取材リポート
天降川河川敷で
伝統の鬼火焚きを実施
鹿児島県・きりしまシニア ライオンズクラブ
#人道支援
鹿児島県にある国見岳を水源とする二級河川、天降川(あもりがわ)は尾田の滝、新川渓谷を経て鹿児島湾に流れ込む。アユの稚魚の漁獲量が日本一であり、アユ釣りを楽しむ人も多い。霧島市のほぼ中央を流れていることもあり、多くの市民に親しまれている。晴天時には河川敷から韓国岳(からくにだけ)を始めとした霧島連峰も望める。
この天降川を対象にした活動を多く行っているライオンズクラブがある。きりしまシニア ライオンズクラブ(深川真里会長/19人)だ。クラブは2002年7月に結成された。結成時の名前は「国分隼人天降川縄文ライオンズクラブ」。日本で一番長い名前のクラブとして注目された。クラブ名に冠するほど、天降川での奉仕活動を意識していた。その後、紆余曲折を経てクラブ名は変更になったが、今でも天降川への思いは強く、年間を通して環境整備などを行っている。
1月11日、天降川の河川敷できりしまシニア ライオンズクラブが鬼火焚きを実施した。これはクラブが結成翌年の03年から実施している事業である。鬼火焚きとは、九州地方で1月に行われる火祭りのこと。竹の爆ぜる音で鬼が逃げていくという言い伝えがあるため、竹で組んだやぐらに火を点け、使い終わった正月飾りを燃やす。その火にあたれば、1年間無病息災で過ごせるのだ。こうした風習は日本各地に存在しており、総称として「左義長(さぎちょう)」と呼ばれている。歴史は古く、『徒然草』などにも左義長の記述があることから、鎌倉時代には行われていたようである。
鬼火焚きはある程度広い場所で行う必要がある。火を扱うので安全面でも気を使うことが多い。霧島でも各地で鬼火焚きが行われていたが、最近では安全を考慮して数を減らしている。きりしまシニア ライオンズクラブのメンバーの世代にとっては馴染み深い冬の行事だったが、20代、30代の若い世代では経験していない人も多い。その子どもたちとなればなおさらだ。クラブでは結成当初から天降川で地域の伝統を受け継ぐような事業をしたいとの思いもあり、子どもたちにとって地元の思い出となる河川敷での鬼火焚きは最適の事業だった。
鬼火焚きは前年12月から会員が一丸となって準備をする。まず、河川敷の草刈りを行い、やぐらの材料となる竹の切り出しを2度にわたって行う。20mを超えるやぐらは、クラブの建築関係のメンバーが手掛ける。火が付いたやぐらは途中で燃えながら倒れるため、どの方向に倒れやすくするかなども計算して設計されている。12月最終週にやぐらを建ててからは、その後鬼火焚き当日まで定期的に点検を行う。また、メンバーの宮司が神事も行い、使用した正月飾りを清めてから火を点ける。事前に消防署とも打ち合わせをし、当日の安全面に関して万全を期す。それでも燃えカスなどが周辺の家に飛んで行ってしまうこともあるので、周囲へのあいさつも欠かせない。
子どもたちに見に来てもらおうと、周辺にある五つの幼稚園、保育園に鬼のぬり絵をしてもらっている。去年までは園児一人ひとりにぬり絵をしたものを作ってもらっていたが、今年は各幼稚園、保育園に大きな鬼の顔を渡し、みんなで塗ってもらった。これらの鬼の面はやぐらに飾り、一緒に焼いている。また、点火式や神事に子ども会の代表の子に参加してもらっている。
今年は点火式の開始時間を昨年よりも30分繰り上げ17時半からにした。去年、「待っている時間が寒かった」という意見があったからだ。点火式では山伏に扮した人たちがたいまつに灯した火を持ってくる。副市長や子ども会の代表の子たちにたいまつが渡され、点火。20mのやぐらに一気に火が回る。その圧巻の光景に観客からもどよめきと歓声が上がる。やぐらが倒れ、火が落ち着くまでは周囲に人を近付けない。
点火した後はクラブでぜんざいの提供をする。300食を用意するが、すぐに無くなってしまうほどの人気だ。毎年楽しみにしてくれている人も多い。今年は新たに、竹の板を用意し、願い事を書いて火に投げ入れてもらう企画も加えた。ただ見るだけでなく、参加してもらうことで鬼火焚きが更に思い出に残るものになると考えた。
地域の人からは非常に好評だ。特に親子で来た人からは「子どもにとって思い出に残る経験でありがたい」といった言葉や「私たちの世代では途絶えてしまっていたからうれしい」といった声が上がっているという。夏や秋にはお祭りなどがあるが、冬はどうしてもこうしたイベントが少なくなる。数少ない冬の行事として喜ばれているのだ。
一方で、クラブが懸念しているのが天降川の環境変化だ。近年、豪雨や大型台風などの異常気象によって、天降川が増水することが多くなった。これによって河川敷が徐々に削られており、以前よりも狭くなってきている。今年もやぐらを立てる際にスペースの確保に苦心した。やぐらの形を変えることや、他の場所での実施も視野に入れ始めたが、出来れば天降川で続けたいとの思いは強い。クラブでは日々の天降川河川敷での草取りやゴミ拾いなどを通じて、状況を見極めて来年以降も実施の形を考えていく。
2020.2更新(取材・動画/井原一樹 撮影/田中勝明)