取材リポート 人を、街を豊かにする
夕方からの健康診断

人を、街を豊かにする 夕方からの健康診断

例えば、店舗を構えている個人事業主にとって、昼間に仕事を中断して外へ出掛けるのはなかなか困難なことだ。それが健康を維持する健康診断のためだとしても、勤務時間内に受診するとなると、事業所にとっても従業員にとっても多少の負担になってしまう。そんな状況に着目したのが、秩父中央ライオンズクラブ(武藤芳行会長/45人)。受付時間を午後5時半〜7時半に設定した健康診断「成人病予防推進キャンペーン」を、1993年から行っている。仕事が終わってから気兼ねなく検診が受けられるとあって、年々受診者が増加。当初は年に1回、2日間のペースで行っていたが、6年目からは年に2回、合計5日間の開催となり、今では年間の受診者が600人を超える。25年目を迎えた昨年、受診者数は延べ1万人を超えた。49回目となった今年の春の健診は4月17日から19日の3日間、今回初めてとなる秩父宮記念市民会館を会場に行われた。

受付開始までまだ30分もあるというのに、会場には人が集まり始めていた。そろいのジャンパーを身にまとったライオンズのメンバーが健診に来た人たちを待合席に案内していると、程なくして2台の検診車も到着した。

「これまで市内のいろいろな場所を会場に健診を行ってきましたが、2年前に出来たのこの市民会館は新しくて駐車場も広い。検診車が2台停まった状態でも、駐車場には受診者が車で来られるだけの十分なキャパシティがあります。メインの健診会場と、主に胸部エックス線検査を行う検診車との間の動線もスムーズで、健診を行うにはうってつけの場所です」
クラブ結成時のメンバーの一人で、この活動の経緯をよく知る島田佳宣さんは、そう話す。というのも、これまで使用した会場では、駐車場確保が常に問題になっていたからだ。また、例えば聴力の検査は密閉された静かな部屋で行う必要があり、そうした点でも、今回の会場は設備が整っている。

この健診チームの母体は、秩父中央ライオンズクラブの栗原俊雄さんが経営する検査実施機関の臨床医学研究所だ。クラブには他に、医師のメンバーが2人いたこともあり、この健診事業が始まった。夕刻からの健康診断は、今では地域になくてはならない取り組みに成長しているが、始まりは意外にも「クラブの活動資金獲得をどうするか」という試行錯誤に端を発している。

ライオンズクラブの活動には「クラブが計画して実行する資金獲得事業によってつくり出される資金が充てられる」というのが基本だが、実際はクラブ・メンバーのポケットマネーに頼ることも少なくない。秩父中央ライオンズクラブでは元々、バザーとダンス・パーティーで資金を集めていたが、慢性的にメンバーの負担が大きくなっていた。

「バザーを行うにしても、当時はあちらこちらで開催されていたので、どの家庭も提供する品物が不足していました。あるメンバーは仕方なく1万円で商品を購入し、それをバザーに出して3000円で売るというような不合理な方法を取っていました。ダンス・パーティーでも、メンバーに課せられるパーティー券が売れず、結局メンバー本人がその分を負担して券を無料で配るという事態が続いていました」(島田さん)

そんな状況を良しとしないクラブでは、メンバーに金銭的な負担を掛けない資金獲得事業を模索し始めた。いくつか試してみた中には、感触の良いものもあった。子どもの血液型が分からない保護者のために手軽に血液型を判定出来るキャンペーンや、成人を対象とした簡単に判別出来る糖尿病判定キットの販売といった医療系の事業は好評で、どちらも栗原さんの協力の下で実現している。これらの成功をヒントに、より多くの人に利用してもらえる健康診断の取り組みが誕生した。

秩父中央ライオンズクラブが提供する健康診断は、一般的な人間ドックに引けを取らない検査項目の多さが特長だ。希望すればオプションでがん検査である腫瘍マーカーが受けられる点も評価されている。現在は、秩父郡市医師会の協力も得て、検査後に健康管理の専門医を派遣するアフターフォローも行えるほどの手厚いものとなっている。実際、この健診で早期にがんを発見して早めに治療することが出来たというケースもあった。「少なからず地域の人たちのためになっていると思う」とクラブ・メンバーは口をそろえる。
 

健診機関の協力を受けつつ、会場借用の手続きや開催の案内配布といった事前準備から、会場設営、当日の駐車場誘導、受付や案内、受診項目のチェックまで運営面をライオンズクラブのメンバーが担うことで、料金を相場よりかなり安めに設定していることも、大きな魅力となっている。健診実施の告知は前回受診した人へ案内を発送するだけだが、申し込みは口コミで年々増加。しかも受診者の8〜9割がリピーターとなっているため、バザーやダンス・パーティーで資金を調達していた時に比べて安定した収入を確保出来ている。
 
獲得した資金は「地域を巻き込み共に活動する」ことをモットーとするクラブのさまざまな事業に活用し、秩父の街に還元している。日本三大曳山祭りの一つで、秩父の冬の夜を彩る秩父夜祭の会場に、特大のゴミ箱を設置するクリーン・キャンペーンや、今年12月に34回目を迎える継続事業の市民音楽祭が毎年つつがなく実施されているのも、健診による事業資金で原資が確保出来ているためだ。

地域の人々に必要とされている健診が街の役に立つ活動の資金を生み出し、クラブとしても費用面で疲弊することなく楽しく活動出来ている。市民の健康を守りながら、奉仕活動の好循環が働いている。

2019.06更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)