取材リポート 年10回超の施設訪問をする
結成47年のホットな楽団

年10回超の施設訪問をする結成47年のホットな楽団

東海道五十三次第37番目の宿場町・藤川宿。江戸まで78里、京まで48里の藤川宿には、1kmほど続く松並木がある。ここは岡崎市の天然記念物に指定されており、夜になると白御影石の足元灯に明かりがともり、ほのぼのとした雰囲気を醸し出す。松並木一帯はいつも奇麗に整備されているが、これは近くにある障害者支援施設「藤花荘(とうかそう)」の利用者が、ボランティアで草刈りや清掃などをしているためだ。

藤花荘は「愛するものは愛される」を理念とする社会福祉法人愛知玉葉会の入所型施設で、現在、約90人の利用者が入所。日中は果樹園芸班、クリーン班、洗濯班、手芸班、絵画陶芸班の五つの班に分かれて作業をしている。特に絵画陶芸班は県内でも知られた存在で、定期的に開かれる作品展も注目されており、藤花荘出身の作家も何人かいる。

7月7日、その藤花荘で、恒例の七夕まつりが開催された。まつりには、岡崎南ライオンズクラブ(太田利男会長/103人)のメンバーらで構成される「楽団ホットアンサンブル&スイートハート」が出演。施設利用者と一緒に歌ったり踊ったり、楽しい時間を過ごした。

楽団ホットアンサンブルが藤花荘の七夕まつりに出演するようになったのは1983年。35回目の訪問演奏となった今年のふれあいコンサートには楽団員やサポート担当委員会のメンバー、賛助出演者ら12人が参加。オープニングの「上を向いて歩こう」からエンディングの「好きになった人」まで、20分ほどの休憩を挟んで延べ1時間10分で16曲を熱演した。

ホットアンサンブルは72年、音楽好きのライオンズ会員7人が集まって結成。当初はクラブの懇親会など内々で演奏していた。音楽好きというキーワードだけで集まったため、7人の担当は大正琴、オルガン、アコーディオン、ピアノ、ギター、バイオリン、ドラムという、ちょっと風変わりな編成。が、やがてパーカッションが加わり、テナーサックスが加わって、だいぶバンドらしくなった。特にサックスの安藤靖男さんは外部からの助っ人参加だったが、進駐軍時代から30年、名古屋を中心に活躍した元プロのジャズミュージシャンで、その指導によりバンドのスキルは格段に向上した。

その頃から、他のライオンズクラブや福祉施設から出演依頼が入るようになった。音楽好きでサービス精神旺盛なメンバーたちはそれに全て応え、出前演奏に取り組んだ。その結果、年間出演回数は軽く20回を超え、超売れっ子バンドへと変貌を遂げた。訪問先は児童養護施設、高齢者施設、知的障害者施設、医療刑務所など、福祉関係のものはほとんど網羅。頼まれればイヤとは言えない、文字通りホットなバンドとして活動を続けた。

当然、周囲からの評価もうなぎのぼり。89年には愛知県知事特別表彰、95年厚生大臣表彰、96年法務大臣感謝状など数々の賞を受賞。そして2009年秋の叙勲で、「自ら進んで社会に奉仕する活動に従事し徳行顕著なる者」に授与される緑綬褒章を受け、皇居に参内して天皇陛下に拝謁した。更に同年7月にアメリカ・ミネアポリスで開催されたライオンズクラブ国際大会で、「特に優れた奉仕活動を行ったクラブ」として、世界4万5000クラブの中から岡崎南ライオンズクラブの楽団ホットアンサンブルが、クラブ奉仕事業のカテゴリーで入賞を果たした。

ホットアンサンブルの特色は、自分たちが前面に出るのではなく、訪問先の人たちの伴奏に徹するところにある。今回の藤花荘でもそうだが、他の障害者施設や高年者センター、医療刑務所でも、全て主役は訪問先の人たち。自分たちは奉仕活動として、いわゆる生オケバンドを務めている。

もちろん、歌い手次第なので、どんな曲でもこなさなくてはいけない。童謡、民謡、演歌はもちろん、J-POPからジャニーズ系まで、訪問先に合わせてなんでもこいの世界。岡崎市社会福祉協議会ボランティアセンターに登録されている情報によると、「譜面さえあればどんな曲でもOK。特に演歌は得意」とあり、ただし「譜面調達や練習期間が必要なため、実施2カ月前の申し込みが必要」となっている。

一つの施設を訪問するには最低5〜6回は譜面合わせと練習をする。そのため年間を通して毎週日曜日の午後6時から3時間、地域の公民館で練習を重ねている。指導は現在、安藤さんに代わって音楽療法士でもある近藤和子さんが担当。実際のステージにも同行して、仮に歌い手がかなり調子っぱずれであっても、すぐにテンポを調整して楽団員をリードしてくれる。

また、ホットアンサンブルの演奏には毎回、専用のボーカル・グループ「スイートハート」も同道する。こちらも結成されて既に三十数年になるが、楽団員の一人が役員をしていたPTAで一緒になり、その活動を通して意気投合しスカウトされたのがきっかけ。以来、メンバーの入れ替えはあったが、現在は4人の女性が参加し、施設訪問では歌うだけでなく利用者の人たちと直接触れ合うなど、大きな役割を担ってくれている。

現在、ホットアンサンブル&スイートハートは12人のメンバーで編成されている。リーダーでキーボードの杉浦民扶さん、ベースギターの木野瀬清隆さん、キーボードの近藤信行さん、ドラムの石坂利明さんが楽器担当。この4人に加えボーカルや司会を担当する佐々木保明さん、渡邊征勝さん、石原道広さんの3人が岡崎南ライオンズクラブの会員だ。またステージのある日は、母体である岡崎南ライオンズクラブの各種委員会が手分けして、楽器とPAの搬出入やステージのセッティングと撤去などを手伝ったり、時にはにわか歌手を務めたりしている。

「それぞれの施設では、年1回の音楽訪問をとても心待ちにしてくださっています。我々の演奏で楽しそうに歌われたり、踊られたりする姿を後ろから拝見し、更にそれをご家族がうれしそうにご覧になっている様子を目にすると、この活動をしていてほんとうに良かったと思います」
と、キーボードの近藤さん。

そして、それをサポートする岡崎南ライオンズクラブの太田会長も、
「年間10回以上の施設訪問のサポートだったり、練習場所の使用料負担もあったりしますが、楽団員の情熱に応えるため、クラブでも毎年担当委員会を割り振って継続支援しています。何よりも訪問先の方たちの笑顔が原動力となって、皆が協力して続けてこられたのだと思います。今後も多くの人たちの笑顔を楽しみに活動をしていってほしいですね」
と話していた。

2019.08更新(取材・動画/鈴木秀晃 写真/宮坂恵津子)