取材リポート 和の体験で知る
おもてなしの心

和の体験で知る おもてなしの心

十和田ライオンズクラブ(福山新悟会長/73人)は、十和田市内の小学校を対象に、茶道体験を通じておもてなしの心を学んでもらう「和キッズ体験プロジェクト」を実施している。今期で6年目を迎えるこのプロジェクトは、茶道の心得のあるライオンズ・メンバーが中心となって、小学校へ出向いてお茶やお菓子の頂き方を指導するというもの。12月6日には市立四和(しわ)小学校・中学校で行った。

プロジェクトの発端は、青少年育成事業を検討していたあるメンバーのアイデアだった。
「自分に何が出来るかと考えた時、私の場合は日本舞踊でした。普段、小学生にも教えていましたので。また、クラブのメンバーには長年茶道をされている方が数人いて、作法を指導することが可能だろうと考え、日本舞踊と茶道から『和』というキーワードが思い浮かびました」とは、この日の講師役を務めた中尾利香青少年委員長。こうして「和キッズ体験プロジェクト」は、お茶と日本舞踊の二本立てで始まった。

「始めてみて思ったのは、個別指導の割合が多くなる日本舞踊は、1コマ45分間という小学校の授業の中だと参加児童全員への対応が難しくなるということ。そこで、最近は日本舞踊をお休みし、お茶一本に絞って和キッズ体験を行っています」(中尾委員長)
毎年、教育委員会を通じて参加校を募り、200人分の予算を確保。年間3~4校ペースで実施し、今期も3回の小学校訪問を計画している。この日、茶道体験を行った四和小学校は、2013年に近隣の三つの小学校が統合して出来た学校。翌14年に出来た真新しい校舎には四和中学校が隣接している。本来であれば全部で43人の小学生が参加対象だが、せっかくの機会なので中学1年生の全生徒6人にも参加してもらった。


 
この日の体験は前半が1~4年生、後半が5、6年生と中学生という2部構成。2回に分けてもなお、お茶のことをひと通り知ってもらおうとすると45分ではとても時間が足りない。そのため前半10分で、茶道の基本を動画で見てもらい、その後に実技指導を行うなど時間短縮の工夫もしている。動画では、和菓子が季節を表していることや、お茶を頂く時の作法の流れなどが説明された。

動画を見終わると、体験会場へ移動。普段この種の体験授業をする時は教室にゴザを敷いてすることが多いが、今回は中学校で使う柔道用の畳が用意されたため、和の雰囲気がより一層高まった。体験会場に入ると早速、茶室に入って席に着くまでの作法の指導が始まった。指導は流派に関係なく、初歩的な茶道の基本を教えようという趣旨。気軽に楽しんでもらえるように、覚えてもらう所作も絞った。とはいえ、先ほど動画で見たばかりで、いきなりの本番。子どもたちは大いに戸惑っていた。

「お菓子をちょうだい致します」と言って、菓子器から箸を使って懐紙にお菓子を取るのだが、箸の扱い方が普段と違うせいか、何度もやり直す子が多い。この日のお菓子は、地場産山芋と米粉の皮で餡を包んで蒸した薯蕷(じょうよ)饅頭。市内で菓子店を営むクラブ・メンバーが用意したものだ。パクっと一口で食べてしまえそうな小ぶりな饅頭だが、黒文字(和菓子用の楊枝)を使って半分に割り、少しずつ食べる作法を体験した。

お菓子の次は、いよいよお茶。
「お茶碗は右手で取って、左手に載せて、両手を少し上に上げる」
「手前に二度回して、何回かに分けて飲んでみて」
言われた通りにやってみるが、どうも動きがぎこちない。そんな一連の動作を、周りの子どもたちは緊張の面持ちでじっくり眺めている。自分の番が来た時にうまく出来るよう、しっかり友達の所作を観察しているのだ。

時間が経つにつれ、慣れない正座の我慢大会の様相を呈してくる。足がしびれて上半身がぐらつく子、立ち上がるとふらふらしてしまう子が続出したが、「これも和の体験の一つ」と捉えているのか、そんな子たちも終始笑顔を絶やさずにいたのが印象的だった。

この和キッズ体験プロジェクトは、「箸の正しい持ち方を教えてもらえる」などの理由で保護者からの評判が良い。本当はお茶をたてる体験もさせたいが、ただでさえ時間内に収めるのに苦労するため見送っている。代わりにライオンズのメンバーがお茶をたて、裏方として大活躍した。

茶道体験を終えた子どもたちは、今日の体験をどのように感じたのだろう。

「和の心に触れることが出来てよかった。家でも、今日教えてもらったようにお菓子を食べてみたいと思う」
「普段は洋菓子や洋食など『洋』の生活に慣れ、和の体験はなかなか出来ないから今回はとても貴重な経験だった。和菓子もお茶もとてもおいしく頂けた」
「お茶は湯飲みを片手にガブガブ飲んでいたが、両手を使ってお茶やお菓子を楽しむ経験が出来て新鮮だった。お茶を運んできてくださった方や、お菓子を作ってくださった方に感謝して頂くことで、何十倍も食べ物や飲み物がおいしいと感じられた」
「お箸を使った和菓子の取り方があることも勉強になりました」

子どもたちには、和の心がしっかり届いているようだ。

2019.01更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)