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第3回ライオンズクエスト・
フォーラム全国大会
337複合地区
2月8日、9日の両日、福岡県春日市において、ライオンズクエスト・フォーラム全国大会 in 福岡(大会委員長:佐藤宜之元国際理事)が開催された。九州・沖縄のライオンズクラブで構成される337複合地区(識名安信議長)が主催し、全国各地から約520人のライオンズ会員及び教育関係者が参加した。全国規模のライオンズクエスト・フォーラムは、2013年8月に富山昭和ライオンズクラブが、結成30周年記念事業として開催したのが最初。その後15年8月に、第2回全国フォーラムが栃木県佐野市で、333-B(栃木県)、333-C(千葉県)両地区の主催により開催されており、今回が3回目となる。
ライオンズクエストは青少年の生きる力を育むことを目的としており、今日、世界中で最も広く活用されているライフスキル教育プログラムと言われている。スタートは1975年。アメリカ・オハイオ州に住む19歳の若者が抱いた「なぜ学校では人生の困難に対処する方法を教えてくれないのだろう」という疑問がきっかけだった。その若者リック・リトルは答えを探して全米各地を歩き、10代の青少年や教師、専門家などに話を聞いて回った。そして77年、ケロッグ財団から13万ドルの交付金を得て、クエスト・インターナショナルを設立、プログラムの開発に取り組んだ。
ライオンズクラブが関わるようになったのは84年、ライオンズクラブ国際財団(LCIF)が交付金を提供すると共に、世界各地のクラブが普及活動に乗り出し、プログラムの国際化が進展。プログラムはライオンズクエストと呼ばれるようになった。更に02年にはLCIFがプログラムの所有権を正式に取得。17年現在、ライオンズクエストはおよそ100カ国で実施され、60万人以上の教育関係者がワークショップを受講、1400万人以上の児童・生徒がプログラムに基づく授業を受けるなど、ライオンズの主要な青少年プログラムとなっている。
今回のフォーラムでは、初日に春日市ふれあい文化センターにおいて分科会とパネル・ディスカッション、2日目には春日市立須玖(すぐ)小学校において公開授業などが行われた。初日の分科会では九州・沖縄でのプログラム活用事例9例が紹介され、その後行われたパネル・ディスカッションには、ライオンズクエストの導入に関わった教育関係者や、プログラムに精通したライオンズ会員が登壇して、それぞれ意見を開陳した。2日目は篠田康人ライオンズクエスト認定講師による講演の後、通常のライオンズクエスト公開授業と、須玖小学校独自の授業案である道徳クエストの公開授業が行われた。
初日の開会セレモニーで開会宣言を行った識名議長は、
「このところ連日、10歳の女の子が父親の虐待により亡くなったことが報道されていますが、これまでにも同じような事件がありました。悲劇の連鎖を断ち切るためには地域、学校、行政、我々ライオンズクラブが連帯して取り組む必要があります。世界最初のフリースクールであるサマーヒル・スクールの創立者A・S・ニイルは『愛の反対は無関心』と言いました。我々は決して無関心であってはいけないのです」
と述べ、地域の子どもたちが生きる力を学びながら健やかに育っていく手伝いをするため、ここで学んだことを地域に帰って実践してほしい、と呼び掛けた。
その後の分科会では、各会場とも多くの参加者が詰め掛け、熱心に発表に聞き入り、メモを取る姿が見られた。そのうち、「聴覚特別支援学校での活用」と題した分科会では、福岡聴覚特別支援学校と、久留米聴覚特別支援学校の教諭による現場からの報告が行われた。福岡聴覚特別支援学校では、中学部は生徒数の関係もあって3年間同じ学級、年度によっては小学部から9年間同じクラスということもある。すると、学級内の役割がマンネリ化し、リーダーも固定してしまう傾向が見られるという。そんな中、ライオンズクエストのワークショップを受けてきた、ある教師がプログラムの導入を提案した。
