取材リポート 南知多のイワシを無料配布
下諏訪、南知多の交流事業

南知多のイワシを無料配布  下諏訪、南知多の交流事業

愛知県の西南に位置する知多半島。ここに離島を含めて七つの漁港を持つ南知多町がある。古くから漁業が盛んで、江戸と大坂を結ぶ要衝地としても発展してきた。

2018年、そんな南知多町と姉妹都市提携を締結したのが長野県の中央にある下諏訪町である。1993年から自治体同士で交流を始め、2013年からは下諏訪町・南知多町姉妹都市交流事業と題して小学生の交流活動も実施している。

こうした自治体同士の交流が行われるようになったのは、下諏訪ライオンズクラブ(松下忠一会長/42人)と南知多ライオンズクラブ(川口潤会長/52人)の活動がきっかけだった。

両クラブが姉妹提携を結んだのはこうした動きが起こるずっと前、1981年のことだ。下諏訪ライオンズクラブに所属するメンバーが仕事の関係で知り合った人の一人に、南知多ライオンズクラブのメンバーがいた。その縁からクラブ間で交流が始まり、姉妹提携につながった。クラブの姉妹提携後、南知多ライオンズクラブが山のキャンプを計画。それを下諏訪ライオンズクラブが斡旋した。この時、地域住民を対象に、イワシの無料配布を併せて実施したという。諏訪湖に面しているとはいえ、海のない下諏訪町。新鮮な魚を手に入れる機会は限られていたため、大好評の事業となった。そして下諏訪からはお返しとしてリンゴの無償提供を実施。以降、9月に南知多から下諏訪に鮮魚を、11月に下諏訪から南知多にリンゴを持っていき、それぞれの住民に無料配布する事業を続けている。

今年も9月14日に下諏訪町の赤砂崎公園でイワシの無料配布が行われた。前日に水揚げされた新鮮なイワシ約2.5トンを配布する。12時に配布開始予定だったが、午前中から長蛇の列が出来ていた。例年、クラブで準備を始めるよりも前から先頭の人が並び始めるという。

かつてはイワシの無料配布会と銘打ち、単独のイベントとして開催していたが、15年ほど前からは下諏訪町の農業祭で実施するようにしている。農業祭に参加するようになったことも自治体同士の絆を深める原因となった。また、近年は南知多から海産物販売の屋台も出店してもらっている。

イワシは養護施設やこども食堂などにも寄贈している。それらの分は別にして、準備を進めていく。

両クラブが気を付けているのは、イワシを新鮮な状態に保つことだ。イワシは発泡スチロールの箱に氷と一緒に詰められて運ばれてくる。そこからでは配りにくいので、一度水槽に入れる。この水槽の準備や、イワシをトラックから運び出して詰め替える作業も全てメンバーで行う。

発泡スチロールの箱に入ったイワシと氷を水槽に入れる作業は結構な重労働だ。一度に全てを入れてしまうのではなく、イワシが少なくなる度にトラックから追加するようにする。

列の管理も大変だ。整理券を配り、不満が出ないようにする。イワシの配布時は10人程度に区切って水槽の所へと案内し、混雑し過ぎないように気を付ける。1人が持って帰るイワシの量は20〜30匹。以前、家から何枚もビニール袋を持ってきて、多く持って帰った人がいた。一人がたくさん持って帰ってしまうと後ろの人までイワシが回らなくなる。そこでイワシを入れるために色の付いた袋を入り口で配布し、そうしたことが起こらないようにしている。袋の色を毎年変え、家から持ってきた袋と区別出来るようにしているのだ。

来場者には生ものであることを伝え、帰ったら早めに冷蔵庫に入れるようにアナウンスする。食中毒などが起きてしまっては続けられなくなってしまう。これまで39年間続けられているのはメンバーも住民もそれぞれが衛生面に気を付けてこのイベントを大事にしてきたからだ。

下諏訪ライオンズクラブではこの催しと一緒に献眼登録の受付も実施している。せっかく知名度が上がり、地元に定着してきたイベントだ。一緒に献眼についても認知度アップを図っている。協力してくれる人は多くはないが、テントに目を留めて話を聞いてくれる人や、登録してくれる人もいる。

両クラブの交流が自治体の姉妹提携にまで発展した今回のケース。金銭的にも労力的にもなかなか大変だが、「イワシと言えばライオンズ」「リンゴと言えばライオンズ」と言われるほど地元で定着しており、多くの人に喜ばれている事業だ。ライオンズクラブの存在を地域にアピールする良い機会にもなっている。

2019.11更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)