取材リポート 独り暮らしの高齢者と
過ごす楽しいひと時

独り暮らしの高齢者と過ごす楽しいひと時

近年、核家族化や少子高齢化により、独り暮らしの高齢者人口が増加している。内閣府の調べ(平成30年版高齢社会白書)によると、65歳以上の独り暮らし高齢者の人口は、1980年には男性約19万人、女性約69万人(高齢者人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%)であったが、2015年には男性約192万人、女性約400万人(同・男性13.3%、女性21.1%)と大幅に増加。この傾向は今後しばらく続くと予測されている。

独り暮らしは誰にも縛られない気楽さがある一方で、高齢者にとってはリスクも潜む。食事一つとっても、量や内容に気を使わなければ摂取する栄養が偏り、健康に悪影響を及ぼしてしまう。また、認知症を発症してしまった場合、周りに気付く人がいないことで近隣トラブルに発展するケースもある。詐欺などの犯罪被害に遭う危険性や、孤独死の可能性もある。こうした問題に早くから着目し、行動に移したのが茨城八千代ライオンズクラブ(大里洋治会長/38人)だ。1988年から年に一度、1人で暮らす町内の高齢者宅を訪ねる活動を行っている。

同クラブが活動する茨城県八千代町は、関東平野のほぼ中央、茨城県西部に位置する県内有数の園芸産地。人口は約2万2000人で、その多くが農業従事者だ。訪問する相手は80歳以上の高齢者。統計上は1900人近くになるが、このうち同じ敷地に家族が暮らしているケースを除く122軒が今回の訪問事業の対象だ。クラブ・メンバーが全ての家を訪れ、花鉢と菓子折りを手渡して、つかの間の話し相手を務める。

年に一度の機会とあって、訪問を受ける高齢者はこの日が待ち遠しいようだ。
「町の社会福祉協議会に協力を仰いで対象者のリストを作成し、来訪の趣旨と訪問日時を記載したハガキを対象者全員に送付しています。『用事が入っているので時間を変更してほしい』と、クラブ事務局に電話が入ることも少なくなく、楽しみにしてもらっていると実感します」(大里会長)
クラブでは時間変更などの要望には可能な限り応え、場合によっては日を改めて訪問することもある。

3月5日の訪問当日、メンバーは12時30分に中央公民館に集合した。各自訪問先の確認を済ませると、用意された花鉢とお菓子を車に積み込んだ。訪問は2人1組。なるべく毎年同じ顔ぶれで訪問出来るようチーム分けされている。訪問先は、合併して八千代町になる以前の旧五村別に振り分けられており、用意が出来たチームから出発する。一つのチームが担当するのは8〜10軒ほど。全てを訪問し終える頃には日が暮れているという。この取り組みは、花やお菓子を渡して独り暮らしの高齢者の皆さんに喜んでもらうと共に、対話の時間を取ることを重要視している。

「元気にしていたか」
「どこか痛いところはないか」
「変わったことはなかったか」
「家族はたまに来ているのか」

メンバーからこんな声を掛けられると、普段一人で過ごす時間が多いせいか、堰を切ったように夢中で身の上話を始める高齢者もいるという。話す相手がいるだけでも十分にうれしいのだ。玄関先での立ち話が多いが、茶菓子を用意しているからと家に上がるよう勧められることもある。

「毎年、私たちが訪問する時間に合わせて必ず外で待ってくれているおばあちゃんがいます。ある年にお宅にお邪魔すると、みそを塗ったおにぎりを用意してくれていて『今日一日、たくさん家を回るのだから、たくさん食べていきなさい』と、温かい気遣いを頂きました。たくさんお話をした後、来年また来ますと伝えて車を出すのですが、いつも我々が見えなくなるまで玄関先で手を振ってくれます。毎年訪ねる度に元気な顔を見られることが楽しみになっています」(大里会長)

対話を重視しているのには、独居高齢者の様子に何か変わったところはないかを確認するという目的もある。近年は高齢者を狙った振り込め詐欺や悪質商法の被害も増えているので、なるべく予防になるような注意喚起も行っている。訪問時に様子がおかしいと感じた時にはすぐに社会福祉協議会へ連絡を入れる算段になっている。八千代町では、社会福祉協議会の職員が独り暮らしのお年寄り宅を不定期に訪問している他、商工会婦人部が弁当を配達する時にお年寄りと会話を交わすなどの見守り活動が行われている。毎年欠かさず訪問を続ける茨城八千代ライオンズクラブもその一翼を担い、各団体それぞれの取り組みによって高齢者が社会との接点を持ち続けられるように、緩やかな協力体制が構築されている。

今年度の実施に当たっては、新型コロナウイルスの感染予防を理由に自粛も検討された。それでも実施に踏み切ったのは、「待っている人たちのことを考えると実行すべき」というメンバーからの声が多かったため。

「メンバーそれぞれに、毎年楽しみにしている高齢者たちの顔が浮かんだのではないでしょうか。クラブとしても出来るだけ多くの独居高齢者のお宅を回りたいと考えていて、いずれどこかのタイミングで以前のように活動の対象を75歳以上に戻す考えでいます」(大里会長)

大里会長が話すように、この取り組みには、ある年に急激に対象人数が増えたことによりやむなく対象年齢を75歳以上から80歳以上に引き上げたという苦い経緯がある。町内には75歳以上で独居の高齢者も一定数暮らしていることは分かっているので、以前の水準に戻すというのがクラブの目下の目標だ。ただ、大きな課題も立ちはだかる。1947〜49年生まれのいわゆる団塊の世代が2017年から70歳を迎え始め、75歳以上の人口は今後全国的に大幅増になる見通し。先輩ライオンらが築き上げ、今では地域全体で必要とされている取り組みとなっているだけに、クラブには今後も活動を継続してもらうことを願うばかりだ。

2020.04更新(取材・動画/砂山幹博 撮影/田中勝明)