テーマ
食を通じて献血を推進する
献血女子会クッキング
千葉ゆうきのライオンズクラブ
#人道支援
病気やけがの治療のために輸血や血液製剤を必要とする人は、国内で1日約3000人に上る。献血の受け入れから検査、製造を経て、必要とする人へ輸血用血液を届けるのが、日本赤十字社(日赤)による血液事業だ。命に直結する血液事業は、人々の善意の献血で支えられているが、少子高齢社会の到来で大きな課題に直面しているという。
日本の高齢化率は2036年には33.3%に達して国民の3人に1人が65歳以上の高齢者になると推定されている(平成30年版高齢社会白書)。輸血用血液製剤や血しょう分画製剤の多くは高齢者医療に使われており、今後更に需要が高まることが予想される。その一方で、10~30代の若年層の献血者数は過去10年間で31%減少した。将来も安定した供給を続けるために、若い世代に献血への理解と協力を広めることが急務となっているのだ。
日本のライオンズクラブは常に献血推進の先頭に立って、献身的な活動を続けてきた。全国の多くのクラブが街頭で市民に献血を呼び掛け、協力者に記念品を贈るなどの支援を行っている。そうした中、女性クラブらしい独自の視点で献血推進に取り組むのが、千葉ゆうきのライオンズクラブ(関根政子会長/20人)。同クラブは7年前から日赤千葉県支部、成田赤十字病院、千葉県赤十字血液センターと共同で「献血女子会クッキング」を開催している。若い女性たちを対象に、食を通じて献血が出来る健康な体づくりを後押ししようという会だ。
2017年度、千葉県内で献血の申し込みをした人の中で、採血基準を満たさずに献血が出来なかった人は約14%を占めた。このうち6割は血色素量(ヘモグロビン)が基準より低い人、すなわち貧血の人で、女性が8割を占めている。貧血のほとんどは、ヘモグロビンの成分である鉄の不足による鉄欠乏性貧血だ。女性はもともと鉄不足になりやすいのに加え、無理なダイエットなどによる食生活の乱れが貧血の一因だと考えられる。
千葉ゆうきのライオンズクラブは年に数回、献血バスの出動に合わせて献血協力の呼び掛けを行っている。その際、貧血を理由に献血出来ない女性がたくさんいることを知った。献血女子会クッキングのアイデアが生まれたきっかけを、同クラブの関根会長は次のように説明する。
「せっかく献血の意思がありながら協力出来ないということで、本人にとっても残念だし、私たちもとても残念な思いをしました。何か自分たちに出来ることはないかとクラブ内で話し合い、まずは日々の食事が大事だよね、ということから企画したのが献血女子会クッキングです。貧血予防に効果のある食材を使った料理を作り、それを日常の食生活にも取り入れてもらえれば、献血が出来る健康な体になって頂けるのではないかと考えました」
看護師である関根会長は、貧血は何も女性だけの問題ではないと話す。食生活の乱れや偏食によって、成長期の中学生、高校生の男子にも栄養失調や貧血が増えているというのだ。献血女子会クッキングの参加者の多くは、20代から40代の女性たち。母親世代に貧血予防の知識を身につけてもらうことは、ひいては次世代の健康な体づくりにもつながっていくはずだ。
今年で7回目となった献血女子会クッキングは1月19日、千葉市生涯学習センターの食文化研修室で開催された。参加者の募集は日赤千葉県支部のウェブサイト上での告知や、複数回献血クラブの登録者へEメールで案内する方法で行っている。そのため、参加者には普段から献血に協力している人が多かったが、会の趣旨を知って、貧血に悩む友人を誘って参加したという人も複数いた。会場の収容人数の制限により、今回の募集定員は20人。参加者には食材費と保険料を含む参加費として1人500円を負担してもらった。
この日のメニューは「抹茶と小豆のスコーン&きな粉クリーム」と「豆乳ココアのパンナコッタ」。鉄分の多い抹茶やきな粉、小豆、ココア、黒糖などの食材を使った2種類のデザート・メニューは、和洋女子大学で栄養学を学ぶ学生が中心となって考案した。同大学のボランティア部は発足当初から献血推進に熱心に取り組み、3年前には千葉県学生献血推進協議会とのコラボレーションで、貧血を防ぐメニューのレシピを千葉県赤十字血液センターに提供する活動をスタート。「新・貧血を防ぐメニュー」として、現在までに24のレシピが千葉県赤十字血液センターのウェブサイトなどで紹介されている。
