取材リポート 見て、聞いて、触って、
奏でた雅楽体験

見て、聞いて、触って、奏でた雅楽体験

2月19日、東京高輪ライオンズクラブ(古島伸二会長/25人)は、東京都港区高輪にある小学校4校の6年生児童を対象とした雅楽鑑賞教室を開催した。子どもたちにとっては、鑑賞機会のほとんどない日本の古典音楽に、生で触れられるまたとない機会。平安朝の美しい装束に身を包んだ演奏者らが奏でる厳かな和の響きに、真剣な面持ちで耳を傾けていた。

東京高輪ライオンズクラブが活動しているのは、かつて大名の下屋敷が建ち並んでいたため「屋敷町」とも言われる港区高輪、白金エリアと、倉庫が林立する湾岸の港南エリアだ。このうち港南界隈は、2020年春の開業を目指してJR山手線の品川駅と田町駅との間に新駅を設置する工事が進行中で、更に2027年開業予定のリニア新幹線の発着駅が品川駅になるなど注目を集めている。そんな東京の最先端の開発エリアで、古典音楽に関する奉仕事業を行っているというからなおさら興味深い。その取り組みの発端は、「ゆくゆくは世界を舞台に活躍する子どもを育てていきたい」と、日頃から考えていた青少年育成委員会メンバーの思いつきだった。

「小学校6年生の教育カリキュラムに『日本の古典音楽を鑑賞する』という項目があることを知り、雅楽の演奏を取り入れてはどうか、というところからこの事業は始まっています」

そう話すのは、雅楽鑑賞特別委員会の瀧實委員長。瀧委員長とつながりのある演奏団体の協力を得て、2000年に御成門小学校の講堂で演奏会を行ったのが始まりだ。最初の頃は地域の小学校に話を持ち掛けてもなかなか賛同を得られなかったが、御成門小学校で不定期に開催していた演奏会の話を聞きつけてか、徐々に近隣の小学校にも広がっていった。

「当初は、各小学校へ個別にお邪魔して演奏会を行っていましたが、一度に多くの児童に見てもらえた方が良いと考え、6年前から高輪区民センターのホールに近隣の小学校児童に集まってもらい、披露するようにしています」(古島会長)

対象は、演奏会場から徒歩圏内にある四つの小学校の6年生300人。ただ、会場の収容人数が250人ということもあって、2校ずつ第1部と第2部の入れ替え制で演奏会を行っている。

午前9時30分、第1部の雅楽鑑賞教室が開演した。演奏に先立って、雅楽が平安時代からほとんど姿を変えていない音楽であること、「世界で最も古いオーケストラ」と言われていることが説明され、ステージ上の見慣れない8種類の楽器が紹介される。前列に三つ並んだ「打物」と呼ばれる打楽器から順に、琵琶や楽箏といった「弾物」、雅楽の主役とされる「吹物」と呼ばれる3種類の管楽器について簡単な説明があった後、実際に音が奏でられた。どの楽器もそれぞれに個性的な音色。これが曲として奏でられたらどうなるのだろう。がぜん期待も高まる。

演奏は3曲。最初に、楽器のチューニングを兼ねた「音取(ねとり)」という短い曲。次いで、雅楽の管弦演奏で最も有名な「越天楽(えてんらく)」。最後に、面をつけた舞人が登場する「還城楽(げんじょうらく)」が披露された。演奏が始まる前、「どんな音がするのか。どんな演奏方法なのか。それを聞いた時、心がどう震えるのか。そんなことを感じながら鑑賞をしてください」と、先生から鑑賞の心得を教わっていた子どもたちだったが、生の演奏の力強さに終始圧倒されている様子だった。
 

2曲目の演奏が終わった後はこの鑑賞会のメインイベント、楽器体験の時間だ。今聞いたばかりの雅楽の楽器を実際に手に取って音を出すことが出来る。各校20人ずつ10分間、好きな楽器の前に集まり、奏者に手取り足取り教えてもらいながらの挑戦だ。限られた時間内、楽器によっては難易度の高いものもあり、なかなか思うように音を出せなかった子もいたが、その後の質疑応答では子どもたちからの質問が相次ぐなど、古典音楽との距離はグンと縮まったようだ。

この楽器体験の時間は毎年、必ずと言っていいほど予定時間をオーバーする。子どもたちはそれほど楽器にのめり込むようだ。しかし、この雅楽鑑賞教室は4校の音楽の授業の時間を利用して開催しているので、授業の1時間以内に全てを終えないといけない。しばらくはこのスタイルを続けていくと瀧委員長は話す。

「かつては周年行事の際に、雅楽と吹奏楽のコラボレーションという大きなイベントを開催したこともありましたが、しばらくは会場付近の4校に対して雅楽鑑賞教室を継続していければと思っています」(瀧委員長)

2年後に東京でオリンピックが開催されることで、日本の伝統文化を知ってもらおうという動きが全国的に活発になっている。雅楽が登場する機会もきっとあるはずだ。「あの授業で音を鳴らしたことがあるよ」という子どもを一人でも多く世に送り出し、ゆくゆくは日本の伝統文化を世界に発信する人になってもらえればと、クラブは願っている。

2018.04更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)