取材リポート
災害時ボランティア
リーダー育成研修会
島根県・松江ライオンズクラブ
#災害支援
#青少年支援
2月9日、島根県松江市にあるくにびきメッセで、松江ライオンズクラブ(永原秀治会長/75人)が主催する災害時ボランティアリーダー育成研修会が開催された。これはクラブが近隣の高校生を対象に2年前から実施しているものだ。今回が3回目の開催となった。
事業のきっかけとなったのは、2016年10月21日に発生した鳥取県中部地震だった。最大震度6弱、マグニチュード6.6を記録したこの地震では松江ライオンズクラブも支援のため、当時の社会奉仕委員長であったメンバーが被災地へと出向いた。被災地を助けたい。その思いを非常に強く持っていたが、待ち受けていたのは現場で何をしたら良いのかが分からないという厳しい現実だった。知識のない人間が思いだけを持って行動しても、いざという時には何も出来ないことを痛感した。このままではいけない。クラブの中で災害時のボランティア活動について、知識を増やす必要があると考えた。
松江市の高校にはJRC部がある。JRCとはJunior Red Cross(青少年赤十字)の略で、ボランティアをしたり、ボランティアについて学んだりする部活動である。近隣高校のJRC部員に声を掛けて一緒に学んでいけば、ライオンズクラブ内の知識も増え、地域に災害に強い人を増やすことも出来る。
こうして18年3月10日に初回のボランティアリーダー育成研修会が開かれた。参加したのはJRC部の高校生20人ほど。松江市防災安全課、日本赤十字社島根県支部の協力の下、ダンボール製の簡易ベッド、更衣室の組み立てなどを体験し、避難所運営についてゲームを通じて考えた。
去年の2回目は松江市上下水道局に後援してもらい、「水」をテーマに実施した。参加者は前年よりも増え、約30人となった。午前中に忌部(いんべ)浄水場を見学。忌部浄水場は千本ダムとその上流にある大谷ダムの水を浄化して松江市内に供給している。ここで濾過(ろか)した水は「松江 縁(えにし)の水」として市販もされるほど評価が高い。見学後は、水道を使わずにトイレを流したり、20Lの水を運んだりする体験をした。
開催時期や内容については毎年、JRC部側とミーティングをして決めている。3年目となる今回はJRC部側の要望もあり、初回の内容に近いものを用意した。今年は例年よりも早い2月9日に実施。3月は卒業シーズンになってしまうため、学校側のスケジュールが組みにくいという要請を受けての変更である。今年はこれまでで最多となる約40人が参加した。
10時から開会式というスケジュールだが、クラブ・メンバーは8時30分に集合して準備をする。テーブルや資料の用意はもちろんのこと、松江市防災安全部の職員から、この日体験で使用するダンボールベッドと簡易トイレの組み立て方についてレクチャーを受けて、体験の際に高校生を手助け出来るようにする。
午前中は松江市防災安全課と日本赤十字社島根県支部による座学。防災安全課からは「高校生に期待する防災・減災について」と題した話をしてもらった。「日曜日の朝8時くらいに皆さんは家にいます。そこで松江で震度6の地震がありました。1時間半後、皆さんはどうしていますか?」という最初の質問に、ライオンズクラブのメンバーを含め、何人かが答える。まだ午前中で何となく弛緩した空気が流れていたが、講師の次の一言で空気が変わった。
「皆さん生きているんですね」
高校生たちはハッとした表情になった。「その根拠は何ですか? 家具の転倒防止をしていますか? 家は大丈夫ですか? 災害があったって、みんな生きていると思っている。これが怖い心理なんです」。そう続く言葉を真剣な眼差しで聞く生徒たち。自分が災害の犠牲者にならないという思い込みがいかに甘い考えか、身に染みて感じる質問だった。会場の集中力が高まったところで、世界各地で起きている災害と避難についての話が始まる。松江市ではどういう取り組みをしており、どのようにして情報を得ることが出来るか、などの具体的な話に、高校生たちは耳を傾けていた。参加する高校生たちに当事者意識を持ってもらいたいというのはクラブの希望だった。実際の体験談を交えて語ってもらうこともお願いしており、まさに狙い通りの効果があった。
続く日本赤十字社島根県支部の講義では、ハイゼックス炊飯を体験した。ハイゼックス炊飯とはビニール袋のような高密度ポリエチレンの袋(ハイゼックス)に米を入れて炊く方法。米と水を入れ、空気を抜いて輪ゴムで止める。こうして密閉された袋をお湯の入った鍋に入れて30〜45分ほど煮る。袋を取り出してから10分ほど蒸らせば完成だ。空気が入ってしまうと中で膨張して袋が破裂してしまうため、空気をしっかり抜くのがポイント。だが、それが思いの外難しく、赤十字社の担当者のチェックがなかなか通らずに何度かやり直す高校生もいた。
食事の後はダンボールベッドと簡易トイレを組み立てる体験。ダンボール箱を組み合わせるだけで大人が2人乗ってもビクともしない頑丈なベッドが出来ることに、高校生たちは驚いていた。最後はディスカッションとグループごとの発表を行い、災害時ボランティアリーダー育成研修会は幕を閉じた。
メンバーの働きで滞りなく運営されているこの研修会だが、実は役割分担を決めていないのだという。実際の災害時は予め役割が決められていない。今自分が何をすれば全体に貢献出来るのか、状況をよく見て判断する力を養うため、あえて概略のみの説明にとどめ、メンバーの自主性に任せているのだ。
こうした形で研修会を行っていると、クラブの中でも変化が生まれてくる。全国の災害に敏感になり、クラブとして、メンバーとして何が出来るのか、考える人が増えた。キャラバン隊のようなものを作ってどこかで災害が起きた時に派遣するのはどうか、という意見や、松江は災害が少ないから空き家などを使って受け入れ側としての役割を果たすことも出来るといった意見が出るなど、災害についてより具体的に考えるようになったという。
より多くの人に災害時ボランティアリーダー育成研修会を受けてもらい、災害に強い人を増やしたい。今は高校生を対象としているが、例えば中学生を対象としたらまた別の意識付けが出来る。一般の市民からも問い合わせがあるため、どういう形で継続していくかが今後の課題だ。
2020.04更新(取材・動画/井原一樹 撮影/関根則夫)