テーマ市民と行政をつなぐ要と
なり推し進める堀川の再生

市民と行政をつなぐ要となり推し進める堀川の再生
堀川七橋の一つ、納屋橋。橋の近くにある堀川の開削奉行・福島正則の像は、名古屋堀川ライオンズクラブが結成15周年を記念して設置した

JR名古屋駅の正面から東へ延びる桜通を進むこと10分余り、街の中心部を南北に流れる堀川がある。全長16km、名古屋港へ通じる堀川は、徳川家康の命で名古屋城が築城される際、建築資材を輸送するために開削された。名古屋城下にはこの運河を利用して大量の物資が運ばれ、川沿いには米や塩を扱う問屋や木材商が立ち並んだ。人々の暮らしと密接に関わり、産業の発展を支えた堀川だが、大正、昭和と都市が発展するにつれて汚染が進み、高度成長期には市民から見向きもされない存在になっていた。

名古屋市は1980年代半ばから堀川の改修や再生に向けた事業に着手したが、目に見えて水質が良くなったのは最近のことだ。ここ20年ほどで灰色に濁っていた川から悪臭が消え、魚や水鳥の姿も見られるようになった。この間、市民と行政の活動を結びつける要の役割を果たし、堀川の浄化に貢献してきたのが、2003年に結成された名古屋堀川ライオンズクラブ(服部宏会長/43人)だ。

人工の水路である堀川には自然の水源が存在しない。堀川再生を目指す市民の間には、木曽川から水を引き入れることによって水質を改善したいという願いがあった。そこで1999年、名古屋市内の30のライオンズクラブと市民団体が協力して早期実現を求める署名活動を展開。これには市民20万人が賛同した。この時は木曽川からの導水こそ実現しなかったものの、署名活動をきっかけに堀川再生の機運が高まり、市民団体の連携が進んだ。名古屋堀川ライオンズクラブはその動きを更に進め、確かなものにしようと結成された。

堀川周辺での清掃活動

「堀川を清流に」の合言葉の下に集った会員は29人。堀川の再生に強い思い入れを持つメンバーがそろい、意気盛んに始動したと、結成メンバーの一人である服部会長は言う。
「堀川浄化という大きな事業はクラブ単独で出来るものではなく、広く市民のネットワークを築くことが必要になります。大学や産業界とも連携して行政の施策を後押ししようという考えが、クラブ結成の段階からありました」

こうした考えの下、結成してすぐに着手したのが「堀川1000人調査隊」の活動だ。市民に参加を呼びかけるこの活動には、堀川の水質を調査すると同時に、それまでバラバラに活動していた団体をつなぐ大きなネットワークを築く狙いがあった。クラブが立てた計画は、国土交通省の「全国都市再生モデル調査事業」に選ばれて実現するが、結成間もないクラブにとっては大事業となるため、市内の全ライオンズクラブが合同で主催し、名古屋堀川ライオンズクラブは事務局を担当することにした。1000人を目標に募った隊員は予想を大幅に上回り、市民団体や企業、大学、行政、個人など217隊2007人が参加する大規模な社会実験となった。

堀川1000人調査隊のメンバーによる水質調査

市民による4カ月間の調査の結果からは、導水だけでは水質改善につながらないこと、下水処理場からの放流水の浄化やヘドロ除去の必要性、浮遊するゴミの多さなどの問題点が浮かび上がった。この調査報告を終えた後、今度は名古屋市から名古屋堀川ライオンズクラブへ、第2次調査の要望があった。市が行う下水処理場の高度処理実験の効果を、市民に調査・検証してほしいという依頼だ。

2005年から06年にかけて行われた第2次堀川1000人調査隊の活動は、市と名古屋堀川ライオンズクラブの協働で実施。最初の1カ月間は未処理のまま放流、翌月は高度処理して放流、3カ月目は再び未処理のままの放流に戻して、その間の堀川の水質を市民が調査した。結果、放流水の浄化によって堀川の水質が改善することが証明され、翌年には下水処理場に新たな恒久的浄化装置が導入されて、透明度の向上に大きな効果を発揮することとなった。

「環境デーなごや」の一環として行われる市主催の体験乗船では、ライオンズ・メンバーが説明役を務める

そして2007年、名古屋市は市民の念願だった木曽川からの導水実験の開始を決め、第3次調査隊がその効果を調べることになった。この時は複数年にまたがる活動になるため、市民団体による組織の強化を目的に堀川1000人調査隊2010実行委員会を立ち上げ、名古屋堀川ライオンズクラブはその事務局として裏方に回った。3年間にわたる実験が終了した後、活動を継続したいという多くの声が上がり、調査隊の活動は現在まで14年間続いている。

