国際財団
小児がん患者と家族の
移動フォローアップ
ボスニア・ヘルツェゴビナ
自分の子ががんにかかっていると知った時の親の思いは、容易に想像出来るものではない。医師の言葉を理解しようとしても受け入れられず、まるで自分を取り巻く世界が崩壊していくように感じるのではないだろうか。特に十分な治療やフォローアップを受けることが難しい地域では、最悪の事態まで想像してしまうかもしれない。
ボスニア・ヘルツェゴビナで小児がん治療を行う病院は、たった一つだった。ライオンズクラブとライオンズクラブ国際財団(LCIF)が行動を起こすまでは、治療後のフォローアップ・プログラムもなかった。経済的困難と病院までの距離の問題から、治療を終え退院した子の多くは定期的な検査を受けられず、75%が合併症を発症していた。
地元のライオンズは、子どもたちに必要なケアを提供したいと考えていた。 そこでLCIF人道支援マッチング交付金3万6900ドルを得て、NPOアソシエーション・ハート・フォー・チルドレン(AHfC)と協力して、小児がん経験者のための国内初の移動フォローアップ・プログラム確立に取り組んだ。
小児がんの治療を受けた子どもたちは、その後も心理的な問題、発達の遅れ、がんの再発、合併症などを発症する恐れと隣り合わせの日々を過ごす。学校を欠席していたために勉強についていけなくなったり、友達との関係を築くのにも苦労したりすることもある。そうした中で子どもたちが再び生活に適応し、将来に対して前向きになれるようサポートするプログラムが求められていた。更に小児がん患者本人だけでなく、その親や兄弟姉妹も、不安やうつ、心的外傷後ストレス障害、罪悪感を抱いてしまうことがある。こうした家庭では、病気になった子だけでなく、他の子どもたちの支援にもなる最良のガイダンスが必要だった。
ライオンズはLCIF交付金を活用して、医療機器を装備した車両を用意。小児がんに特化した医療チームが全国を移動して、ライオンズとAHfCが特定した子どもたちのために訪問診療を行うことにした。チームには医師、看護師、心理学者、ソーシャルワーカー、教育者、そしてピア・カウンセラー(*)が参加。ピア・カウンセラーには若いがん経験者も多く、子どもたちの明るい未来像として勇気を与える存在となる。チームは子どもたちを診断し、フォローアップケアの計画を立てる。ライオンズとAHfCの取り組みにより、毎年最大200人の子どもとその家族が無料でサービスを受けられるようになった。
小児がん経験者でピア・カウンセラーのネラー・ムジークは言う。
「このチームに参加し子どもたちに笑顔をもたらすことが出来て、ほんとうに幸せです。小児がんを克服し生きてきたかいがありました」
2009.09更新(文/ジェイミー・ウェーバー)
*ピア・カウンセラー=同じ悩みや障害を持つ仲間の相談に乗り、その人自身で悩みや障害を克服出来るように援助する人