ92本を植栽した。
この日は比較的涼しい朝だったこともあって、作業は思いの外はかどったようだ。作業は2時間を予定していたが、7時過ぎに集合場所から各自の持ち場へ向かったメンバーも8時15分には全員が戻ってきていた。ただ、課題もある。健康で元気ではあっても高齢のメンバーが多く、年に一度の作業とはいえ、今後継続していくには地域の若い力を巻き込むなどの作戦も考えていかないといけないと、毛塚会長は話す。
あじさい坂のある太平山県立自然公園は、春は桜、アジサイに彩られ、夏から秋にかけては山の北側に広がるブドウ畑に多くの観光客が集まるなど、四季を通じて楽しむことが出来る。太平山神社を始め歴史的資源も豊富で、頂上付近の謙信平は眺望が良く、雲海の合間から山々が見える様子から「陸の松島」とも言われる。天気の良い日には、東京スカイツリーや富士山を見渡せる。そんな魅力のあるエリアの入口に位置するのがあじさい坂だ。今後も先人たちが築き、育ててきた県を代表する観光地をこれまで通り守り続けていきたいとクラブは話している。
2020.10更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)