奉仕活動因島から国際人を
1日留学体験実施

因島から国際人を1日留学体験実施

瀬戸内海のほぼ中心に位置する因島(いんのしま)。広島県尾道市に属しており、島内には約2万3000人が暮らしている。因島は南北朝時代から戦国時代にかけて活躍した村上海賊が拠点とした場所。2016年には周辺の島を含めた芸予(げいよ)諸島が日本遺産に認定された。因島自体は広島県に属しているが、南側は長崎瀬戸を挟んですぐの所に愛媛県上島諸島があり、多くの市町村が合併した平成の大合併の際は越県合併「しまなみ市」構想が模索されたほど県外とも交流が深い土地である。

1月26日、因島にある因北中学校で「インターナショナルスクール イン いんのしま」というイベントが実施された。主催は尾道因島ライオンズクラブ(村上明裕会長/49人)とNPO法人いんのしま教育支援ネットワーク。講師はALTの先生方だ。ALTとはAssistant Language Teacherの略。外国語を母国語とする外国語指導助手のことだ。因島の中学校に勤めるALTに加え、愛媛県の近隣中学校のALTも参加している。ALTによる授業は全て英語で行われる。1日中英語漬けで過ごし、日本にいながらにして留学体験が出来るイベントだ。近隣の中学生が対象で、愛媛県内の中学校からも参加者が多い。

尾道因島ライオンズクラブがこの事業を主催するようになったのは、15年前のことだ。いんのしま教育ネットワークからの協力要請に対し、国際人を育てることは青少年育成事業の観点からも重要だと感じ、賛同。共同で主催するようになった。その際、地理的に近い愛媛県の中学生やALTも一緒に参加してもらうのはどうかという案が出た。公的機関ではないライオンズクラブだからこそ、県を越えてALTや生徒を集めることが出来たという。

県を越えての事業は苦労も多かった。今でこそ当たり前のように毎年実施しているが、初めて実施する際は、双方の教育委員会と何度も話し合いを重ねて実現に至った経緯がある。ここで出会った生徒同士が高校に入って再会したという話もあり、子どもたちにとっては他校の生徒と触れ合う良い機会にもなっている。

メンバーは教室間の移動や授業の補助を担当する

今回は広島と愛媛の中学校から生徒たちが70人ほど、ALTと先生が合わせて20人強集まった。生徒には四つのグループに分かれて、4科目の授業を1時間ずつ体験してもらう。科目は11月頃に打ち合わせをし、ALTの得意なものを募って決定する。例年、料理、音楽、スポーツに1科目加えるのが定番となっている。今年は4番目の科目としてスペイン語を選んだ。以前、開発途上国からのALTが参加した際は泥水をろ過して飲める状態にする体験を行ったこともある。

当初は休日にALTを集めることに対して懸念もあったが、実施してみるとALT側のモチベーションが非常に高く、驚いたという。「自分たちの出来ることを伝えたい」「ぜひやらせてほしい」という意見が多く、積極的に参加してくれている。

インターナショナルスクール イン いんのしまでは基本的に1日中英語で会話をするため、開会式も英語で進行する。司会を担当する松浦政浩YCE副委員長も、村上会長のスピーチも全て英語だ。ALTの自己紹介の後は他の学校から来た生徒同士が打ち解けやすいよう、アイスブレイクの時間を取る。今回はALTと生徒10人程度のチームに分かれ、ボディじゃんけんを行った。最初は静かだった生徒たちも会話が弾み、一気に距離が縮まっていた。

料理の授業では南アフリカ共和国でよく食べられているというお菓子「ビスケット・ファッジ」を作る。レシピは当然全て英語。生徒たちはALTが示す手本を見ながら協力して完成に近づけていた。ビスケット・ファッジはオーブンで焼く必要がないお菓子だ。ビスケットを砕き、バターと卵、ココアパウダーにバニラエッセンスを加え、鍋に入れて弱火にかけながらよく混ぜる。冷やして固めたものを切り分ければ完成だ。調理のアドバイスも英語。好きな食べ物の話などの雑談も英語で行う。なかなか英単語が出てこない生徒たちも、懸命に考えてコミュニケーションを取っていた。

音楽の授業では班ごとに英語の歌の歌詞を入れ替えた替え歌を作る。用意された単語のカードを入れ替えて意味が通じるようにしていく。作った歌はALTと共に班ごとに発表。人気映画「アラジン」の曲だったこともあり、子どもたちは楽しそうに「作詞」をしていた。

スポーツの授業ではバスケットボールから派生した競技、ネットボールを行った。ネットボールは簡単に言えばパスだけでボールをつなぐバスケットボールで、ポジションごとに役割が決められている。他校の生徒とチームを組んでプレーするため、自然とコミュニケーションも生まれる。つい日本語が出てしまう子もいるが、何とか英語で話そうと努力する姿がほほ笑ましい。

最も難解に思われるのがスペイン語の授業だろう。英語で話すだけでも大変なのに、他の言語を英語で学ぶのは子どもたちにとっては大きな挑戦だ。しかし、現代においてスペイン語は世界でも話者数が多く、国際的な需要が非常に大きい言語である。ALTも英語で他言語を学ぶことへのハードルの高さは想定しており、写真でスペイン語圏の文化を説明したり、映画を紹介したりしてより身近に感じられるように授業を構成していた。

尾道因島ライオンズクラブがこの事業を続けているのは、青少年育成が第一の目的だ。ALTとより深く触れ合うことで、日本だけではなく海外へも目を向け、グローバルに活躍してもらいたいと思っている。現に、この事業をきっかけに海外に興味を持ち、現在はニューヨークで勤務しているという人もいる。保護者からの反応も良く、メンバーはその成果に誇りを感じている。

一方で、因島を好きになってほしいという気持ちも大きい。島で育った若者の8割、9割は大人になると一度は島の外に出ていく。その流れを無理に止めることは出来ない。だが、因島での思い出を持ち続けてくれれば、その土地で因島のことを広めてくれる。島への愛着もわく。こうして因島を愛する人が増えれば、いずれは島に戻ってきたり、話を聞いて移住したりする人が出てくるかもしれない。

2020.03更新(取材・動画/井原一樹 撮影/関根則夫)