テーマ不要になった眼鏡が
途上国の人の生活を変える

不要になった眼鏡が途上国の人の生活を変える

世界保健機関(WHO)が2019年10月に発表した視力に関する報告書によると、視力障害から失明まで視覚に何らかの障害がある人は世界で少なくとも22億人、そのうち10億人は適切な予防措置や治療を受けられていない可能性が高いという。テドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、経済的な問題に左右されることなく質の高い眼科ケアを受けられる環境の整備が必要だとし、「白内障手術を受ければ回避出来たはずの失明や視力障害に6500万人が苦しんでいること、そして、8億人以上が眼鏡を手に入れられないために日常生活に困難を来しているという現状を容認すべきではない」と指摘。低・中所得国では、高所得国に比べて近視や遠視などが矯正されていない確率が約4倍に上ることが報告されている。そうした必要な眼鏡を手に入れられない人々の元へ中古眼鏡を届けるのが、「ライオンズ眼鏡リサイクル・プログラム」の活動だ。

視力に関する活動はライオンズの主要な奉仕分野の一つ。アメリカ・シカゴでライオンズクラブ国際協会が創設されて間もない1925年、ヘレン・ケラーが会員に向けたスピーチで「盲人の騎士」になってほしいと訴えたのがその発端だ。アメリカのライオンズクラブはその呼び掛けに応え、無料の視力検査の実施や、点字図書館の設立、白杖の普及など、さまざまな視力関係の支援活動を展開していく。不要になった眼鏡を集めて地域で必要とする人に配布する活動もそうした活動の一つで、30年代から行われていた。60年代始めには、イギリスの二つのクラブが2万点の眼鏡を収集し、インドのライオンズ眼科病院に寄贈した記録がある。こうして主にアメリカやヨーロッパで盛んに行われていた中古眼鏡の収集活動は、94年に国際協会の公認プログラムとなって「眼鏡リサイクル」と名付けられた。

活動の拠点となるのが国際協会公認のライオンズ眼鏡リサイクル・センターで、現在はアメリカ11州にある12のセンターと、カナダ、フランス、イタリア、スペイン、南アフリカ、オーストラリアにそれぞれ一つずつ、合計18のセンターがある。リサイクル・センターでは各地のライオンズクラブから届いた眼鏡やサングラスを選別、洗浄、度数の測定をして保管。そして、ライオンズが組織する奉仕派遣団や眼科医療関係の非営利組織などを通じて、主に発展途上国で眼鏡を必要とする人たちに配布している。

東京三軒茶屋ライオンズクラブ(川津義憲会長/36人)が眼鏡リサイクルの活動に着手したのは15年前。日本ではほとんど行われていなかったこの活動の存在を知り興味を持った。クラブは例会に利用するレストランに回収箱を設置。集まった眼鏡は、オーストラリアのライオンズが運営する「リサイクル・フォー・サイト・オーストラリア」へ送付することにした。オーストラリアを選んだのは、アメリカやヨーロッパよりも送料が安く済むからだ。始めはクラブ・メンバーや地域の人たちから集めることを考えていたが、2009年に大手眼鏡量販店から下取りキャンペーンで集まった眼鏡を寄贈したいという申し出が舞い込んだ。クラブはオーストラリアのセンターに大量受け入れが可能か確認した上で引き受け、この年と翌年はそれぞれ3万点の眼鏡をオーストラリアへ送り出した。これほどの量は例外としても、クラブには全国から中古眼鏡が送られてくる。眼科医院や個人から数点ほどが届くこともあれば、眼鏡店や百貨店、保険会社の組合といった企業・団体から大量に届くこともある。

そのきっかけの一つが、前述の大手眼鏡量販店によるキャンペーンを取り上げた週刊誌の記事だった。『週刊文春』09年12月10日号に掲載された「不要な眼鏡をリユース。その使い途は?」という記事では、途上国では視力に問題があっても検査や治療が受けられないまま過ごす人が多いこと、ライオンズクラブで集めた眼鏡は途上国で必要とする人に配られ喜ばれていることが伝えられた。最近では全国に27店舗を展開する眼鏡のセレクトショップPOKER FACE(ポーカーフェイス)が、東京三軒茶屋ライオンズクラブの協力で実施するエコリユース・キャンペーンをウェブサイトやオンラインストアで告知。ライオンズクラブや眼鏡リサイクル・プログラムに関する説明も掲載され、そうした情報はファッション・アパレル業界の情報サイトやニュースサイトなどでも発信されている。それらを見た人から、クラブに頻繁に問い合わせが寄せられるのだ。

