取材リポート 自転車人気の火付け役
青少年サイクリングのつどい

自転車人気の火付け役 青少年サイクリングのつどい
※この記事は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で取材活動が行えないことから、過去の取材記事(ライオン誌2016年11月号クラブ・リポート)に最新情報を加え再編集したものです

2020年4月3日、国土交通省は企業活動における自転車通勤や業務利用を拡大することを目的に「自転車通勤推進企業」宣言プロジェクトの創設を発表した。自転車通勤を積極的に推進する企業を募集し、自転車活用推進本部長(国土交通大臣)が認定する制度で、認定を受ければ国のホームページなどで紹介される他、認定の公式ロゴを使い「環境負荷軽減や従業員の健康増進に取り組んでいる企業」として広報が出来るなどのメリットがある。従業員にとっても、企業や団体が自転車通勤のサポートをしてくれるので、通勤の選択肢が増える利点がある。政府が3月28日に発表した新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針でも、テレワークが難しく、出勤せざるを得ない場合は「時差出勤、自転車通勤等の人との接触を低減する取り組み」が推奨されている。今後、自転車通勤が当たり前のように通勤の選択肢に入ってくる時代が訪れるかもしれない。

二輪自転車は1813年にドイツで発明され、85年にイギリスで現代の⾃転⾞の原型である安全⾃転⾞が発売されると、同時期に日本への輸入が始まり、90年には宮田製銃所が国産第1号の安全自転車を生産している。86年には帝国大学の教員らが「自転車会」というクラブを設立するなど余暇にサイクリングを楽しむ人も現れた。現在、日本の自転車の普及率は世界的に見ても高い。2005年の状況では国民1.5人当たり1台が保有されており、1人1台以上を保有しているオランダ、ドイツ(1.2人に1台)などに次いで世界では6番目ほどの普及率となっている。アメリカ(2.2人に1台)やフランス(2.6人に1台)に加え、自転車大国のイメージがある中国(3.2人に1台)も上回る自転車大国である。一方、ここ15年ほどでスポーツ自転車の販売台数が3倍になるなど、日常使いだけではなく、サイクリングなどレジャー面での需要も高まっている。また、14年にアメリカのケーブルテレビCNNが「7 best bike routes in the world(世界7大サイクリングコース)」に日本のしまなみ海道を選定するなど海外からサイクリングを目的に日本を訪れる人も増えている。こうした状況を踏まえ、国土交通省ではサイクリングロードの整備や、ナショナルサイクルルートの創設などを進めている。

北海道で整備が進んでいる北海道道1148号札幌恵庭自転車道線もその一つだ。1973年に廃線となった旧国鉄千歳線の跡地が多く利用されているこの自転車道は、札幌を起点にJR北広島駅を少し過ぎた地点までの約20kmが完成している。今後、JR恵庭駅まで延伸し全長約32kmになる計画だ。恵庭市では毎年9月にサイクルフェスタ・恵庭という自転車イベントが開催されている。恵庭はアップダウンが少なく、サイクリングに適した環境で、道外からサイクリングを目的に訪れる人も増えており、自転車の町としても近年注目を集めている。

そんな恵庭でサイクリング人気に火を付けたのが恵庭ライオンズクラブ(櫻田透会長/90人)だ。85年から毎年9月に青少年サイクリングのつどいを開催している。当初のコンセプトは親子の触れ合いの時間を作ることだった。しかし、実施していく中で、恵庭での自転車人気が高まり、前述の自転車イベントなどが開催されるようになった。今では、小さい頃に参加した人が親の立場で参加してくれるなど、しっかり地元に定着したイベントとなっている。

青少年サイクリングのつどいでは誰もが参加しやすいよう、距離が違うコースを複数用意している。レースではないので、一斉にスタートした後は自分たちのペースでサイクリングを楽しみながらゴールを目指す。参加者にとってはサイクリングを満喫出来るシステムだが、運営をしているクラブ側は大変である。参加者と一緒に自転車で移動するメンバー以外は、スタート後の撤収作業を手早く済ませ、迷いやすいポイントに車で先回りする。コースは交通量が少ないルートを選んでいるが、中には一般道を通るところもあるので、交通整理も担当。全員が通り過ぎたらまた次のポイントへ、と大忙しだ。

近年、クラブではコースの途中にある余湖(よご)農園の協力で、休憩所を設けている。ここでは毎年参加者に収穫体験をしてもらっており、メンバーが豚汁とおにぎりを作って提供している。サイクリング以外にも親子の触れ合いの時間を持ってもらおうという狙いだ。取材した2016年の際はトマトの収穫体験で、サイクリングの疲れも忘れて家族で楽しむ姿が印象的だった。

長く続いている事業だが、クラブでは毎年終了後に反省会を開いて改善点を話し合っている。時代が変わるにつれて、親子の関係や環境も変化しており、同じことをしているだけでは停滞してしまうからだ。

今年のサイクルフェスタ・恵庭は主催のサイクルフェスタ・恵庭運営協議会で実施時期を含めて検討中とのこと。「STAY HOME」をスローガンに家での時間が長くなっている今だからこそ、外で活動したいという欲求は強い。しかし、感染が広がる懸念もあり、クラブでは慎重に状況を注視し、青少年サイクリングのつどいを実施するかどうか判断することにしている。

2020.07更新(記事/井原一樹 写真/関根則夫)
*写真は2016年9月取材時に撮影したものです