取材リポート
見島の伝統工芸
鬼揚子作り教室開催
山口県・宇部新川ライオンズクラブ
#青少年支援
2011年、山口県の宇部新川ライオンズクラブ(中村彰臣会長/49人)は東日本大震災被災地の児童を招き、山口県萩市の離島、見島(みしま)で10日間の合宿を実施した。被災者となった子どもたちの心の傷を少しでも癒やすことが出来れば、との思いで実施した事業だった。合宿ではたまたま近くに駐屯していた航空自衛隊のアクロバット飛行チームのブルーインパルスが、子どもたちのために曲芸飛行を見せてくれるなど、多くの人の協力によって大成功に終わった。
中でも、メンバーの印象に残ったのが、見島の伝統工芸である「鬼揚子(おにようず)」と呼ばれる凧作り体験だ。鬼の面が描かれた凧を自ら作って飛ばすことで、子どもたちがみるみる元気になっていったのだ。
こんなに楽しんでもらえるなら、伝統文化継承の意味も含めて地元の子どもたちに体験してもらいたいと思い、クラブでは2012年から親子鬼揚子作り教室を実施している。7回目となる今年は1月28日に岐波(きわ)自治会館で実施した。
事業の対象は宇部市内の小学生とその保護者。参加者はキット代として1組1000円のみを負担する。この鬼揚子制作キットは、道の駅などで買えば6000円ほどする。破格の参加費に、定員の約30組はすぐにいっぱいになる。2016年からは児童養護施設・清光園の子どもたちを招待して実施している。
見島では家に長男が誕生した次の正月に親戚や知人など多くの人が集まり、一家の繁栄と、その子の前途を祝して、鬼揚子を協力して作る風習がある。こうした際の鬼揚子は、それぞれがお祝いとして持ち寄った傘紙で作られるため、畳6〜8枚ほどにもなるという。一方で、一人で揚げるような小さいサイズのものも作られる。これは魔除けとして家の玄関や店頭などに飾られることが多い。
鬼揚子は普通の凧と違い、パーツが多いことも特徴だ。鬼の顔が描かれた凧の面に、「ヘコ」と呼ばれる足や、ミミ(耳)、涙も加える。また、横骨には「弓ズル」と呼ばれるパーツを取り付ける。これは凧が飛んでいる時に風を受け、「ブイブイ」と音を出すものだ。
見島の基本の形をしっかり教えるため、鬼揚子の第一人者である多田一馬先生を筆頭とした保存会の皆さんに指導をお願いしている。保存会の方々はこの日のために見島からフェリーに乗って来てくれる。
体験教室ではまず、凧の絵に色を塗るところから始める。この部分は子どもたちが自分でやるが、竹ひごとボンドで凧の骨格部分を作ったり、「ヘコ」の部分を取り付けたりするところは一人では難しいので、保護者の協力が必要になってくる。制作が進むにつれて、親子で協力して作業する場面が多くなるため、コミュニケーションが増えると共に、家族の普段見ない面を見ることが出来るのだ。意外と器用なお父さんや、昔取った杵柄なのか、てきぱきと作業を進めるおじいちゃん、おばあちゃんがおり、子どもたちも誇らしげにその様子を眺めていた。
クラブ・メンバーも保存会の人たちの補佐で動き回る。7回目ともなればそれなりに手順やコツを覚えているメンバーも多く、さまざまな場所から声が掛かり、手助けをしていた。
メンバーが奮闘するのは凧作りの手伝いだけではない。昼食に振る舞うカレー作りもメンバーとその家族が担当。今回は子どもから保護者まで幅広い年齢層がいるため、甘口、中辛、にんにく入り中辛の3種類のカレーを用意した。
例年、午前中に凧を作り、昼食を挟んで午後は凧揚げを実施する。場所は凧作り会場の岐波自治会館から600mほど離れた所にある海水浴場のキワ・ラ・ビーチ。瀬戸内海に面し、潮干狩りなどが楽しめる人気のスポットだ。しかし、今年は前日の雨で地面がぬかるみ、風もほぼなかったため、凧が上がらない上に危険と判断。昼食後に解散することにした。
凧揚げは出来なかったが、子どもたちは満足そう。自分の作った凧を大事そうに抱え、家路についた。クラブでは今後もこの事業を継続し、地元山口県の伝統文化を子どもたちに伝えていきたいと考えている。
2018.03更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)