取材リポート 市民の安全を守る堤に緑を
静岡県・浜松ホスト ライオンズクラブ
#災害支援
#環境保全
2月23日、浜松ホスト ライオンズクラブ(山本博史会長/115人)は、今年度初めての取り組みとなる「植樹例会」を開催した。いつもの例会場に集まった後、大型バスに乗り込むとバスは一路浜松市内の沿岸域へ。全国でも有数の砂浜海岸である遠州灘沿岸では、総延長17.5km、標高13mの防潮堤が建設中で、この堤ののり面にメンバー総出で120本のクロマツの苗木を植樹するのだ。
遠州灘の海岸沿いには、もともと天竜川に由来する広い砂丘と海岸防災林があり「白砂青松」さながらの様相を呈していた。海から内陸へ吹き込む潮風や飛砂を抑える効果のある海岸防災林だが、東日本大震災の際には、津波の威力を軽減するのに役立ったという話も聞く。切迫性が指摘されている東海、東南海地震が発生した場合、遠州灘の海岸には7~10mの津波が押し寄せ、沖積平野の低平地に人口や主要な交通が密集する浜松市は広範囲にわたって浸水被害に見舞われることが予想されている。こうした被害を最小限に食い止めるべく、静岡県では現在、浜名湖の今切口から天竜川河口まで浜松市沿岸域に前述した防潮堤を整備中で、2020年3月の完成を目指している。
もともと海岸沿いにあった松林は、近年マツノザイセンチュウ(松くい虫)の被害で枯損が進み、多くが衰退していた。そのため一度奇麗に伐採し、防潮堤の整備が完了した区域から順に樹木を植えて「みどり」を復活させようというのが、県の防潮堤植栽工事の狙い。防潮堤そのものが、地元企業や商工会など市民の寄付金を基に造られているということもあって、公募で集められたボランティア団体や市民によって植樹が行われている。過去に市内中田島の砂丘地に防風林としてマツを植えた経験がある浜松ホストライオンズクラブも、今回この植栽事業の趣旨に賛同して参加することにした。最初は1000本くらい一気に植えようという声もあったが、その後の管理の問題もあるため、今回はメンバーとほぼ同数の120本を植えることとなった。
当日は2月下旬とあって厳しい寒さが予想されたが、沿岸部特有の強い風が吹くものの晴天で穏やかな植樹日和。現場に向かう途中、バスの中で環境委員長から植え方の説明があったが、現地でもう一度植樹の手順が繰り返された。事業管理者の静岡県浜松土木事務所の職員の方が、防潮堤ののり面に幅30cm、深さ30cm程度の穴を2m間隔で空けてくれているので、苗木から黒いビニール製のポットを外して、堆肥と共に苗木を穴に立て、土をかけた後に根元に水をまけば作業は終了となる。山本会長の植樹開始の合図と共に、事前に決めていた五つのグループごとに各24本、合計120本の苗木を一斉に植え始めた。
今回植えるのは、松くい虫被害に対して耐力がある抵抗性クロマツの苗木。乾燥や風、潮風に強く、海岸線でも大きく育つ樹種として、昔から海岸防災林の主力樹種として植えられてきた。植える樹木の種類は、あらかじめ植栽配置計画によって決められており、抵抗性クロマツを主体としながら、トベラ、マサキ、シャリンバイといった、厳しい海岸環境にも適合した広葉樹も幅広く活用していくという。
植樹を実施した経験のあるメンバーが多いため、皆手際が良い。しかもバスが到着する前に、先行して現地に着いていたメンバーががんばって作業を進めていてくれたおかげもあって、あれよという間に作業は終了した。土木事務所の職員の方の話では、植樹された面積はまだ全体の2割程度。今後も市民や団体に植樹の参加を呼び掛けていくという。
自然災害に抗うことは難しいかもしれないが、少しでも津波の被害を防ぐ一助になればと今年度初めて取り組んだ植樹事業。今後の継続は未定だが、出来る限り協力していきたいと山本会長は話している。
2018.04更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)