この第3次調査隊では、水質調査を行う定点観測隊、生物観察や浄化実験など幅広い研究を行う自由研究隊、それぞれの立場で堀川浄化を応援する堀川応援隊の三つの隊を作った。調査や研究だけでなく、気軽に参加出来る応援隊を作ることで活動の裾野を広げようと考えたのだ。その応援隊への登録は5万人を超え、堀川を愛する市民のネットワークは大きく成長した。

これだけ大規模なネットワークになれば事務局の運営は相当な負担になりそうなものだが、実行委員会の事務局長を務める服部会長によれば、メーリングリストとインターネットの活用により、必要な経費はサーバーの維持管理費程度だという。事務局では堀川の最新情報を伝えるメールマガジンを発信する他、堀川1000人調査隊のホームページで調査や研究の報告を公開。また年に2回、蓄積されたデータを分析・検討する調査隊会議を名古屋市と合同で開催している。

これまでに28回開催している調査隊会議には、名古屋市の緑政土木局や環境局、上下水道局の職員が出席し、行政の横の連携が生まれる場にもなっている

調査隊会議には毎回、市民と行政の担当者ら約100人が参加して活発な意見交換が行われ、その議論は実際の行政の施策立案にも生かされている。その一例が、ヘドロ対策。大潮の干潮時にヘドロが露出する場所があり、魚が酸欠で死んでしまうことがあるという調査隊メンバーの指摘を受けて、行政はヘドロに砂をかぶせる「覆砂(ふくさ)」の実験を開始。調査隊は2年間にわたりその効果を観察し、覆砂をした区間は水の透明度が上がって生物も増え、劇的な改善が見られることを確認した。すると、300mだった覆砂区間は1kmに延長され、半年後には多くの魚が上流部まで上るようになったことが、調査隊によって記録された。こうして、市民の気付きに応えて行政が実験を行い、それを市民が観察・検証し、その結果を受けて行政が施策を展開する官民協働のサイクルが、堀川に大きな変化をもたらしているのだ。

「産官学民の連携の必要性はよく言われるところですが、それを実現させるには舞台裏で働く事務局の存在が不可欠です。名古屋堀川ライオンズクラブが事務局として接着剤の役割を買って出たことで、ネットワークの構築と情報共有、行政との協働が進み、堀川が少しずつきれいになっていることに大きな喜びを感じます」(服部会長)

これら一連の活動が高く評価され、名古屋堀川ライオンズクラブは2009年、国土交通省などが主催する第11回日本水大賞の奨励賞を受賞した。更に、2019年の第21回では、堀川1000人調査隊2010実行委員会がグランプリに次ぐ国土交通大臣賞を受賞。東京都江東区の日本科学未来館で開かれた表彰式には名誉総裁の秋篠宮皇嗣殿下が臨席され、実行委員会の梅本隆弘会長(名古屋堀川ライオンズクラブ)が表彰を受けた。

毎年8月に開催する堀川エコロボットコンテスト(2020年は中止)

堀川1000人調査隊の活動では裏方に徹している名古屋堀川ライオンズクラブだが、クラブ主体で堀川の浄化・美化に取り組む活動も数多く実施している。清掃活動や「環境デーなごや」での堀川体験乗船の実施などだ。2005年から名古屋工業大学との協働で開催する堀川エコロボットコンテストは、小学生から一般市民まで幅広い層を対象に、堀川の浄化・美化に貢献するロボットを募集。同時に子ども向けのロボット教室も開いている。中には、堀川での空心菜栽培というユニークな活動もある。同じ日本水大賞奨励賞の受賞者で、空心菜栽培を使ったダム湖の水質浄化に取り組む岐阜県立恵那農業高等学校の要請を受けて栽培実験に協力した。この実験で、海水が混じる汽水域でも栽培が可能で、空心菜が水質汚濁の原因となる窒素やリンに加え塩分も吸収することが確認出来た。恵那農業高等学校はこの成果を踏まえ、東日本大震災の津波で塩害を受けた宮城県東松島市の水田で空心菜を栽培する活動に取り組んだ。

今年3月、名古屋堀川ライオンズクラブは新たな事業として、写真コンクール「名古屋堀川100景」の作品募集を始めた。堀川の歴史と文化を伝える写真を1年かけて集め、クラブ結成20周年事業として写真集を出版し後世に残す計画だ。堀川の流れが、将来の世代にも親しまれ愛される清流となる日は、そう遠くないかもしれない。

名古屋堀川ライオンズクラブ https://www.horikawa-lions.com/
堀川1000人調査隊2010 http://www.horikawa1000nin.jp/

2021.04更新(取材/河村智子 写真/名古屋堀川ライオンズクラブ)