取材リポート "日本一暑い町"に癒やしを
街角オアシス保守管理

“日本一暑い町”に癒やしを 街角オアシス保守管理

2007年8月16日、岐阜県多治見市で最高気温40.9℃が観測された。これは1933年7月25日に山形県山形市で観測された40.8℃を74年ぶりに上回る、日本の観測史上最高気温となった。その後最高気温は何度か更新され、この記録は現在6位である。ただ、多治見市は40℃以上の気温が過去に6度と、国内で最も多く観測された地点となっており、暑い町として知られている。

多治見の暑さの理由としては、地理的な条件が挙げられる。周辺を山に囲まれた盆地であるうえに、市街地は住宅が密集しており、熱が逃げにくい環境だ。開発による緑地の減少、田んぼの宅地化なども影響している。史上最高気温を記録した頃から「日本一暑い町」としてPRをしている多治見市は、一方で「暑さ対策日本一」をモットーに取り組みを進めている。町中にミスト発生器を設置したり、市民にゴーヤの苗を配布して緑のカーテンを作ってもらったり、企業と協力してキャンペーンを行ったり、といったものだ。

そんな多治見市の暑さ対策の一つとして、風の通り道をつくることで気温上昇を抑えようと、スポット緑地設置事業が実施されている。これは緑化公園課が中心となって推進している事業で、町角に小さな緑地を設けるものだ。9年前、多治見陶都ライオンズクラブ(田中直樹会長/64人)が市内3カ所に設置した「街角オアシス」も、この延長線にある事業である。上山町、十九田町、金岡町にそれぞれ設置。植樹をして市に寄贈した。

多治見陶都ライオンズクラブは結成当初から環境問題に関心を持っており、当初は青少年の環境問題作文コンクールを開催していた。市内の八つの中学校に通う2年生から作文を募集することで、環境問題について啓発をしようという狙いだった。この作文コンクールには多くの応募があり、一定の成果があった。しかし、クラブでは自分たちが汗を流して、環境問題の解決に向けて直接寄与する事業を模索していた。そんな時に多治見市で史上最高気温が記録されたのである。

こうして「街角木かげづくり」と題して街角オアシスを設置した多治見陶都ライオンズクラブは、その後の保守管理も行っている。毎年8月に剪(せん)定、清掃などを実施。更に、それによってどの程度効果があるかを見るために作業の前と後に温度を測っている。剪定や清掃によって温度が変わるのか、と疑問に思われるかもしれないが、枝を切って雑草を抜くことで風の通り道が出来る。木陰になっているだけでも効果があるが、風通しが良くなれば更に温度が下がるのである。

多治見陶都ライオンズクラブは、この街角オアシスの整備作業を今年も8月23日に実施した。雨の予報が出ていたが、当日は快晴。集合時間の9時45分の時点で既に強い日差しが照り付け、厳しい暑さの下での作業となった。今年は感染症対策としてマスクを着けての作業のため、いつも以上に熱中症に気を付けての実施である。

実施に当たって、田中会長は随分と悩んだと言う。新型コロナウイルス感染拡大の影響があり、事業を実施することについて、クラブ内でもさまざまな意見が出たからだ。会長自身もこの状況下で実施しても良いのだろうか、と逡(しゅん)巡した。しかし、雑草や枝の成長は、人間社会の動きを待ってくれない。放置すれば、風通しが悪くなり、「オアシス」としての役割を果たさなくなってしまう。夏の暑さに耐えかね、木陰で休む人たちのことを思い、実施を決めた。屋外での作業であり、対策をしっかりすれば問題がないと判断。出来ることからやることで、少しでも市民の生活を良くするために役立ちたいとの思いもあった。ただでさえ暑い多治見の夏である。十分距離がある時は適宜マスクを外して作業をするように指示した。

街角オアシス整備作業に参加するのは多治見陶都ライオンズクラブのメンバーだけではない。街角オアシスを管轄する多治見市緑化公園課と道路河川課に協力を要請すると共に、市内の造園業者、長尾造園に剪定の箇所や、やり方などの指示を受けて実施している。代表取締役の長尾純夫氏は1995年に岐阜県が創設した「岐阜県緑の博士(グリーンドクター)」の最高ランク3A級の資格を保持。樹木保護の専門技術士として認定されており、環境や土壌条件などを考慮に入れて指示をしてくれる。また、造園のスタッフは炎天下での作業に慣れているため、地面に水をまいたり、休憩のタイミングを見計らったり、ともすればがんばりすぎてしまうメンバーの様子を見てサポートしてくれるのも心強い。

剪定作業前と比べると平均して3℃ほど気温が下がる

クラブでは10年ほど前に市内にある虎渓山(こけいざん)に桜を植樹し、桜の名所にしようという事業を実施した。その時に感じたのが、クラブ単独でやることには限界があるということ。さまざまな人を巻き込んで、みんなで行うことに意味があると考え、市民運動として盛り上げていこうとしている。この街角オアシスの事業も同じで、クラブだけで実施していてはいずれ先細りになってしまう。また、行政の取り組みだけではどうしても限界がある。多治見陶都ライオンズクラブは各団体に声を掛けて運動を広げ、住み良い町づくりを進めようとしている。

2020.09更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)