取材リポート 石狩の玄関を奇麗に
道道273号線清掃

石狩の玄関を奇麗に 道道273号線清掃

日本最北の政令指定都市、北海道札幌。明治政府が開拓事業の本拠地とするため本庁を設置したのが発展の始まりであった。京都を参考に作られ、道路が碁盤の目のように通っている札幌は北海道開拓が進むにつれて大きくなっていく。現在では北海道の人口の約1/3を擁する大都市で、神奈川県横浜市、大阪市、愛知県名古屋市に次いで4番目に人口が多い市にまで発展した。

明治時代以前の北海道では松前藩がアイヌ民族との交易を独占。交易地を「場所」と呼び、場所請負人と呼ばれる商人に交易を任せていた。その中でも代表格となったのが石狩場所の村山家である。村山家は1694年に建設された石狩弁天社を再建し、松前藩の参勤交代の費用を出すなど隆盛を誇った。こうしてアイヌとの交易の拠点として栄えた石狩。18世紀中頃からは石狩山のエゾヒノキの伐採が始まり、19世紀初頭にはサケ漁場が開かれるなど、町としても発展していく。歴史としては札幌よりも古い町だが、石狩は急発展していく札幌のベッドタウンとして、昭和50年以降、急激に人口が増加。昭和40年代には1万人前後だった人口が、現在は約6万人になっている。

石狩と札幌をつなぐ主要な道の一つに北海道道273号花畔札幌線がある。これは石狩市役所前から札幌駅近くまで通じており、石狩の玄関とも呼べるような道だ。歴史も古く、1873年に開拓者、早山清太郎によって作られた。札幌から北に伸びる道としては最古のものである。

この北海道道273号花畔札幌線で街路樹の剪(せん)定、ゴミ・雑草撤去を実施しているのが石狩ライオンズクラブ(花田和彦会長/33人)である。2008年に始め、以降毎年実施している。今年も7月19日に行った。当日は最高気温が30℃近くまで上がる晴天。メンバーたちは熱中症にならないよう、途中給水を挟みながら作業に従事した。今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止も議論されたが、外で行う事業であることと、雑草が伸び続けてしまうことから実施を決めた。

事業のきっかけとなったのが、竹内義和実行委員長だ。竹内委員長の会社は北海道道273号花畔札幌線沿いにある。出勤する度に草が伸び放題になっている道が気になっていた。そこで自分が石狩ライオンズクラブの会長に就任した際にクラブの事業として清掃の実施を提案したという。冬の時期を除き、毎月少しずつ実施していく計画を立てた。対象は北海道が管轄している石狩市内の2km余り(道道ではあるが、札幌市内の部分は札幌市が管轄している)。北海道に申請をし、許可を得て従事する。街路樹の剪定をし、雑草を抜く。大変な作業だが、徐々に奇麗になっていく道にやりがいを感じるという。メンバーの家族も協力してくれており、クラブ一丸となって実施する恒例事業となっていった。一般からも参加者を募集。参加してくれた人には感謝状を贈った。

こうして実施している中で北海道側から「アダプトプログラム」のアナウンスがあった。「アダプト」とは養子縁組のこと。アメリカ・テキサス州で1985年に導入された、市民と行政の協働を進めるプログラムだ。市民側が「里親」のような存在となり、自主的に「養子」である区域の美化、環境保全を行うというもの。行政は指示するのではなく、支援に回る。石狩ライオンズクラブも打診を受けてプログラムに参加した。アダプトプログラムが適用されると、北海道が実施中に起きた事故に対しての保険に加入してくれる。また、以前はクラブで処理していた雑草などのゴミも処理してくれるようになった。

クラブで意識しているのは、「やったつもり」にならないことだ。道路全てを一気にやろうとすると、どうしても雑になってしまう。それよりも実施区間を決めて、そこを徹底的に奇麗にしようという考えで実施している。業者に任せた方が奇麗になるようではやる意味がない。毎回しっかりと清掃すると、一度奇麗にしたところの維持が楽になるという。

クラブが定期的に作業をすることで、周辺の住民たちの意識も変わってきたという。当初は見向きもされず、雑草が伸び放題だったが、最近ではライオンズが清掃した後を自主的に維持してくれる個人や企業も増えた。雑草が抜かれた後に花を植えるなどして奇麗な状態にしている人もいる。清掃活動に毎回参加してくれたり、清掃活動の際、駐車場を貸してくれたり、協力してくれる近隣住民も多いことも、活動が認知されている証拠と言えるだろう。また、こうして参加してくれる人の中からライオンズクラブに入会する人も出てきており、今やクラブの看板事業の一つとなっている。

09年以降は毎年7月と10月にこの道道273号線の街路樹剪定、清掃事業を実施している。事業終了後は反省会を開き、メンバーの家族の協力で懇親会も行う。これによってクラブ内でのコミュニケーションも増え、アットホームなクラブ運営につながっているという。

北海道道273号花畔札幌線の石狩市内の部分だけでも全てをやり終えるには時間が掛かる。だが、メンバーの出席率も高く、近隣住民からも評判が良いため、ここまで頓挫せずに少しずつやってくることが出来た。竹内委員長は「実施する度に報告を写真で送っているが、いずれやりきった時には道の担当者に実際に見に来てもらいたい。ライオンズクラブに任せて良かったと思ってもらえると思う」と語っている。

2020.08更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)