取材リポート "つなぐ思いやりの心で"
盲導犬出前授業を実施

“つなぐ思いやりの心で” 盲導犬出前授業を実施

日本には11の盲導犬訓練施設があり、909頭の盲導犬が働いている(2020年3月時点)。盲導犬は目の不自由な人の安全な歩行を助けるパートナーだ。02年には、盲導犬などの補助犬を使う人の自立や社会参加を促すために身体障害者補助犬法が施行され、公共交通機関や、ホテル、レストランなど不特定多数の人が利用する施設での補助犬受け入れが義務付けられた。更に16年には、障害を理由とする差別的な取り扱いを禁じる障害者差別解消法が施行されている。それにもかかわらず、盲導犬同伴の拒否が後を絶たないという。認定NPO法人全国盲導犬施設連合会が19年末から20年に掛けて実施した調査によると、19年の1年間だけに時期を限定しても50%以上の盲導犬利用者が「拒否された経験がある」と答えている。

拒否事例に対して相談を受けて仲介に入っている公益財団法人日本盲導犬協会は、過去実際にあったケースをホームページで紹介している。例えば飲食店の場合、「保健所の指導により動物の立ち入りが禁止されている」という理由で拒否されることが多い。しかし実際には都道府県の条例で動物を入れないよう明記されているのは調理場で、客席での盲導犬同伴は認められている。

視覚障害にはさまざまな種類があることを学ぶため、先生が一部しか見えない状態を実演

補助犬法では、施設に著しい損害が発生する恐れがある場合を除いて補助犬の同伴を拒否してはいけないとされており、「犬を嫌いな人がいる」などの理由は障害者に対する差別に当たる。しかし、こうした事実はあまり理解されていない。店長やオーナーが理解していたとしても、アルバイトやパートの店員にまで周知されておらず、判断に困って断ってしまったというような事例も散見される。

こうした盲導犬や視覚障害者に関する正しい情報を周知しようと、社会福祉法人日本ライトハウス盲導犬訓練所と協力して活動しているのが八尾ライオンズクラブ(伊藤嘉宏会長/100人)だ。同クラブは2020-21年度に結成60周年を迎えた。そこで記念事業として半年間掛けて「つなぐ 思いやりの心で」と題した視覚障害者理解教育事業を行っている。

八尾ライオンズクラブは結成当初から視覚障害者を支援する事業を実施。以来、継続的に日本ライトハウス盲導犬訓練所に寄付をし、盲導犬の育成に寄与してきた。結成50周年の時は目が見えなくても楽しめるように音声ガイドを付けた映画を市に何本か寄贈。視覚障害者が借りられるようにしたことに加え、上映会も実施するなどして多くの人に楽しんでもらった。こうした経緯から60周年の記念事業を実施する際、視覚障害者関連の事業をしようという意見が出るのは自然なことだった。19-20年度のライオンズクラブ国際会長のテーマが「多様性でウィ・サーブ」だったこともあり、20年初頭から準備を進めてきた。

まずはクラブ・メンバーが正しい理解を身に付けてから、ということで例会でセミナーをお願いし、知識を共有した。伊藤会長が「視覚障害の中にも多様性があり、こうした方々が社会でさまざまな問題に直面されていることを改めて理解出来ました。それまではどこか別の世界の話として考えてしまっていた面があったのでしょう。メンバーも当事者意識と言いますか、自分たちがきちんと広めなければという気持ちになりました」と語るように、メンバーの意識が変わり、前向きに事業に取り組むようになったという。

本来なら出来るだけ多くの人に広めたいところだが、新型コロナウイルスの影響を鑑み、当初の予定よりも規模を縮小し、場所を変更するなど感染対策を取って実施することにした。こうして計画が進み、10月10日に行った視覚障害者セミナーを皮切りに、11月には資金獲得事業としてゴルフコンペを開催。収益を盲導犬の育成に役立ててもらうための資金として寄付した。更に11月14日には複合商業施設アリオ八尾でセミナーを行い、多くの市民に盲導犬や視覚障害者について理解してもらった。そして12月からは幼稚園や小学校での出前授業を実施。12月2日に認定こども園志紀学園幼稚園で、1月29日には八尾市立曙川小学校で行った。

曙川小学校の出前授業ではまず、視覚障害とは何かを子どもたちに考えてもらう。「まぶしすぎて見えない」「一部が見えない」など視覚障害にもさまざまな種類があることを伝えた。その後、先生が一部しか見えないゴーグルを着けて歩行体験。おっかなびっくり歩く先生の姿を、子どもたちは驚きの表情で見つめていた。白杖の使い方も動きを実演。視力を完全に失っていない人も白杖を持っているケースが多いことなどの説明に真剣に耳を傾けていた。

盲導犬の訓練方法や、仕事中の盲導犬と出合った時に触ったり、食べ物をやったりしてはいけないことなども学ぶ。子どもたちは授業の間を通して、集中して話を聞いていた。その証拠に最後の質疑応答ではたくさんの手が挙がり、授業の終わる時間をオーバーしそうになるほど。配られた盲導犬訓練所のチラシにも隅々まで目を通していた。

クラブとしては出前授業の内容を家族に話してもらい、そこから更に周囲の人へ、といった形で視覚障害者や盲導犬への理解を広めてもらいたいと考えている。3月には八尾市内にある全28の小学校の4年生に啓発のDVDを配布する。これを5年間続け、延べ1万5000枚を配布する予定だ。まだまだ盲導犬や視覚障害者に対する正しい理解が広まっていない現状をどうにか変えていこうと考えている。

2021.03更新(取材・動画/井原一樹 写真/田中勝明)