取材リポート 家族と一緒に体を動かす
いい汗流そう大会

家族と一緒に体を動かす いい汗流そう大会
※この記事は、新型コロナウイルス感染拡⼤の影響で取材活動が⾏えないことから、過去の取材記事(ライ オン誌 2017年2⽉号クラブ・リポート)に最新情報を加え再編集したものです

2020年4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、7都道府県に史上初めて緊急事態宣言が発令された。16日には対象が全国へと拡大。東京都などではゴールデンウィークを「いのちをまもるSTAY HOME週間」と位置付けるなど、外出自粛が強く要請された。そうした状況の中、テレビ、新聞、ウェブなどのメディアで盛んに運動不足解消についての特集や記事が報じられた。デンマークのコペンハーゲン大学の研究によると、2週間全く運動をしなかった人は全身の筋力の1/4~1/3が失われてしまったという。もちろん外出を自粛したとしても日常生活を送っているため、全く運動をしていないということにはならない。だが、運動不足を感じている人が多いことだろう。

実は運動不足について、この事態になる前から問題となっていることがある。それは、障害者の運動不足だ。文部科学省が13年に行った調査によると、成人の障害者で1年間スポーツやレクリエーションをしていないという人は6割に上った。健常者の成人の場合、8割以上が1年間で何らかのスポーツやレクリエーションをしたと回答しているため、この差は非常に大きいと言える。障害者が運動をしないのは、医師などに止められているケースももちろんあるが、ほとんどの場合は機会がないことが原因だという。例えば、健常者の場合はジムなどに通うという選択肢がすぐに出てくるだろう。障害者を対象にした民間の調査でも、ジムに通うことを前向きに考えている人も多いという結果が出ている。利用経験のない人の7割程度が「行きたいと考えたことがある」と回答した。一方で、ジムを利用出来るか不安だと答えた人も8割近くいた。自分の障害に合った設備があるのか、スタッフに知識があるのか。そういった物理的な心配に加え、「人の目が気になる」という回答もある。こうしたさまざまな要因があり、運動施設に行くことへのハードルが高くなっているのかもしれない。

障害者の運動不足を解消するために30年以上前から活動しているのが春日井中央ライオンズクラブ(村山和幸会長/89人)だ。クラブではもともと障害者施設を対象に物品寄贈などの奉仕活動をしていた。その中で障害者が楽しめる場を提供出来ないかという意見が出た。物品を寄贈したり、交流したりといった活動ももちろん有意義で大切なことだが、当時から障害者はなかなか運動する機会がない状況にあった。そこで、「いい汗流そう大会」というスポーツ、レクリエーションを行う大会が検討され、1988年に第1回が開催されたのである。

大会の開催に当たってクラブは障害者の家族にも一緒に参加してもらうことにした。運動を楽しんでいる姿を家族に見てもらうのは双方にとっても良いと考えたのだ。そんな中で、障害を持つ人の家族は、そのサポートに忙しく、運動を楽しむ時間が持てない場合もあり、家族にとっても良い機会になることが分かった。また、家族で一緒に運動する機会というのは健常者であろうと障害者であろうとなかなかあるものではない。家族にとっても良い思い出になる。第1回大会は大好評を博し、以後毎年11月に実施している。中には第1回から毎年参加している常連さんもいるというから驚きだ。

いい汗流そう大会は市のスポーツ推進委員連絡協議会に協力してもらっている。クラブだけでは障害者の安全を担保するのは難しい。競技についても専門知識のある協力者がいることで、スムーズに実施出来る。実施している競技は、カーリングを床で行うカローリング、輪投げなど。最後はみんなでパン食い競争をするのが定番だ。パン食い競争だけは全員で一斉に行うが、それ以外はそれぞれが好きな順番で参加する。体育館をいくつかのセクションに分け、同時に多くの人が競技に参加出来るよう工夫しているのだ。参加者はスコアシートを手に、各競技を回る。このスコアシートはおみやげにもなる。特に賞品などが出るわけではないが、毎年ほぼ同じ競技を行っているため、昨年の自分のスコアと見比べて楽しむことも出来るのだ。

ライオンズのメンバーは道具を参加者に渡す役や、各競技後の片付け、スコアシートの記入などを行う。多くの常連さんが楽しみにしてくれており、その笑顔にメンバーたちも自然と笑みがこぼれる。閉会しても興奮冷めやらぬ、といった参加者たちを見ると、この事業に誇りを感じるという。

30年続いているこの事業。参加している障害者の方々の平均年齢も上がってきた。高齢化すればするほど、運動をする機会が減ってくる。もちろん年に一度のいい汗流そう大会だけで運動不足解消にはならないが、ここで体を動かすことに楽しみを見いだして、普段の運動習慣のきっかけになればとクラブでは考えている。クラブでは40年、50年と続く事業として継続していくつもりだ。

「もうやめたら怒られちゃうくらいみんな楽しみにしてるんだ。だから永遠事業だよ」
16年の取材時にインタビューをしたメンバーの言葉が耳に残っている。今回、この記事を書くに当たって当時のインタビューの録音を聞き直したが、参加者の方々の楽しそうな声が途切れず入っており、皆がうれしさを爆発させていた体育館の光景が目の前によみがえってきた。この事業が行われる11月には新型コロナウイルスの勢いが弱まり、安心して実施出来るようになることを祈っている。

2020.06更新(記事/井原一樹 写真/関根則夫)
*写真は2016年11月取材時に撮影したものです