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サンタチャレンジ開催

松山のサンタが集結 サンタチャレンジ開催

四国最大の都市である愛媛県松山市。松平定平が居城とした松山城を中心とした城下町として発展してきたこの町は、道後温泉で知られるように温泉地でもある。正岡子規や種田山頭火、夏目漱石など、松山ゆかりの作家、俳人も多く、文学の町としても知られており、坂の上の雲ミュージアムや子規記念博物館など文化的な施設が多い。また、20世紀初頭から町中を走る路面電車があり、多くの人が利用している。2001年には松山を舞台にした夏目漱石の小説『坊っちゃん』の名前を冠した坊っちゃん列車がかつての蒸気機関車を模した形で復元され、観光客の人気も高い。

12月9日、そんな松山市の中心地をサンタクロースの格好をした人々がパレードしていた。これは松山城山ライオンズクラブ(大澤晃会長/43人)の主催する「サンタチャレンジ」の参加者たち。6回目となる今回は約200人が参加した。

松山城山ライオンズクラブは以前から愛媛県立しげのぶ特別支援学校にクリスマス・プレゼントを贈っていた。現在は東温市田窪にあるしげのぶ特別支援学校だが、かつては松山市に分校があり、その縁で支援が始まり、毎年の継続事業として実施していた。

そんな中、松山城山ライオンズクラブの事務局員が大阪で「サンタラン」というイベントを目にした。サンタランはイギリス・エディンバラのイベントを元に「OSAKAあかるクラブ」が主催するもの。2009年からスタートし、サンタの格好で走る(歩くのも可)イベントで、参加費の一部が、大阪大学医学部附属病院小児医療センターを始めとした病院で病気と戦っている子どもたちへのクリスマス・プレゼントの購入代金として使われている。もともと、エディンバラのサンタランは集まったお金を慈善団体の運営資金にしているが、日本では分かりやすさもあり、クリスマス・プレゼントという形にしている。

イギリスは寄付の文化が人々の生活の中に根付いており、チャリティー・イベントも多く開催されている。ロックバンドのクイーンを題材とした2018年の映画「ボヘミアン・ラプソディ」のクライマックスで再現され、話題となっている1985年の「ライブエイド」もロンドン郊外のウェンブリー・スタジアムで行われた世界最大規模のチャリティー・イベントだ。このコンサートはアフリカの飢餓救済を目的とし、1億ドル以上の寄付金が集まった。市民が参加するイベントとしては前述のサンタランに加え、奇数年に行われる「レッド・ノーズ・デイ」が有名。このイベントでは参加者がピエロのような赤鼻を買い、それを鼻に付けて町を歩く。赤鼻の収益はイギリスとアフリカの慈善団体が運営資金とし、飢餓や家庭内暴力など社会問題によって苦しんでいる人々への支援として使われている。

また、世界各地で行われているサンタランは方式もさまざま。ラスベガスで行われているものは2015年に9000人を集めた。ユニークなもので言えば、青い服のサンタクロースが出現するイギリス・リバプールの「サンタダッシュ」がある。リバプールを拠点としている二つのサッカーチーム、赤いチームカラーのリバプールFCと青いチームカラーのエバートンFCはライバル関係。エバートンのファンはライバルのリバプールのチームカラーを着ることが我慢出来ないようだ。だが、チャリティーのためなら一緒にイベントを盛り上げるというから、イギリスではチャリティーが文化としていかに根付いているかが感じられるだろう。

愛媛のゆるキャラも集まり、イベントを盛り上げる

大阪のサンタランを見た事務局員が、松山城山ライオンズクラブでも同じようなイベントが出来ないかと当時の会長に話したのが、サンタチャレンジの開催のきっかけとなった。当時の会長はちょうど、クリスマス・プレゼントを贈るというチャリティー事業をクラブだけで行うのではなく、一般の人を巻き込んで出来ないかと考えていたところだったため、早速実施に向けて動き出した。

大阪のサンタランは大手企業の協賛もあり、大きなイベントだ。単独のライオンズクラブが実施するには規模が大きすぎる。だが、工夫をすれば、町中をサンタの格好をして練り歩き、参加費をクリスマス・プレゼントの購入費にするというイベントのコアの部分は実現が可能に思えた。そこで、他のイベントなども参考にしつつ、クラブの身の丈に合った形での実施を目指した。

こうして2013年の12月1日、第1回目のサンタチャレンジが開催された。集まったのは150人ほど。そこから徐々に規模を拡大しつつ、継続している。2016年にはライオンズクラブ国際協会創設100周年記念事業の一環として1リジョンでの合同事業として実施し、それを機にプレゼントの贈呈先を愛媛県の特別支援学校5校にした。以降、単一クラブでの実施に戻った昨年からも5校にプレゼントを贈呈している。

クラブが大事にしているのは、一般の方の参加するチャリティーであるということ。一般の方はなかなか普段の生活で慈善活動に触れる機会は少ない。そんな中で気軽にチャリティー活動が出来、かつ自分たちが楽しめるイベントとしてサンタチャレンジに参加してもらえればと思っている。サンタチャレンジを通して他のチャリティー・イベントにも興味を持ってもらったり、特別支援学校のことを考えたりするきっかけになり、そして同時に町おこしになるようなイベントを目指している。

パレードルートとなる商店街は当初、イベントにあまり関心を示していなかったが、毎年実施するにつれて、どんどん協力してくれるようになった。今では途中に撮影ブースを設けるなど、一緒にイベントを盛り上げてくれている。地元のコーラスグループにクリスマスソングを歌ってもらうなど、地元に密着したイベントになってきている。

パレードの先頭ではサンタチャレンジの参加費が特別支援学校のクリスマス・プレゼント購入に使われることや、SNSでの拡散を呼び掛けるパネルを参加者に代わる代わる持ってもらい、町の人に趣旨や存在をアピール。参加者はクラブが用意したお菓子を配ったり一緒に写真を撮ったりと道行く人を巻き込んで楽しんでいた。

クラブでは参加者を増やしていきたいと考えているが、サンタクロースの衣装は自前のため、簡単には誘いにくい面もある。逆に衣装を買ったからという理由もあって、一度参加してくれた人がまた参加してくれるケースも多い。そういう人たちはサンタの衣装を着るという非日常を1年に1度の楽しみとしてくれているという。子どもと一緒に参加して家族の行事としてくれるようなイベントを目指して、クラブでは奮闘しているが、若い人を巻き込んでいくためにももっと工夫が必要だと感じている。

継続していることでうれしいこともあった。しげのぶ特別支援学校の子どもがサンタチャレンジに車椅子で参加してくれたことだ。その子はあまり外に出たことがなく、車椅子で町を歩くのはその時が初めてだったという。だが、サンタチャレンジをきっかけに車椅子で外出出来るようになったのだ。

このように、参加者一人ひとりに物語がある。そんな彼らの人生に楽しかった冬の思い出として彩りを添え、チャリティーに参加する楽しさを感じてもらうようなイベントにするべく、クラブでは努力を重ねていく。

2019.01更新(取材・動画/井原一樹 写真・動画/関根則夫)