取材リポート 夏休みの思い出は
ずぶ濡れで魚のつかみ取り

夏休みの思い出は ずぶ濡れで魚のつかみ取り

今年も暑い夏がやってきた。子どもたちにとって、夏の外遊びの定番といえば何といっても水遊び。しかし、千葉県の内陸部にある鎌ケ谷市には大きな河川や湖沼がなく、水と触れ合える場所に乏しい。そこで毎年8月の第1日曜日に、鎌ケ谷ライオンズクラブ(森一夫会長/12人)が市内の貝柄山公園内につかの間の巨大プールを出現させる。メンバーが前日に準備したプールをのぞいてみると、深い所で子どもの膝くらいまであり、魚が群れをなして泳いでいるのが確認出来た。もう間もなくすると、子どもたちは元気よく水の中に入って、我先にとその魚を追いかけ回す。待ちに待った「あゆますつかみ取り大会」の始まりだ。

2019年8月4日は快晴。午前7時の時点で28度を超え、水遊びには最適な日曜日となった。貝柄山公園の池のほとりに設営された受付ブースには、大会開始の8時30分までまだ1時間はあるというのに大勢の人が列をなしていた。この催しの人気の高さがうかがえる。

「最初の頃は沿線の電車の車両に中吊り広告を出して告知していましたが、3年目くらいからは、市の広報紙に掲載する他、公園や近隣にポスターを貼り出すだけで人が集まってくれるようになりました」とは、鎌ケ谷ライオンズクラブの森会長。参加者の多くがリピーターだ。つかみ取りの対象は幼児から小学6年生まで。毎年180人近い参加があり、保護者を入れると池の周りには350人ほどが集うことになる。

「鎌ケ谷市内で水辺というと、思い浮かぶのはこの公園の池くらいしかなく、夏休みの水遊びの思い出というのがなかなか出来にくい環境です。ですから年に一度、ここで魚のつかみ取りが出来るということで、子どもたちはもちろん保護者の方々にも喜んで頂けているようです」
と、森会長は振り返る。水遊びだけではなく、魚を手でつかむ機会も提供してきたこの事業は、今回で節目の20年目を迎えた。既に夏の風物詩になりつつあるつかみ取り大会だが、そのルーツは意外にも清掃活動にあった。

千葉県内の水辺を奇麗にすることを目的に、県内のライオンズクラブが「水辺のクリーン作戦」という共通のスローガンを掲げ、新しい取り組みに着手したのは2000年のこと。各所で実にさまざまな水辺の清掃活動が実施された。例えば、千葉市内にある10のライオンズクラブは合同で、市民1500人を巻き込んで稲毛海岸の清掃活動を実施。他にもビオトープを新設して水辺の自然環境復元を目指したクラブや、河原にゴミが捨てられないように草刈りを行ったクラブなどがあり、その地域のニーズに合った活動がいくつも立ち上がった。

都心から25km圏内で私鉄4路線が交差する鎌ケ谷市は、都心へのアクセスが良好でありながら多くの緑が残された町だが、「水辺」での奉仕となるとそれほど選択肢がなく、活動の候補地はすぐに絞られた。鎌ケ谷ライオンズクラブが選んだのは、市の中心部にあり、貝柄山公園にある池の周辺を清掃すると共に、子どもたちに釣りを楽しんでもらうという事業だった。

メンバーは「せせらぎ」と呼ばれる水路にたまったヘドロを取り除き、巨大な農業用のビニールシートをかぶせて板や土嚢でしっかりと囲むと、そこに水を注いで即席の釣り堀を作ってニジマスを放流した。

「竹竿を使って子どもたちに釣りをしてもらったのですが、釣りの経験がない子が多く、糸を絡めたり、釣り針をいろいろな場所に引っかけたりと大変でした」
と、森会長は振り返る。午前中から釣り始めるも正午を過ぎるとぱたりと釣れなくなったため、午後には急きょ、水の中に入っての「ニジマスのつかみ取り大会」へと内容を変更。これが殊の外好評だったため、2回目から今日に至るまで、せせらぎの清掃とつかみ取りのイベントとして継続している。

今年も開催前日に公園に集ったライオンズのメンバーが、水路にたまった1年分のゴミを拾い、ヘドロをさらい、奇麗になったせせらぎにプールを作って、つかみ取り大会当日を迎えた。

開会式の後、つかみ取りのルールが説明された。プールは三つのエリアに分かれ、それぞれ深さが異なっている。せせらぎの上流側と下流側が浅くなっているため、それらは幼児、小学校低学年のエリアとし、深さのある真ん中のエリアには小学校高学年が入る。各エリアに入る人数は20人ずつで、受付の時に胸につけた名札の色で自分の順番が分かるようになっている。1回に入る時間は10分間。最初の10分間では1匹捕まえたら陸に上がり、2回目は何匹捕まえてもOKというのがルール。ただし、持ち帰れるのは一人2匹まで。一人でたくさん捕まえることが出来る子がいる一方で、どうしてもうまく捕まえられない子もいるので、公平を期してこのようなルールを設定した。もし捕まえられなくても、一人につき1匹は持ち帰ってもらう。

つかみ取り開始の合図は地元の匠太鼓。小気味よい和太鼓のリズムが子どもたちのやる気を呼び起こすようで、なかなか雰囲気のある演出だ。この日放流された魚は、アユ250匹とニジマス約100匹。大会を始めた頃はニジマスだけだったが、途中からアユも加えた。身体が大きく目立つニジマスの方が捕まえやすいが、アユは元気よく素早く動くので面白いようだ。勘の良い子は、魚を浅い方へと追い込み動きを封じて捕まえていたが、慣れない子はなかなか捕まえられない。そんな子が多いと見ると、会員たちがプールの水を少し抜いて、水深を浅くするなど調整していた。

開会式から1時間30分ほどで、おおかたの魚が捕り尽くされた。うまく逃げおおせた魚は一カ所に集め、じゃんけんで勝った子に配って、今年の「あゆますつかみ取り大会」は幕を閉じた。これまで20年近くにわたり同じスタイルで続けてきたが、実は昨年から新たな試みを始めているという。

「昨年から、参加したお子さんの保護者の方々にも協力してもらおうと、プールの設置や撤去のボランティアをお願いしています。何人かが申し出て作業を手伝ってくれて『来年もよろしくお願いします』と言って頂けたのはうれしかったですね」(森会長)

今年も、前日と当日にそれぞれ20人ずつボランティア・スタッフを募った他、地元のボーイスカウトが大勢参加して運営を手伝ってくれた。「ライオンズ主催」としてクラブが前面に出るより、地域の人たちに「自分たちのイベント」と思ってもらえるようになればいいと、鎌ケ谷ライオンズクラブのメンバーは口をそろえる。鎌ケ谷、夏の風物詩「あゆますつかみ取り大会」は次のステージへと歩みを進めている。

2019.09更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)