取材リポート 輪島を緑にあふれた町に
計100本の桜の植樹

輪島を緑にあふれた町に 計100本の桜の植樹

能登半島の北西に位置し、輪島塗と朝市で有名な石川県輪島市は古くから港町として栄えてきた。天然ふぐの水揚げ量は日本一であり、400年以上続く海女文化の素潜り伝統技術が県の指定無形民俗文化財に指定されている。また、輪島塗や朝市などで有名な観光地でもある。2015年に放送されたNHKの朝の連続テレビ小説「まれ」の舞台となったことや、東海北陸自動車道の開通以降、関西地方からのアクセスが良くなったこともあり、旅行先として人気が高い。

行政も観光事業に力を入れており、輪島港を再開発し、みなとオアシス輪島マリンタウンとして2015年にオープン。郊外にあった輪島キリコ会館を移設するなど新たな観光の拠点となっている。一方でマリンタウンは地元の人にも親しまれている。大きな遊具が設置された「マリンタウンこどもの広場」は子どもたちの遊び場となり、整備された海沿いの道は定番の散歩コースだ。住民、観光客に愛される輪島の新名所となっている。

4月4日、そんな輪島マリンタウン周辺で輪島ライオンズクラブ(五嶋躍治会長/52人)が35本の桜を植樹した。これはクラブが結成50周年を迎えたことを記念して実施したもの。富山県、石川県、福井県にあるライオンズクラブが所属する334-D地区が今年度、目標としている1万本の桜の植樹に合わせたものでもある。クラブでは前週の3月28日にも市内の一本松公園に35本を植えて、計70本を植樹。それに加え、市内の中学校3校にそれぞれ10本ずつ桜の苗木を寄贈して植樹してもらう。全てを合わせて100本の桜がクラブによって植えられた。

輪島ライオンズクラブは結成当初から輪島を緑にあふれた町にしようと活動を続けてきた。最初に環境保全事業を実施したのは結成2年目の1971年のことだった。この時は市に1000本の苗木を寄贈。その後も数年おきに植樹を繰り返している。毎年5月30日と10月30日に行われる輪島市のゴミゼロ運動の際には、今まで植樹した場所の清掃に加え、補植や剪(せん)定、草刈りなどのメンテナンスも行っている。周年事業を行う際など、数年に一度、クラブの過去の活動を振り返ってまとめており、新しく入ったメンバーもクラブが行ってきた事業の歴史を学べるようにしている。そのため、今までの植樹を誇りに思うメンバーも多く、意識は非常に高い。

クラブが植樹した一本松公園は市内でも有数の桜の名所だが、実はその桜にはライオンズクラブが昔から少しずつ植樹してきたものが多数含まれている。長い期間楽しめるようにとの思いでさまざまな種類の桜を植樹している。そのかいもあって、今では花見の時期に人でいっぱいになるほど人気のスポットになった。各種ウェブサイトで紹介されていることもあり、観光客も訪れる。一本松公園には桜だけではなく、椿や市の花である水芭蕉なども植樹をしており、ゲートボール場もクラブが整備して寄贈したものだ。公園の歴史を語る上で輪島ライオンズクラブは欠かせない存在である。

今回、一本松公園に建てた50周年記念植樹の碑

花の華やかさにばかり目が行きがちだが、桜は害虫が付くなどの問題もある。環境に対する常識や理論は時代と共に変化しているため、絶えず情報を集めながら実施しなければ、目的とする環境保全とは逆の結果になってしまうこともある。以前は街路樹として桜がよく選ばれていたが、現在は輪島でも他の木が植えられることが多くなった。

こうした状況の変化も踏まえ、輪島ライオンズクラブでは、市の環境対策課と協議をした上で植樹事業を進めている。今回の植樹に関しては1月ごろから準備を開始し、3月28日と4月4日の実施に至った。その中でクラブが悩んだのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。植樹は労力奉仕であり、現地に行かなければ実施出来ない。当然、集合しての活動になる。中止するかどうかクラブ内で議論となった。ただ、当時まだ輪島の周辺では感染者が出ていなかったこと、風通しの良い屋外での実施ということもあり、注意して実施することになった。

実施当日は非常に強い風が吹き付けていた。メンバーは草刈り担当と植樹担当に分かれて作業を行う。マリンタウンの海沿いの道およそ200mをいくつかのグループで植樹していく。草を刈り、地面を掘り、苗木に支柱を添える。今年、マリンタウン周辺に植樹したのはまだ若い桜の苗木だ。植樹場所は海からの風が強いため、なかなか根付くのが難しい。開発時に植えられた木々の中にはうまく育たないものもあるという。そこで、環境に適応して立派な花を咲かせてくれるのではないかとの期待を込めて、大きくなっていない苗木を選んだ。定着し、新たな桜の名所となることをクラブでは期待している。

一本松公園は一部の桜がほぼ満開になっていた

今年はコロナウイルスの影響で観光産業を重要視している町は軒並み厳しい状況に追い込まれている。輪島を含めた能登半島も例外ではなく、普段は7割以上の搭乗率を誇る、のと里山空港発着便も取材時は行きが13人、帰りは14人という少なさだった。だが、輪島の人は明るさを忘れない。「大変な中来てくれてありがとうね。厳しい状況だけど、力を合わせて乗り越えていくよ」と土産物屋の女性は笑顔で話し掛けてくれた。来年以降、コロナウイルスが収束した暁には、クラブの植えた桜が住民や観光客の目を楽しませてくれることだろう。

2020.05更新(取材・動画/井原一樹 撮影/田中勝明)