開会後はまず、成田赤十字病院の栄養課長で管理栄養士の高師さち子さんによる健康と食事、栄養に関する講義。貧血予防のポイント、鉄分やビタミンの効果的な摂取の仕方などが説明され、参加者はメモを取りながら熱心に耳を傾けた。続いて和洋女子大学ボランティア部の学生がレシピのポイントを説明しながらデモンストレーションを行い、六つのグループに分かれて調理実習をスタート。材料の計量や道具類は開会前にライオンズのメンバーと学生たちが準備しておいたこともあり、参加者は手際良く調理を進めていった。パンナコッタを冷蔵庫に、スコーンをオーブンに入れたら、待ち時間を利用して再び講義。千葉県赤十字血液センターの大屋秀人さんから、血液の働きや、献血がどのようにして治療に生かされているかなど「血液まめ知識」の話を聞いた。
講義が終わったら、パンナコッタとスコーンにクリームを添え、イチゴを飾って完成。参加者とライオンズ・メンバー、学生が一緒にテーブルを囲んで2種類のデザートを味わった。どちらのメニューも手軽に作れておいしいと大好評。「貧血に効く食材と言えばホウレン草やレバーのイメージだったので、デザート・メニューは意外だった」と言う参加者もいた。また、母親が貧血気味なので参加したという人は「これなら小さな子も喜びそうなので、家で子どもたちに作ってあげたい」と話していた。各テーブルでは参加者から学生に「普段のお料理でも白砂糖の代わりに黒糖を使えばいいの?」という質問が飛んだり、貧血に関する悩みを語り合ったりと会話が弾んだ。
千葉ゆうきのライオンズクラブはこの献血女子会クッキングの前にも、社会のニーズを的確に捉えた企画で、日赤千葉県支部との共同事業を行っている。1998年にスタートし、年2回のペースで開催した「パパ・ママのための赤十字救急法スクール」だ。核家族化が進み、身近に頼れる人がいないために、緊急時の対応に不安を抱く若い親が増えていることに着目し、講習会を企画した。クラブはチャリティー・ディナーショーの収益金を心肺蘇生法訓練用人形ベビーアンの購入費用として日赤千葉県支部に寄贈。スクール当日は会場に臨時の託児所を開き、乳幼児を持つ親が参加しやすいようにした。この企画は大きな反響を呼び、やがて県内各地で日赤のボランティアが同様の講習会を開くようになったことから、クラブは役目を果たしたと判断して手を引いた。これに替わる新企画としてクラブが日赤に提案したのが、献血女子会クッキングだった。
第1回の献血女子会クッキングは、ベイエリアのホテルを会場に開催し、地元FM局や千葉ロッテマリーンズの協力を得て華々しいスタートを切った。試食会にマリーンズの選手がゲスト参加したこともあり、ファンの女性を中心に定員を大幅に超える参加申し込みがあった。会は大盛況となったものの、肝心の献血に対する関心が薄かったことや、講師がホテルの料理人だったためにレシピが家庭向きではなかったこと、設備の関係で参加者による実習が出来なかったことなど多くの反省があった。そうした反省点を踏まえて、クラブは回を重ねるごとに内容の見直しを行ってきた。この事業を担当する市民教育委員会の石毛直美委員長は、今回の企画についてこう振り返る。
「前回まで3回は日赤の災害救護のスタッフが担当して、炊き出し用の食材や調理器具を使って非常時でもおいしく栄養価の高い食事を作る方法を学んでもらいました。それも大切なことですが、重点が災害救護の方に傾いてしまった。そこで今回は本来の目的である貧血予防を中心に軌道修正しました。調理実習が出来るように厨房設備のある会場を確保し、初めて大学生ボランティアの協力参加を得て行うことにしました」
その新たな試みを成功させるべく、開催日の1カ月前には和洋女子大学の調理室に日赤のスタッフとライオンズのメンバー、学生が集まってリハーサルを行い、実際に調理を行いながら進行や作業手順を念入りに確認した。そのかいあって会の進行は円滑に進み、調理中も試食タイムも会場には明るい笑い声が響いていた。会の最後には、関根会長が「今日学んだことを普段の生活に取り入れ、貧血のない健康な体になって、献血への協力をよろしくお願いします」と呼び掛け、和やかな女子会は終了した。
2019.03更新(取材/河村智子 写真・動画/田中勝明)