取材リポート
YCEプログラムの参加者
とスキー研修
兵庫県・村岡ライオンズクラブ
#青少年支援
ライオンズクラブではYCE(Youth Camps and Exchange/ユース・キャンプ及び交換)プログラムを実施している。これは1974年にライオンズクラブの国際理事会で採択された青少年交換規定に基づいて実施されている事業である。発端となったのは61年夏に行われた日米学生交換計画だ。(詳しくは→歴史「視野が広がる世界が変わる日米学生交換計画」)
近畿地方のライオンズクラブが所属する335複合地区でも毎年多くの学生を受け入れてきた。この335複合地区の中で特にYCE事業に力を入れているクラブがある。村岡ライオンズクラブ(石井利彦会長/31人)だ。
クラブが拠点にしている旧村岡町(2005年に周辺町と合併したため、現在は香美町)は兵庫県北部に位置する。冬には雪が多い地域で、旧町南部にある鉢伏山はハチ北高原と呼ばれ、スキー場が運営されている。そんな特徴を生かし、村岡ライオンズクラブは96年から兵庫県内のライオンズクラブが受け入れた海外の青少年を対象にスキー教室を実施してきた。YCEプログラムで来日する人の出身国は多岐にわたるが、冬季交換では東南アジアやオセアニアなどからの参加者が多く、雪を初めて見るというケースも少なくない。そのためスキー教室は毎回好評で、335複合地区内の他府県のライオンズから「一緒に研修させてほしい」と要望が出るようになった。そこで13年からは335複合地区全体のYCE研修という形で実施している。
13年に複合地区のYCE生を受け入れた当初は1泊2日で研修をしていた。それも好評だったが、県外から集まる参加者にとっては少し慌ただしいスケジュールになってしまう。そこで16年からは2泊3日で行っている。これにより、初日に村岡に入り、2日目と3日目にスキーをするスケジュールとなった。だが、初日が移動だけで終わってしまうのは少しもったいない。そこで地元、村岡中学校の生徒と交流会をするのはどうかという案が出た。中学生たちにとって、年代の近い外国の青少年と交流するのは貴重な機会である。また、YCE生にとっても現地の中学生と触れ合う機会はあまりない。双方にとって得難い経験になるのでは、と中学校に掛け合ってみたところ、快諾を得て実施が決定。以降、初日に交流会をし、2日目と3日目にスキー研修をするという今の形が出来上がった。
こうして19年も12月17日から19日にかけて、YCE生スキー研修が行われた。今年度もマレーシア、ニュージーランドなどからの参加者が村岡に集まる。例年は多くいるオーストラリアからのYCE生だが、今回は不参加。19年9月からオーストラリア本土で頻発している森林火災の影響で、現地のライオンズクラブがその対応に追われているためだという。
交流会はまず習字の授業から。今回書くのは「和」という文字。最初に先生から漢字の意味や書き順についてレクチャーがあり、それからYCE生1人に対して中学生2〜3人のグループを作る。最初は緊張気味の中学生だったが、身振り手振りで自己紹介をするなどコミュニケーションをとるにつれて緊張もほぐれていく。YCE生は筆の持ち方や硯の使い方などを教えてもらい、真剣な眼差しで半紙に向かう。半紙で2回練習をし、その後本番として色紙に書く予定だったが、中にはお願いして3枚目の半紙をもらい、念入りに練習して本番に臨む人もいた。
次の授業は英語。図書室へと移動する。この授業ではYCE生2人と中学生数人のグループに分かれる。自己紹介をした後、中学生たちは一人ひとり用意してきた「自分の夢」を英語で発表する。夢についてたどたどしくも熱く語る中学生たちに質問が集まり、グループで会話が盛り上がってきたところで、今度は英語の質問文が読み札になっているかるたが始まった。「座るものは何?」「小さいの反対は?」といった簡単な英会話のような質問もあれば「この部屋に多くあるものは?」(取り札の絵は本)といったクイズのようなものもあった。
時間にして2時間ほどの交流だったが、中身は非常に濃く、終わる頃には中学生とYCE生とは旧知の仲のように打ち解けていた。最後はサンタクロースの帽子や眼鏡などの小物を使って記念撮影。カメラが向いていない時も自然と笑顔があふれるほど、楽しそうだった。
翌日はいよいよスキー研修だ。しかし、この日は雨。暖冬のため、スキー場でも雨という珍しい天候になったのだ。全国的に雪不足となっている今年度だが、ハチ北スキー場も例外ではない。人工雪で何とか1コース営業している状況だった。それでも見慣れない雪にYCE生たちは大興奮。スキー板を履く前に雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりして楽しんでいた。
クラブがこのスキー研修で気を付けている点は大きく二つある。一つ目はみんなが楽しんで出来ることだ。「疲れたらすぐに休んでいいよ」と声を掛け、スキーが上手くなることだけが目的にならないようにしている。リラックスした雰囲気をつくり、楽しい思い出にしてもらえるよう努めている。また、メンバーやインストラクターも楽しんで出来ることを重視している。楽しく行えない事業は続かないと思っているからだ。
クラブが注意している二つ目は、安全面だ。リラックスした雰囲気の中でも危険なことはしっかりと伝える。YCE生がけがをしないよう注意を払うのは当然だが、一般客をけがさせてしまわないか、気を付けるのも重要なことだ。というのも育ち盛りのYCE生。特に男子に多いが、言い聞かせていてもスピードを出したくなってしまい、板をコントロール出来ないまま危険な滑り方をすることがある。非常に危いなので、そういったことが起こらないように気を配る。また、今年は1コースだけが営業していたので、研修中にあまり広がりすぎないよう、場所を見極めて実施していた。
盛りだくさんの2泊3日。YCE生たちは貴重な経験を得て、再び自分の受け入れ先に戻っていく。メンバーたちにとっても、スキーが全く出来なかったYCE生が自力で山を降りてこられた時の達成感にあふれた顔を見たり、「楽しかった」と笑顔で感謝されたりすることがかけがえのない思い出になっている。今後、YCE生にとって、より年齢の近い高校生との交流なども視野に入れ、更なるパワーアップを図っていく予定だ。
2020.2更新(取材・動画/井原一樹 撮影/関根則夫)