奉仕活動昔ながらの自然が広がる
見沼たんぼで体験教室

昔ながらの自然が広がる 見沼たんぼで体験教室
※この記事は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で取材活動が行えないことから、過去の取材記事(ライ オン誌2017年12月号クラブ・リポート)に最新情報を加え再編集したものです

2019年、国内で旋風を巻き起こした映画「翔んで埼玉」。破天荒なコメディー映画であるにもかかわらず、日本アカデミー賞で最多ノミネートを果たし、監督賞、脚本賞を受賞した。更に8月25日に行われた埼玉県知事選挙では、本作を広告塔に起用。16年ぶりに投票率が30%を超えたことも大きな話題になった。

この映画「翔んで埼玉」で、埼玉県はまるで未開の地のように描かれている。田んぼや自然が広がり、いわゆる都会とはかけ離れた印象だ。もちろん実際の埼玉県は違う。人口は700万人を超え、人口密度で言えば全国4位となっている。

だが、そんな埼玉県の中心地の一つであるさいたま新都心駅や大宮駅から2~3kmの所に「翔んで埼玉」で描かれたような広大な緑地空間が広がっていることをご存じだろうか。その名は「見沼たんぼ」。田んぼや雑木林などがあり、多くの生き物が暮らしている。約1260haともなる巨大な自然が都市部の近くにあることには驚く人も多い。もちろんこの「見沼たんぼ」は映画で描かれたように未開地であるから自然が広がっているわけではない。地元の人々の尽力によって、昔ながらの自然が保たれているのだ。

海面が今よりも高かった古代、見沼周辺は入り江となっていた。貝塚が多く見つかっていることから、人々が住み着いたのは縄文時代と思われる。弥生時代に海が後退。周辺は湿地帯となり、見沼と呼ばれるようになる巨大な沼が生まれた。その後、江戸時代に干拓され、戦後まで田んぼとして周辺の食料供給の重要地となった。ところが高度経済成長期になると、埼玉県はベッドタウンとしての需要が高まり、見沼の一部では宅地化が進んでいった。

その事態を一変させたのが、1958年に発生した狩野川台風である。気象庁が史上初めて公式に名称を与えたこの台風は静岡県や神奈川県、東京都で大きな被害をもたらした。一方、沼が貯水池の役割を果たした見沼周辺では他の地域と比べて被害は少なく、見沼の治水機能が注目された。これを受けて県は宅地化を原則として認めない「見沼三原則」を策定。環境保護というよりも治水が目的であったが、結果として見沼の貴重な自然が守られ続けていくことになる。

70年代に入ると米の生産調整が行われるようになり、畑地への転換が多く見られるようになった見沼では、80年代後半頃から後継者不足などにより休耕地が増えてしまう。そこで県は95年に「見沼三原則」に代わる「見沼田圃の保全・活用・創造の基本方針」を示し、公有化しながら保全をするようになる。

こうした公有地を活用してもらおうと、県は08年からNPO法人などに農業体験事業を委託している。見沼を活動域に含む女性クラブ、さいたま桜ライオンズクラブ(大川信子会長/34人)は、そんな委託先の一つであるNPO法人地域人ネットワークと連携して「見沼田んぼ菜の花農業体験教室」を実施している。

教室は4月から翌年3月まで1年を通して実施される。菜の花から菜種を収穫し、ナタネ油を作ることを主軸とした事業だが、他にも大根やじゃがいもの植え付け、コスモスの花摘みなども行っている。年8~9回、バラエティーに富んだ盛りだくさんの教室だ。教室を通して子どもたちに農業の苦労や喜びを感じてもらい、農業をより身近なものとして実感してもらう狙いがある。

17年に始まったこの教室も19年度で3度目となった。今年3月までの19年度も参加者と共に2月まで活動を続けてきたが、最後の活動日で、3月に実施予定であった卒業式、お別れ会は残念ながら新型コロナウイルスの感染拡大による影響で中止を余儀なくされた。台風などの自然災害が起きても日程を延期するなどして全行程を行っており、中止は初めてのことだった。それだけクラブでも事態を重く見ての苦渋の決断だった。20年度の実施は予定しているが、いつから始められるのかはまだ見通しが立っていない。

例年、募集が始まるとすぐに埋まってしまうほど住民たちからの人気が高いこの事業。20年度開始時期が未定であるにもかかわらず、定員の100人は既に埋まっている。それだけ待ち望んでいる人たちがいるのだ。県の委託事業であるため、県の判断を仰いでの実施となるが、クラブとしてはいつやることになっても大丈夫なようにNPO法人と連携を取っている。

当初は手探りの状態だったこの事業。だが毎回、例会の幹事報告で、参加出来なかったメンバーへの情報共有をしっかりとした結果、1年間の流れがメンバーに浸透。意識も高くなり、今では皆が楽しみながら参加している。特に参加者、メンバーにとって人気が高いのが12月に行っている芋煮会だ。女性クラブならではの強みを生かし、メンバーが奮闘。皆で収穫した里芋を調理して味わう。また、毎年3~4回、収穫した野菜をこども食堂に提供し、役立ててもらっている。昨年度は参加者による絵本の読み聞かせが実施されるなど、新しい取り組みも行われた。地域のさまざまな団体と連携して実施する農業体験教室は、さいたま桜ライオンズクラブの活動の大きな柱となっている。

2020.05更新(記事/井原一樹 撮影/田中勝明)
*写真は2017年11月取材時に撮影したものです