フォーカス
母なる琵琶湖の再生に向け
現場主義で活動を展開
辻ひとみ(滋賀県・近江守山LC)
守山市の住民はもともと水環境に対する意識が高く、1970年代半ばには家庭から出る生活排水を問題視した消費者が中心となり「せっけん運動」が始まりました。77年に琵琶湖に大規模赤潮が発生したことをきっかけに、この運動が拡大。更に全国に先駆けたごみの分別など、さまざまな環境活動が長年行われてきました。
そんな中、83年に守山市の赤野井湾で初めてアオコが発生しました。赤野井湾は守山市を流れる8本の河川が流れ込み、烏丸半島と沖合に設置された消波堤により、非常に閉鎖性が高いエリアとなっていました。以来、赤野井湾は琵琶湖で最も水質が悪化しやすい場所だと言われるようになりました。
そうした状況を改善しようと、婦人会などを中心に市民による環境活動がより一層活発になりました。こうした流れは、阪神・淡路大震災が起こりボランティア元年と呼ばれた95年から加速し、琵琶湖沿岸各地に環境をテーマにした団体が誕生しました。その一つに、96年に設立された滋賀県初の流域協議会「豊穣の郷(さと)」があります。
私もその起ち上げに関わり、赤野井湾の水質改善と豊かな生態系の復元を目指して活動を始めました。ところが、守山市や滋賀県など行政も動き始め、また私たちも含め多くの市民が生活排水への対応や市内を流れる川での活動を行っていたにもかかわらず、赤野井湾の水質がなかなか改善されないという状況が続きました。
そこで、現地に軸足を置いて活動をする方がいいのではないかと考え、賛同する仲間7人で2005年に「夢・びわ湖」という団体を作りました。そして、現地に行ってまず目に付いたのが、ごみの多さでした。そのため、堺川と山賀川の二つの河川が注ぎ、烏丸半島が対岸にあるエリアを活動拠点に、清掃活動から始めることにしました。また、水質調査も併せて実施し、河口付近と、メンバーの中に漁師がいるので沖合まで船で出て独自調査を行うようになりました。
水質調査は4年間実施し、外来植物が繁茂している場所は水質が悪化していることが分かりました。また、この調査を通じて、ハスの生育が水質に影響を与えているのではないかという疑問が湧き、船での調査を継続。ハスの繁茂状況により調査地点を選び、生育に合わせて毎年5月、7月、9月、11月の4回、表層水と湖底水の水質と湖底環境を調査しています。
こうした調査を続けることで、ハスやその他の植物が湖面を埋める場所では水が停滞し、水中のCOD(化学的酸素要求量)と亜硝酸の数値が高くなることが分かりました。更に船による調査で、表層水よりも湖底水の方がCODの値が高いことから、湖底に枯れたハスが堆積しヘドロ化していることが想像出来ました。
このデータを守山市などに提供したところ、11年からは県によるハスの刈り取り除去が行われるようになりました。ハスが刈り取られてしばらくして、すっきりとした湖岸に波が打ち寄せ、小魚が群れるようになりました。その時の光景は今もありありと目に浮かびます。
その後、水質浄化作用があると言われるイケチョウガイを赤野井湾で育てる事業を始めました。イケチョウガイは淡水真珠の母貝となるもので、かつては赤野井湾でも真珠の養殖が盛んに行われていました。それを何とか復活させ、水質浄化に結び付けられないかと考えたのです。
その頃、国内の淡水養殖真珠の発祥地とされる草津市で、真珠養殖の復活を目指して養殖実験中というニュースを目にしていたので、イケチョウガイの生育を始めるに当たっては草津へ行ったり、琵琶湖博物館に行ったり、あちこち回りました。そうこうするうち、彦根にある滋賀県水産試験場で「守山なら浜井清久さんがいらっしゃるでしょ」と言われ、地元で真珠の養殖をされている方がいることを初めて知りました。まさに灯台下暗しでした。
琵琶湖には湖岸の陸側に内湖と呼ばれる小さな湖沼がたくさんあるんですが、浜井さんはその一つ木浜内湖で真珠の養殖をされていました。その道40年の大ベテランで、イケチョウガイを卵から育てており、14年に浜井さんから成貝24枚、稚貝60枚を頂いて、赤野井湾のヨシ原や、かつての真珠養殖棚跡のそば、ハス群生地の3カ所に沈めました。
それから半年以上かけて生育調査をし、きちんとイケチョウガイが赤野井湾で生きられることが確認出来ました。そこで次の段階として、15cm以上に成長した貝に真珠の核となる外套膜を入れて頂きました。既に3年以上経過し、真珠も出来ています。今後はこの活動を軌道に乗せ、水質浄化を含めた琵琶湖再生に向けて、努力を続けていきたいと思っています。
最近では、自分たちだけの活動にとどまらず、前に所属していた豊穣の郷などの環境団体や住民、漁業関係者、行政と一緒になって、外来水生植物のオオバナミズキンバイの除去をするなど、「赤野井湾再生プロジェクト」という取り組みも行っています。また、所属する近江守山ライオンズクラブも活動に賛同してくださり、子どもたちに向けた環境教育を実施したりしています。
ライオンズは毎年、クラブで支援しているボーイスカウト守山第1団とガールスカウト滋賀県第15団の子どもたちと一緒に「BGL例会」という活動を行っています。15年と17年には、環境・自然事業として、漁船に乗せて頂き、琵琶湖の魚や環境などについて学んでもらいました。
こうした活動は夢・びわ湖でも、毎年夏休み中に行っており、湖岸清掃や水質浄化を目的としたイケチョウガイの生育などの活動を地道に続けながら、将来を担う子どもたちにも現状を知ってもらい、琵琶湖の環境問題に関心を持ってもらいたいと願っています。
2019.12更新(取材・構成/鈴木秀晃)