取材リポート 障害のある人もない人も
みんなで盛り上がる運動会

障害のある人もない人も みんなで盛り上がる運動会

爽やかな秋晴れとなった10月最初の日曜日。日野市社会福祉協議会と日野市、東京日野ライオンズクラブ(奥住匡人会長/23人)が主催する「第23回みんなといっしょの運動会」が、多目的施設「日野市民の森ふれあいホール」で行われた。会場には、市内15の障害者福祉施設からエントリーした身体障害や知的障害のある参加者194人、施設職員と保護者153人、競技運営をサポートする団体及び個人のボランティア295人など、総勢約650人もの人々が集まった。昨年は台風の影響で中止になってしまったため、参加者にとっては待ちに待った一日となった。

午前10時、施設ごとに紅組と白組に分かれて体育館に入場。開会式に続いて全員で準備体操を行い、身体がほぐれたところで、午前中最初の競技が始まった。この日行われる競技は全部で8種目。午前中の競技は、大玉を転がして隣の人へパスをつなぐ「大玉送り」と、その大玉をバトン代わりに転がしながら走る「大玉ころがし」。ぶら下がったあんパンを、手を使わずに口でキャッチしてゴールを目指す「パン食い競争」の3種目だ。余程楽しみにしていたのだろうか、最初の大玉ころがしから全力で臨む参加者の姿が目立った。

バラエティーに富んだ種目は、保育園・幼稚園の運動会の種目を参考に社会福祉協議会が選んでいる。当初は11種目だったが、参加者の年齢や体力を考慮して少しずつ減らし、競技の他に参加者もボランティアも共に体験出来るアトラクションを入れるなど変わっていった。参加者にとってはどれもなじみのある種目なので、誰もが戸惑うことなく力を発揮することが出来るのだ。

東京日野ライオンズクラブがこの運動会に関わるようになったのは、実は第2回からだ。24年前の第1回は社会福祉協議会が単独で開催している。その運動会を見学したあるクラブ・メンバーが、「スポーツを通じて、障害者ががんばる姿を目にし、理解し、同じ楽しみを分かち合う」という趣旨に感銘を受け、「クラブとして何か協力出来ないか。協賛金だけでなく、我々も汗をかこう」と考えたことがきっかけになった。

「クラブ設立以来、青少年育成をメインの事業としてきましたが、このメンバーのひと言から障害者支援を視野に入れて事業の見直しを図り、翌年から運動会の開催に協力することを決めました。運営費の一部として助成金を贈呈する他、我々メンバーも競技のサポート要員を務めています」
日野市社会福祉協議会の理事でもあるメンバーの山崎功さんはそう話す。

最初の頃は「青空の下みんなといっしょの運動会」という名称で、屋外で行われていた。そのため、突然の雨に見舞われてしまったこともある。

「ある時、途中で雨が降り出してグラウンドから隣接する体育館へ一時避難したことがありました。この体育館は入口が2階にあり、前日のうちに車いすの方用に木板で十数メートルのスロープを作っておいたため、スムーズに移動してもらうことが出来ました。大勢の人に手助けを頂いての大移動で、大変でしたが今では良い思い出です」(山崎さん)

その後、市内外にある大学の体育館を借りて屋内で開催するようになり、大会名も「みんなといっしょの運動会」と改めた。現在の会場は市の施設だが、この時の縁で大学の応援団とチアリーディングによる演技が運動会の恒例となった。今年は昼休み中に首都大学の学生が演技を披露し、大会に花を添えてくれた。

日野市が共催に加わったのは6年前からで、他にもボランティアで協力してくれる団体・個人が年々増えている。中には、子どもにボランティアを経験させるために家族で参加する人もいるという。こうしたボランティアが増えたことで、大事な役割である競技のスターターや着順の判定などを少しずつ継承し、以前に比べるとライオンズ・メンバーが果たす役割は減ってきた。ライオンズが担当するのは、場に華やかさを演出するための紙花の飾り付けや、万国旗、看板の設置。それに施設名の入ったプラカード作成、得点の掲示などがある。競技中の用具係は、競技数が多いこともあってボランティアで参加している人たちに協力を仰いでいる。

パートナーである日野市社会福祉協議会の奥住日出男会長は、ライオンズクラブの貢献について次のように話している。
「ライオンズクラブによる資金面の援助がなければ、ここまで大きな運動会を続けることは不可能です。この規模を維持出来ているため、障害者と健常者の交流はもちろん、施設関係者同士の交流が実現出来ていると思います」

来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定して以降は、運動会にふさわしい障害者スポーツの企画も組み入れている。過去には、ブラインドサッカーや車いすバスケットの選手を招き、競技のデモンストレーションを実施。今年は、千葉市に拠点を置き日本代表選手も所属するウィルチェア(車いす)ラグビーのチーム「RIZE CHIBA(ライズチバ)」を招いた。車いすラグビーは、車いすの団体競技の中で唯一、タックルが認められている男女混合の競技で、その激しさから「格闘球技」とも呼ばれている。日本代表チームは世界ランキング3位(2019年10月29日現在)とあって、東京パラリンピックでもメダル獲得が期待されている。

車いす同士が正面から激突するタックルの実演を見学した後、希望者は競技用の車いすに乗り込んでタックルを体験した。体育館のあちらこちらで激しい衝撃音が飛び交う中、体験者の表情には驚きと共に笑顔が浮かんでいた。音は大きいが車いす同士がぶつかっているだけなので、身体に痛みを感じるようなことはないそうだ。

車いすラグビー体験の後は、いよいよ午後の競技。「綱引き」「借り物競走」「玉入れ」「鈴割り」と、運動会の定番種目が立て続けに行われ、最後に会場にいる全員でフォークダンスを踊り、全ての競技を終えた。

ライオンズのメンバーが数字を張り替えていた掲示板の得点は終始紅組がリードしていたが、最後に白組が大逆転の勝利。来年の再会を願いながら閉会となった。

「運動会なのでチーム一丸となって勝利を目指すことはもちろんですが、スポーツを楽しんでもらえることが何より。障害の種類や度合いも違う者同士が一生懸命競技をするのを間近で見たり、応援の声を張り上げたり、一緒に身体を動かしたりして、スポーツを通じて会場が一体になる雰囲気がすばらしいと感じています」(山崎さん)

クラブでは今後もこの運動会を継続し、障害者が目一杯楽しめる機会、市民と障害者が触れ合う機会をつくり続けていく考えだ。

(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)