POKER FACEウェブサイトより

「中古眼鏡の提供をクラブから積極的に呼び掛けたことはありません。自然に集まってくる眼鏡を、箱に詰めて送っているだけ。クラブのメイン事業である献血などに比べて、大した労力ではないんです」
この活動で中心的役割を担う藤村貞夫元会長はそう話す。とはいえ、不定期に送られてくる眼鏡を管理する手間もあり、海外へ発送する送料も必要だ。東京三軒茶屋ライオンズクラブの場合、藤村元会長が自宅に併設されたスタジオを眼鏡の保管と梱(こん)包作業のために提供。ある程度の量が集まると、メンバーが集まって箱詰めし発送する。送料は大箱で一箱8000円から1万円で、これはクラブの事業費から支出するが、企業から大量に寄贈される分については送料負担を条件に受け入れている。

東京三軒茶屋ライオンズクラブがこれまでにオーストラリアのリサイクル・センターへ送付した眼鏡は16万点以上。日本で中古眼鏡の収集に取り組む他のライオンズクラブも、オーストラリアのセンターを送付先にしているところが多い。その「リサイクル・フォー・サイト・オーストラリア」は、98年から国際協会公認の眼鏡リサイクル・センターとして活動。州都ブリスベンなどクイーンズランド州内に三つの施設を置き、国内外から集まる大量の眼鏡の分類、処理、梱包を行っている。施設には洗浄機やレンズ計測器、レンズ加工機などの機器を備え、ライオンズ・メンバーらボランティアの他に、雇用政策の一環で就労体験を行う失業手当受給者と、軽犯罪の罰金として労働奉仕を選択した人たちが作業に従事する。1年間に処理する眼鏡の数は45万点以上。これまでに700万点以上の眼鏡をアフリカや中東、インド、東南アジア、東ヨーロッパなどの国々へ届けている。

現在、日本国内に国際協会公認の眼鏡リサイクル・センターは無いが、17年6月に332-C地区(宮城県)が眼鏡リサイクル・センターを開設。活動を軌道に乗せた上で認定の申請を目指している。このセンターの特徴は、眼鏡リサイクルと共に障害者の就労支援を目的としているところ。地区内外のクラブなどから寄せられた眼鏡の処理や梱包作業は、障害者就労支援事業所が担う。再生した眼鏡は提携する日本眼科国際医療協力会議(JICO)の加入団体などを通じて発展途上国へ送付。2019-20年度はアフリカのザンビアやスーダン、ミャンマー、バングラデシュなどへ届けた。

11月4日に行われた眼鏡の箱詰め作業。リサイクル・センターでの手間を省くため緩衝材は外し、箱の中で眼鏡が動かないよう隙間なく並べていく。現在はコロナウイルス感染症への対応として、寄せられた中古眼鏡は自作の殺菌ボックスで殺菌している

東京三軒茶屋ライオンズクラブの藤村元会長は、眼鏡をリサイクルすることについて、「他人の視力に合わせた眼鏡が役に立つのか?」と疑問を呈されることがあると話す。リサイクル・センターでは度数を測定し、配布する際には希望する人の視力に近いものを選べるようにしているが、処方した眼鏡のようにぴったり合うというわけにはいかない。そうした疑問に、藤村さんはこう答えている。
「眼鏡をかけたことで教科書が見えやすくなった子、老眼鏡を手に入れて諦めていた仕事を続けられるようになった人もいるでしょう。眼鏡のない世界に生きていた人にとっては、ある程度見えやすくなるだけで生活に大きな変化が生まれるはずです」

海の向こうで笑顔になった人たちに思いをはせながら、東京三軒茶屋ライオンズクラブのメンバーたちは地道な作業を続けている。

2020.12更新(取材/河村智子)