取材リポート 第17回ドレミファダンス
コンサート開催

第17回ドレミファダンスコンサート開催

10月4日、東京都の渋谷区千駄ヶ谷区民会館にて特定非営利活動法人アヴァが主催する第17回東京都障害者ダンス大会ドレミファダンスコンサートが開かれた。2012年から年2回開催されているこのコンサートは、アヴァの理事長でもある、東京表参道ライオンズクラブ(21人)の松浦辰吉会長の熱意がきっかけで始まった。

障害者に対するボランティア活動に強い関心を抱いていた松浦会長は05年、東京原宿ライオンズクラブに入会する。そして、テレビ朝日と東京原宿ライオンズクラブ、東京六本木ライオンズクラブが共同で、障害者の音楽芸術家が演奏するクラシック音楽を一般の方にも障害者の方にも聴いてもらう事業を立ち上げた。アヴァも運営面にボランティアで参画。しかし実施の際、演奏中に観客の障害者から声が上がり、演奏者が舌打ちをするという場面を目撃する。これに心を痛めた松浦会長は障害者が騒いで楽しめる事業を考案。それがドレミファダンスコンサートの構想だった。しかし、東京原宿ライオンズクラブでは他の継続事業もあり、すぐに新事業を実施するのは難しい状況にあった。そこで松浦会長はまずアヴァを主体としてコンサートを企画し、実施した。そしてそれに関わるアヴァのメンバーを中心に新たなクラブ、東京表参道ライオンズクラブを立ち上げてライオンズクラブの活動としても継続事業としていった。

初回は12年10月20日。この時はお茶の水女子大学のジャズダンスサークルflowなど大学や高校の部活動、サークルの出演が中心。障害者に見てもらうコンサートという側面が強かった。それでも、一緒に楽しんでもらえるように、観客参加型のコーナーや、親しみやすいテレビ番組のパロディーを演じるなど趣向を凝らした。また、バレエや和太鼓など障害者が鑑賞する機会の少ない演目も選んだ。こうして実施されたドレミファダンスコンサートは大好評だった。

第1回を実施した際、松浦会長の印象に残ったのが、障害者が観客席で一緒に踊っている姿だった。観客が参加するコーナー以外でも楽しそうに体を動かしている。時にはステージに上がって一緒に踊ろうとする人もいた。その時は危険なので止めるしかなかったが、「そんなに踊りたいなら一緒にやらせてあげたい」という気持ちが心の中でどんどん強くなった。

そこで翌年には、コンサートに出演する「ドレミファダンスメンバー」を募集することにした。参加費は無料で、毎週土曜日に練習をし、ドレミファダンスコンサートのステージで踊ることを目指す。当初は6人だった参加者も、口コミでどんどん数が増え、現在では約50人が在籍している。「参加者の生きがいになっている」と家族やヘルパーからの評判も良い。何より、障害者自身にとって、他の人を喜ばせるという社会貢献をしている実感が得られることが大きな喜びだという。

距離を保つために更衣室にテープを貼る

コンサートは回を重ねるごとに、ドレミファダンスメンバーの他にも、障害者のダンスチームの出演が増えていった。クラブでは都近郊の障害者ダンスチームに声を掛け、参加を呼び掛けている。こうして順調に継続してきたドレミファダンスコンサート。今年も例年通り4月と10月、2回の開催を予定していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が大きな影響を与えた。障害者は体が弱い人も多く、万が一、感染してしまうと健常者よりも重症化するリスクが高い。緊急事態宣言が出された4月のコンサートは中止を余儀無くされた。それでも障害者の人に家で楽しんでもらおうと、東京表参道ライオンズクラブとアヴァのメンバーのみでオンラインのミニコンサートを実施。30分だけのものだったが、多くの人に楽しんでもらった。

司会の進藤義夫ガバナーと飯田容子さん

10月は何とか実施したい。メンバーの思いは一つだった。クラウドファンディングで資金を集め、対策を考えた。観客を入れての形を模索し続けたが、最終的には安全を第一に考え、グループごとの発表をオンラインで配信する形にした。それでももちろん人が集まる以上、感染のリスクはある。どうにか危険性を最小限に抑えられないかとクラブではシミュレーションを重ねた。

入り口では検温と消毒をし、体調の悪い人には来場を自粛してもらうのに加え、集合時間をずらして、違う団体同士の接触を減らすことを考えた。更衣室には180cmのマス目をテープで作り、その中から出ないようにして着替えてもらう。ダンス会場では間隔を空けて床に付けた印の上で踊ることを原則とし、間隔を空けたまま退場出来るよう、2m間隔で持ち手を付けたヒモを用意。持ち手をつかんでヒモをたわませずに歩くことで、自然とソーシャル・ディスタンスが保てるように工夫した。また、ダンス会場の入り口と出口を別にし、人の流れが混ざらないようにした。

松浦会長が危惧していたのは、参加者との距離感だ。通常、このドレミファダンスコンサートは和気あいあいとした雰囲気で行われる。参加者がスタッフにハグを求めたり、他の参加者に近寄ったりすることも多い。ところが、今回はそうはいかない。適切な距離を取って楽しく安全に開催するため、9月19日にドレミファダンスメンバーと当日のスタッフでリハーサルを行った。スタッフにとってもこのリハーサルは良いシミュレーションになる。人の流れをイメージしやすく、声掛けのタイミングなども計ることが出来る。参加者は久しぶりに対面で踊れる喜びを感じていた。というのも、ドレミファダンスメンバーのレッスンも新型コロナウイルスの影響から、オンラインで実施されていたのだ。画面を通じて練習してきたおのおののダンスを思いっきり体で表現する参加者たち。だが、喜びの感情表現を爆発させながらもちゃんと印の上で踊っていた。

こうして迎えた10月4日。本番前、各団体の動きや場所の確認が順調に終わって13時が近付く。第17回ドレミファンダンスコンサートの開幕だ。司会は東京表参道ライオンズクラブの飯田容子さんと、今期、330-A地区(東京都)の地区ガバナーを務める東京世田谷ライオンズクラブの進藤義夫さん。いよいよ始まるという時に機材のトラブルが起きてしまい、オンライン配信がうまく始まらない。最初に出演する認定NPO法人ぱれっとの面々を前に、進藤ガバナーは参加者の不安を払拭(ふっしょく)するよう落ち着いて状況を説明。なかなか機材のトラブルが解決しないため、出演者で東京表参道ライオンズクラブのメンバーでもあるバルーンアーティストのポッポちゃんが急きょパフォーマンスを行って場をつないだ。

退場時も距離を保つように工夫した

残念ながらオンラインでの生配信は中止せざるを得なかったが、参加者のパフォーマンスは予定より30分遅れて開始。撮影した映像を後日配信する予定という。東京表参道ライオンズクラブは「ハワイアン」としてフラダンスを披露。更に東京神楽坂ライオンズクラブのメンバーもドラムとベースで会場を盛り上げた。

「このご時世、中止するのは簡単なんです。それでも、楽しみにしている人がいる。何とかこういう形でなら実現出来るというモデルケースを提示出来れば」と語っていた松浦会長。事実、参加した障害者のダンスチームからは、「コロナで先が見えない中、ドレミファダンスコンサートの知らせが届いて、楽しみと目標が出来ました」という声が上がっていた。

来年の2回を経て、20回の記念大会は22年6月に予定している。新型コロナウイルスを取り巻く状況がどうなるのかはまだ分からないが、今後もクラブでは活動を拡大し、より多くの障害者の方に楽しんでもらいたいと考えている。

2020.11更新(取材・動画/井原一樹 写真/宮坂恵津子)