「最初、教員の反応は半信半疑という感じでした。が、その先生があまりに熱心なので、試しに一度授業をしてもらったところ、生徒たちがきゃっきゃ言って話し合ってるわけです。あれ? この子たちが、こんなに生き生きと話し合うことってあったっけ、と。更に授業後には、多様な意見を認め合うような感想も聞かれました。そこでワークショップを受講し、本格的に導入してみると、自分の考えが認められることで相手の考えも認める、安心して意見が発表出来る、そういう学級環境に変わってきました。しかも、他の授業や学校生活全般でも変化が見られるようになり、こんなすごいこと黙っていられないと、校内はもとより九州地区の障害教育研究会で実践報告をしたり、公開授業をしたりする中、今ではいくつかの特別支援学校に波及しています。ライオンズクエストは全職員と全生徒で取り組むのがいいところで、だからこそ結果が出るんだと思います」(福岡聴覚特別支援学校・天野秀紀教諭)
久留米聴覚特別支援学校では、その流れを受けながら、道徳教育の中で取り組む福岡聴覚特別支援学校とは異なり、特別支援学校特有の領域「自立活動」の中に取り入れている。この日、事例発表を行った鹿田祥子教諭は、幼児から中学生まで一貫した教育プログラムというのがなかなかない中、ライオンズクエストは「困難を主体的に改善・克服するために必要な生きる力を養う」という障害児教育における自立活動に適したプログラムだと思う、と話した。
各分科会終了後に行われたパネル・ディスカッションでは、宮古市立教育研究所の田場秀樹所長、337-A地区(福岡県)ライオンズクエスト・アドバイザーで春日市立須玖小学校の小宮都賀最元校長、福岡市立八田小学校の横田秀策校長、全国認定こども園連絡協議会副会長でもある渕野二三世337-B地区(大分県・宮崎県)元地区ガバナー(大分ライオンズクラブ)、ライオンズクエスト・プログラム説明員を務める設楽幸子331-A地区(北海道・道央)FWTコーディネーター(札幌西ライオンズクラブ)がパネリストを務め、LCIFライオンズクエスト交付金プロジェクト・コーディネーターの本田洋大会実行委員長(鹿児島さつまライオンズクラブ)がコーディネーターとなって、それぞれの立場や経験を踏まえた意見が発表された。
「今までは均質的な社会で、学校も同じ教室、同じ人数で同じ教育を受けるのが当たり前だった。これはモノづくりと同じ考え、品質管理の理論。が、今は人と違うことをアピールする必要がある。ライオンズクエストはそのためのスキルがパッケージ化されている。最近では文部科学省がアクティブラーニングを推奨しているが、人材開発で有名な中原淳立教大学教授は『アクティブラーニングは世直しだ。世の中を変えるためにはアクティブラーニングしかない』と言っている。ライオンズクエストはある意味で、世直しにつながるプログラムだと思う」(横田校長)
「幼児教育の現場で言われているのが、非認知能力。コミュニケーション、問題解決、自主自立、生きる力を身に付けさせることが求められている。そういう意味で、自分が経営する認定こども園に幼稚園版ライオンズクエストを導入してから、プログラムの有効性をとても実感している」(渕野元地区ガバナー)
「キャリアコンサルティングの資格を持ち、人材育成の仕事をしている。331-A地区は約14年前にライオンズクエストを導入し、私もその初期段階でワークショップを受講した。まさに目から鱗(うろこ)。普段、私たちが人材育成の中でやっていることが全て網羅されていた。最近は、心の土台とも言える非認知能力を持たない方々が多い。人材育成の場でもPlan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返すPDCAサイクルが取り上げられるが、ライオンズクエストにもよく似た手法が使われており、これを繰り返すことによって人間力の向上につながると思う」(設楽コーディネーター)
翌日は会場を春日市立須玖小学校に移して行われ、篠田康人ライオンズクエスト認定講師の講演に続いて、同小全学年でライオンズクエスト(45分授業)と道徳クエスト(4〜6年のみ60分授業)の公開授業が行われた。須玖小学校は2012年からプログラムを導入しており、その後、各学年10時間のカリキュラムを作成すると共に、道徳とライオンズクエストを融合させた須玖小オリジナルの授業案も作り、17年の2学期から実践している。公開授業の見学者は約200人。それぞれ自分の地区で導入活動に携わっていたり、既にプログラムを推進したりしているライオンズ会員や教育関係者が中心だったため、地元での実践活動を想定しながらの見学となったようだ。
2019.02更新(取材/鈴木秀晃)
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