取材リポート 徳島のシンボル
眉山の整備・清掃活動

徳島のシンボル 眉山の整備・清掃活動

400年の歴史を持つ阿波おどりで有名な徳島市。約25万人が暮らすこの市のシンボルとなっているのが、徳島駅を出ると目の前に見える山、眉山(びざん)である。どこから見ても眉の形に見えるということからその名が付けられた。標高290mという小さな山だが、山頂からは徳島市内をほぼ一望出来、天気の良い日は淡路島、関西空港、紀伊半島に至るまで見渡せる。古くは『万葉集』に登場し、2007年にはさだまさしの小説『眉山』が犬童一心監督により映画化されるなど、長きにわたり多くの人に親しまれてきた。徳島市内の幼稚園は遠足で眉山を訪れるのが定番で、市民にとっては小さい頃から愛着を持つ憩いの場所だ。

眉山一帯は眉山公園として整備されており、第二次世界大戦時の戦死者慰霊のために建立されたパゴダ平和記念塔や、大ヒットアニメ「鬼滅の刃」や「Fate/stay night」を手がけたアニメ制作会社ufotableが経営し、県が主催するイベントの会場にもなるマチ★アソビCAFE眉山があり、県内有数の観光地として人気を集めている。徳島駅から徒歩10分のところにロープウェイ山麓駅があるなどアクセスも良い。山頂まで片道約6分のロープウェイは、景観がきれいだと人気を博す。車がなくても気軽に訪れることが出来るのも人気の理由の一つだろう。また、山麓駅の階下には阿波おどり会館があるため、会館を見学してから眉山観光というのが定番のコースになっている。

この眉山の名を冠するライオンズクラブがある。徳島眉山ライオンズクラブ(加村祐志会長/28人)だ。1961年に結成された同クラブは眉山を対象とした奉仕活動を数多く行ってきた。75年に15周年記念事業として山頂に「みおつくしの鐘」を寄贈したのがその始まり。拡声器をつけて市内に鐘の音を響かせた。市民からの反響が大きかったこともあり、クラブは眉山を対象とする事業を進めていく。2年後の77年には登山道の途中に案内板や休憩所を設置。多くの人に利用されている。

2011年には50周年記念事業としてLED万華鏡モニュメントを寄贈。モニュメントの下からのぞき込むと、内蔵された4100個のLEDの光が色とりどりの模様を描き出す。展望台に設置され、万華鏡にちなんだ「眉華鏡(まゆげきょう)」という愛称で親しまれているこのオブジェ。高さ6mと、国内最大級のLED万華鏡だ。外面も夕方から夜にかけてライトアップされる。ふもとの市内からもその光を目にすることが出来、新たな観光名所として人気を集めている。

しかしなぜ、LEDの万華鏡なのか。それは、徳島県が世界的にも有名なLED生産地だからだ。1993年、20世紀中には開発困難とされていた青色LEDを阿南市に本社を置く日亜化学工業が開発した。翌94年には徳島県警察本部前の交差点に全国に先駆けてLEDの信号機が設置されるなど、県内のLED関連事業が脚光を浴びるようになる。2005年、徳島県ではLED関連産業の集積地にする次世代LEDバレイ構想が策定された。当時10社だった関連企業は現在150社を超えており、LEDの生産量で世界のトップシェアを誇る。こうした背景から、LEDを使用した新たな観光資源として、眉華鏡を寄贈することにしたのだ。

中腹の休憩所はクラブが寄贈

徳島眉山ライオンズクラブが行っている奉仕活動は寄贈だけではない。毎年、3月の第1日曜日に眉山の清掃活動を実施している。寄贈した休憩所付近を中心に、草を刈り、整備する。桜の時期に眉山を訪れる多くの市民や観光客を、きれいな状態で迎えるためだ。今年で44年目を迎える。入会したメンバーは作業に参加し「こんなに多くのものをライオンズが寄贈していたのか」と驚くという。そして作業に当たり、徳島のシンボル、眉山を整備していることに誇りを持つのだ。

今年は新型コロナウイルス感染症の影響で奉仕活動を制限せざるを得ない状況だ。クラブは結成60周年を迎え、本来なら多くのイベントを実施する予定だった。眉華鏡からの流れで新たなLED観光資源を作ろうと、駅前にLEDを使用した歓迎塔を寄贈予定だったが、こうした周年記念事業やイベントは全て延期した。だが、多くの市民に親しまれている眉山の整備は実施を決めた。野外の作業であること、放っておくと環境が悪化してしまうことが原因だ。

3月7日朝、眉山にクラブ・メンバーが集まってきた。まずは中腹にある休憩所付近の整備。雑草が生い茂り、クラブが寄贈した案内板も少し隠れてしまっていた。メンバーは手分けして作業を進める。斜面の草が刈り取られ、草の詰まったごみ袋が積み上がっていく。メンバーが作業している間にも多くの人が散歩やランニングで登山道を通っていき、市民の生活になくてはならない山であることを実感させられた。

休憩所付近の整備・清掃が終われば、次は山頂。眉華鏡の清掃だ。洗剤を吹き付け、拭き掃除をする。手が届かない場所はモップをかけ、きれいにしていく。その間も眉華鏡をのぞき込む観光客は絶えず、人気の高さを感じさせる。作業開始から約2時間かけて休憩所付近と山頂の清掃を終えた。

周年事業が延期になってしまった徳島眉山ライオンズクラブ。だが、「今年、60周年記念事業が出来なかったわけですが、あえて61周年、62周年に記念事業をするのもいいと思うんですよ。後世の人が記録を見た時に『何で61周年に記念事業をやっているんだ? ああ、そうか。コロナの影響だったのか』って分かってもらえるじゃないですか」とメンバーが語るように、前向きに活動を続けている。例年、眉山の整備活動の後は来期の役員を決める選挙会を実施する。61周年の来期に向けて、徳島眉山ライオンズクラブは歩み始めている。

2021.04更新(取材・動画/井原一樹 写真/宮坂恵津子)