取材リポート 教えて、ライオン先生!
高校生に職業体験を出前

教えて、ライオン先生! 高校生に職業体験を出前

それぞれの仕事に関する知識や経験は、当人にとっては当たり前に感じられても、他者にとっては実に示唆に富んだ知見になり得るもの。これをうまく奉仕事業に取り入れたのが、福井WESTライオンズクラブ(鈴木宏治会長/33人)。メンバーが講師役となって、自身の仕事の一部を高校生に体験してもらう「出前授業」は、業界や職種も多様な経営者が多く集まるライオンズクラブらしさが最大限に生かされた取り組みだ。

11月17日、通算5回目となる出前授業が星槎(せいさ)国際高等学校福井学習センターで行われた。この日行われたのは「そば屋になってみよう」と題したそば打ち体験と、3D技術を実体験する「ものづくりと3D」、そして毎年恒例の「コサージュ作り」の3科目。初めて対面したメンバーと高校生だったが、時間が進むにつれて緊張もほぐれていき、お互いに楽しく実のある時間を過ごせたようだ。

同校は通信制高校であるが、生徒は週に一度、教室のある学習センターに登校する。火曜日は2年生の登校日。2年生の2クラスはこの日、丸一日出前授業を受けることとなる。午前中の1、2限目で、クラスごとにそば打ちと3Dの授業が行われた。

そば打ちの授業をのぞいてみると、そば粉に加水して混ぜ合わせる「水まわし」が行われていた。この「そば屋になってみよう」の授業は今回初めて実施されたもので、実は授業開始の直前まで細かな打ち合わせが行われていた。最大の懸念が、50分間の授業時間内にそばを切ってパックに詰めるまでの工程が終わるのかということ。計算上ではなんとか間に合うが、果たして高校生たちは時間内にそば打ちをやり遂げることが出来るのだろうか。

早い生徒は「水まわし」から「こね」の工程に移っていた。講師役で市内でそば店を営む小寺美代子さんによると、そば打ちで最も大事な工程で、そば粉に水を均一に行き渡らせる必要がある。ここをうまくやらないと、ゆでる時にそばがブチブチと切れてしまう。うまくこねるコツは、両腕に体重をのせ、空気を抜くようにしっかりと練り込むこと。生徒らは2人1組になり、交代でこの作業に当たっていた。

「ものづくりと3D」の教室で講師を務めるのは、自動車のエンジンや変速機といった駆動系の設計に携わるメンバーの松浦慎一さん。まず3D技術が日常でどのように使われているのか例を挙げて説明した後、いよいよ実際に3Dを体験することに。用意されたのは台形の透明なプラスチック板。これを貼り合わせて、簡易的な3Dホログラムの投影装置を作成する。3Dホログラムとは、何もない空間に3次元の立体映像を投影する、SF映画などでもおなじみの技術。設計などものづくりの現場ではもちろん、エンターテインメントの分野やビジネス、教育など幅広い用途での活用が期待されている。

生徒は各自、投影装置を完成させると、スマートフォンやタブレットの上に乗せ、動画投稿サイトにアップされている3Dホログラム用の動画を起ち上げた。上から見ると何も見えないのだが、装置を真横から見ると、不思議なことに台形の中央で映像が浮かび上がった。四つの透明の面それぞれに反射した像が重なることで立体に見える仕組みだが、教室ではそこかしこで小さな歓声が上がっていた。

出前授業が始まったのは、福井WESTライオンズクラブが結成4年目を迎えた頃。青少年を対象にした新規事業を探していた折、星槎国際高校でも、企業と生徒が関わる機会を作りたいと考えていて、双方のニーズがうまく一致した。活動の内容は、初めからライオンズのメンバーが講師として学校へ出向くスタイルで、これまでさまざまな授業を行ってきた。例えば、日本料理店オーナーのメンバーは魚のさばき方を指導、建築会社社長のメンバーが講師の時は木工を体験してもらった。授業中に生徒が作った下駄箱や掲示板、ガーデンの柵などは今も大切に使われている。

授業内容を決めるにはまず、専門性のある仕事に従事するライオンズのメンバーやその知り合いまで対象を広げ、どんな授業が可能かをリストアップ。学校側の要望を聞きながら計画を立てていく。同校の加藤純一センター長は、出前授業を「生徒にとって非常によい経験」と評価する。

「講師役の方は専門分野ということもあって実に簡単そうにこなしますが、同じことを生徒がやるとこれがなかなか難しい。我々教職員には教えられないプロの技術に間近で触れられることを、毎回ありがたく思っています」

出前授業では「生徒が楽しめる」という視点も大切にしている。クラブでこの事業を担当する倉内麻衣さんは、生徒が飽きずに学べるようにするには、授業の流れを事前にしっかり作っておくことも重要だと話す。倉内さんは同校の元教員で、現在も非常勤講師を務めている。
「学校としては、経営者としての視点から生徒に話してもらうことで、生徒の視野を広げるきかっけになることをライオンズに期待しています。ただ、講話だけでは興味を持ってもらえないので、普段出来ない体験をうまく授業の中に取り入れる必要があります。一方、メンバー自身も、普段当たり前のようにやっていることを授業で生徒たちに伝えることを通して、改めて自分の仕事を見つめ直す機会になっているようです」
学校とクラブ両方の立場でこの活動に関わっているからこその言葉である。

午前中の体験が終わると、昼には自分たちで打ったそばの味を確かめる。時間内に終わるか心配されていたそば打ちは、2クラスとも無事にクリア。講師いわく「優秀な仕上がり」となった。メンバーがゆで、湯切りをしたそばを椀に入れてもらった生徒らは、かつおぶしや刻んだネギの他、越前そばの本場らしく大根おろしをトッピングして、打ちたてゆでたてのそばの味を楽しんだ。

昼食後の3限目は2クラス合同でコサージュ作り。講師役のメンバー、北川由美さんが作り方を口頭で説明しながら教室内を回り、生徒たちは適宜アドバイスを受けながら、一人につき二つのコサージュを制作した。グルーガン(樹脂を溶かして接着させる道具)を使って台座に造花などのパーツを貼り付け仕上げていくのだが、立体物とあっていろいろな方向から眺めて出来上がりをイメージしながら手を動かしていた。完成したコサージュは、来春卒業する3年生の胸に飾られることになる。

福井WESTライオンズクラブのメンバーは平均年齢が45歳と若い。そのため、「もっと面白いことをやろう」という意見も活発だという。出前授業のアイデアのネタも尽きない。生徒たちだけではなくライオンズのメンバー自身も楽しく学べる授業を考えて、今後も継続していければと、クラブでは考えている。

2019.12更新(取材・動画/砂山幹博 撮影/宮坂恵津子)