テーマ 水質日本一を目指し
中学生と共に水草回収

水質日本一を目指し 中学生と共に水草回収

猪苗代町、会津若松市、郡山市にまたがる猪苗代湖は、磐梯山のふもと、標高541mの高地にある。春、残雪の磐梯山を背景に桜が咲き、夏は湖水浴やキャンプ、ヨットなどのレジャーを楽しむ人たちでにぎわいを見せる。湖畔に静けさが訪れる10月初旬にはシベリアから白鳥が飛来して冬の訪れが近いことを告げ、深い雪に覆われる真冬、風にあおられた波しぶきが岸辺の木々が凍りつく「しぶき氷」が現れて、自然の造形美を見せてくれる。四季の移ろいと共に多彩な表情を見せる猪苗代湖は、周辺に暮らす住民のみならず多くの福島県民にとって郷土の原風景となっている。

今年最初の白鳥が飛来して間もない10月10日、猪苗代湖北岸の天神浜で猪苗代町立東中学校の生徒と猪苗代ライオンズクラブ(山口剛会長/49人)による水草回収活動が行われた。東中学校が全校ボランティアとして実施し、ライオンズの協力によって8年前から毎年続いている活動だ。

面積103.3平方kmと国内で4番目に大きい猪苗代湖には、大小21もの川が流れ込む。中でも大きいのが途中で酸川と合流した長瀬川で、鉄やアルミニウムが溶け込んだ強い酸性の水を湖に運び込む。その酸性の水が中和される過程で、リンや窒素などの栄養分が吸着され湖底に沈殿。この自然の浄化作用によって、透明度の高い猪苗代湖の水質が保たれてきた。環境省が発表する湖沼の水質状況のランキングでは、2002年から4年連続で日本一の評価を受けた。

ところが10年余り前から水質の悪化が顕著に見られるようになった。水質汚濁の代表的な指標であるCOD(化学的酸素要求量)が上昇し、大腸菌群数が環境基準を超え、水質評価のランキング・トップ10から外れてしまった。長瀬川の水量の減少や酸性度の低下、家庭排水の流入などによって湖水の中性化が進んだことが原因で、有機物を浄化させる機能が低下したためだ。

こうした事態を受け、猪苗代湖に再び日本一の水質を取り戻そうと、地域のロータリークラブやNPOなどさまざまな団体が水質改善活動に乗り出した。その一つとして多くの県民や企業が参加して盛んに行われているのが、湖岸に漂着した水草の回収活動。秋になると大量の水草が浜に打ち寄せられ、それが腐敗して水質汚濁を引き起こすため、その水草を除去する活動だ。

猪苗代ライオンズクラブは07年に、福島県が水環境保全を推進するために設置した湖美来(みずみらい)基金の助成を受けて資材を整備し、猪苗代湖のクリーンアップ活動に取り組み始めた。そんな中、東中学校から生徒のボランティア活動に協力してほしいという依頼が舞い込む。猪苗代湖畔の清掃活動を行った1年生の生徒たちが、猪苗代町のために何か役に立つことは出来ないかと自発的に声を上げたのだという。11年秋、ライオンズと共に水草除去を行った生徒たちが生徒会に提案し、この活動を全校生徒で実施することに。翌年からは午前中に1、2年生、午後は3年生が授業の一環として作業を行うことになった。

中学生と共に取り組むこの活動の意義を、山口剛会長は次のように話す。
「猪苗代ライオンズクラブは青少年育成と環境保全を活動の柱としています。その二つが一体化した水草回収はクラブにとって重要な事業です。猪苗代湖の水質改善を図ることはもちろんですが、中学生の皆さんにボランティア精神を育む、大変意義のある活動だと考えています」

回収作業が始まる前、天神浜の水辺には、ヒメホタルイやセキショウモなどの水草が打ち上げられ、緑の帯が延々と続いていた。午前10時半過ぎ、長靴を履いて浜に集まった1、2年生38人は、猪苗代湖の自然を守る会の鬼多見賢さんから猪苗代湖の水質に関する解説を聞き、続いてライオンズ・メンバーから作業内容や注意事項の説明を受けて、活動を開始。レーキを使って水草をかき寄せ、フォークで持ち上げて回収用ケースに集めると、待機しているホイールローダーのバケットや軽トラックの荷台に運び入れる。レーキで水草をかくとたちまちアンモニア臭が鼻を突いた。生徒たちは思わず顔をしかめながらも、役割を分担し、協力して作業を進めていく。およそ1時間で150mほどの水草が取り除かれた。

回収作業に使うレーキやフォーク、回収用ケースは、猪苗代ライオンズクラブが湖畔に設置したウェアハウスに保管されている。この日朝9時半に集合したメンバーは、ウェアハウスから道具を運び出し、浜辺に整然と並べて生徒の到着を待ち受けた。水草の回収に用いるホイールローダーや軽トラックも、メンバーが業務用車両を供用する。生徒たちが作業を始めると、メンバーたちはケースを運んだり、車両に満載した水草を運び出したりと、忙しく動き回った。

浜から回収した水草は、メンバーの所有する畑に運び込み、1年間かけて堆肥化する。水草堆肥には窒素やリンなどが含まれ、栄養分豊富。猪苗代ライオンズクラブでは町内3カ所に設けたライオンズ花壇で、これを活用している。毎年6月に植え付けたサルビアやマリーゴールドの花は、10月になっても鮮やかな花を咲かせていた。

「水草堆肥を使うようになって、花持ちが良く、色も鮮やかになりました。水質改善のために回収した水草が優良な堆肥となって環境美化に役立つ。まさに循環型の奉仕活動だと自負しています」
と話すのは、中学生との協働を始めた年度にクラブ会長を務めていた佐賀幹雄事業委員長だ。

猪苗代湖を愛する多くの人たちの努力によって、17年度は水質ランキング8位となって、9年ぶりのランクインを果たした。佐賀委員長は、再び日本一になることを目指して今後も活動を続けていきたいと言う。

午前中の作業を終えて1、2年生が学校に戻ると、ライオンズ・メンバーは天神浜に近い小平潟天満宮の社務所を借りて昼休憩。午後2時前に3年生32人が天神浜に到着し、今度は午前のような説明は抜きですぐに作業に取り掛かった。3年生は3回目とあって、慣れた様子で手早く作業を進めていく。1、2年生が苦労して持ち上げていた回収ケースも、さほどの苦もなく運んでいた。

生徒たちの熱心な働きぶりの理由を、3年生の担任を務める川崎英幸教諭が説明してくれた。
「生徒たちは自分たちの先輩が古里の役に立ちたいと考えてこの活動を始めたこと、そのためにライオンズクラブの皆さんが協力してくださっていることをよく理解しています。ですから、生徒たちに『やらされている』といった意識はなく、積極的に取り組んでいるんです」

作業は午後3時前には予定していた範囲の回収を終えて終了。1日で約400mにわたり打ち上げられていた水草が奇麗に取り除かれた。最後に生徒代表からライオンズに向けて、感謝の言葉が送られた。
「僕たち3年生は今回が最後の水草回収となりますが、これからも猪苗代湖のために自分に出来ることをしていきたいです」

中学生の胸に郷土の環境を大切に思う心と、ボランティア精神が確かに芽吹き、育っている。

2019.11更新(取材/河村智子 写真・動画/宮坂恵津子)