取材リポート ライオンズが全力応援
特別支援学級合同運動会

ライオンズが全力応援 特別支援学級合同運動会
※この記事は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で取材活動が行えないことから、過去の取材記事(ライオン誌2017年12月号クラブ・リポート)に最新情報を加え再編集したものです

障害のある子どもたちが自分たちに合った速度で教育を受けられるように、日本では特別支援教育が制度化されている。比較的障害の程度が重い子どもを対象にした特別支援学校、障害のある子どものために小・中学校に障害の種別ごとに置かれる特別支援学級、通常の学級に在籍しつつ特別な指導を行う通級による指導が主なものである。義務教育の全児童生徒数は少子化の影響で減少傾向にあるが、これら特別支援教育を受けている生徒の数は増加傾向にある。文部科学省の2017年の調査によると全体の約4.2%に当たる41万人が特別支援教育を受けているという。

特別支援学級の歴史は古く、1890年に長野県松本尋常小学校に設置されたのが始まりだった。この時は障害児だけでなく、学業不振児童も対象に教室を作った。その後も各地で実験的なものも含めて特別支援学級の取り組みが増加していく。戦後、1947年に制定された学校教育法によって法的に明確化され、各地に特別支援学校や特別支援学級が作られていった。

特別支援学校の1クラスは6〜8人、支援学級の1クラスは8人が定数に設定されている。少人数であることから、学校行事については実施が難しいものもある。特に運動会のような人数の多い方が盛り上がるものに関しては先生や学校が工夫をしている。通常学級の子どもと共に運動会に参加する場合もあるが、市や周辺地域で合同の運動会を実施しているところも多い。

広島県の呉市も合同運動会を実施している自治体の一つである。歴史は古く、64年から開催している。この合同運動会を市の教育委員会と共催しているのが呉グリーン ライオンズクラブ(池田忠志会長/44人)だ。81年から約40年、支援を継続している。きっかけは教育関係の奉仕活動を行おうと呉市教育委員会へ問い合わせをしたことだった。そこで要請されたのが呉市養護学級合同運動会(現在の名称は呉市特別支援学級合同運動会)への協力だった。当時、対象となる児童生徒は140人ほどで、運動会に参加出来るのは70人ほどだったという。保護者が見に来ることも少なく、運営のほぼ全てを先生方が担っている状況だった。特別支援学級の子どもたちの中には競技に参加する際にサポートが必要な子も多い。人手が圧倒的に足りていなかった。呉グリーン ライオンズクラブが協力することで、競技がスムーズに進むようになった。

クラブ側は、合同運動会への参加で大きな衝撃を受けた。子どもたちが懸命に競技に参加し、純粋に楽しんでいる姿に感動したメンバーたちは「もっと積極的に、もっと主体的に」という気持ちで運動会に取り組んでいく。当初は後援として名前を連ねていたが、いつしか共催という形で運動会を引っ張る存在となった。クラブからは参加賞として陶製のメダルを全員に寄贈している。このメダルは卒業生らが働く福祉作業所に発注。雇用の創出の意味もあり、毎年実施している。

市町村合併で学級が増えるなど、現在は450人以上が参加し、保護者やボランティア、学校関係者などを合わせると1000人以上が集まる大きな運動会になった。当初はまばらだった保護者も、20年ほど前から参観する人が増加。更に、参観だけでなく、一緒に競技に参加する保護者も増えてきた。また、ライオンズクラブ以外にボランティアとして参加してくれる人も増えているという。特別支援学級に対する社会的な意識が変わってきたことや、合同運動会自体が認知されてきたこともあるだろう。

クラブ・メンバーは競技の準備や児童・生徒の誘導に加え、サポート要員として競技に出場する。常に安全に気を配りながら動き、子どもたちを手助けする。また、応援で盛り上げるのもライオンズの仕事だ。メンバーが紅組白組に分かれ、太鼓を打ち、こいのぼりの旗を振っての応援合戦は圧巻だ。最近はプロ野球チーム・広島東洋カープのマスコット「スライリー」と、海と島の博覧会のマスコット「あび丸」も会場に登場する。あび丸の着ぐるみの中に呉グリーン ライオンズクラブの新会員が入るのが恒例となっている。あび丸は子どもたちに大人気。子どもたちに追い掛け回されるが、張り切って向かっていくと怖がられることもあるため、加減が難しく、終わった後はヘトヘトだ。だが、子どもたちの喜ぶ顔を見たり、お礼を言われたりすると「やって良かった」と思うという。

あび丸の中には新会員が入る

今年は新型コロナウイルス感染症の影響で運動会行事の中止が決定された。感染拡大防止ガイドラインで定められている参加者100人以下の基準を満たすことが難しいのと、会場の構造上、安全な状態で換気が出来ないこと、児童をサポートする際に密着せざるを得ないという特別支援学級の運動会ならではの事情から、判断が下された。クラブでは残念に思う一方で、これらの理由を鑑みての当然の判断だと考えている。しかしクラブとして、何とか子どもたちの心に残る奉仕活動が出来ないかと検討を重ねた。そんな中、参加賞のメダルを今年も贈呈する案が出てきた。「毎年頂く記念メダルを机に並べて喜んでいます。1年に1個ずつ増えていくのを楽しみにしています」「九つのメダルがあります。1回も休まず運動会に参加しました(中学3年生)」「子どもたちにとって1個のメダルが一つの自信になっております」といったメダルに対する反響が毎年多く寄せられることが決め手となった。そこで今年は、新型コロナウイルス感染症に打ち勝とう、という思いを込めて記念メダルを発注。例年通り福祉作業所に発注することも奉仕につながると考えた。

新しい生活様式が提唱され、世の中が少しずつ動き出している。一方で連日、東京を中心として新たな感染者が報告されているのも事実だ。来年以降、特別支援学級合同運動会の形がどうなるのかは分からない。だが、クラブでは子どもたちの心に残る奉仕活動を、どんな状況でも考えていく。今年の記念メダル裏面の言葉が、呉グリーン ライオンズクラブの気持ちを表している。

「一歩いっぽ みんなで力をあわせて がんばろう」

2020.08更新(記事/井原一樹 撮影/宮坂恵津子)
※写真は2017年10月取材時に撮影したものです