取材リポート 若者の定住促進を目指す
シーカヤック体験講習会

若者の定住促進を目指すシーカヤック体験講習会

益田あけぼのライオンズクラブ(野村俊悟会長/28人)は6月9日、益田市中島町の大塚海岸でシーカヤック体験講習会を開催した。若い世代の定住促進を目指して2010年から取り組んでいる事業で、ちょうど10回目となる今年は、家族連れを中心に41人が参加した。

益田市は島根県西部、北は日本海を望み、南は1000m級の山々が連なる自然豊かな町。中国山地に源を発し、津和野町を経由して益田市で日本海に注ぐ高津川は、一級河川で唯一、支流を含めてダムが一切ないという貴重な川。07年度の国土交通省調査で水質日本一となって以来、複数回にわたって清流日本一に輝いている。

益田あけぼのライオンズクラブのシーカヤック体験講習会は毎年、その高津川河口で開かれている。同クラブは以前から、若い人たちの定住促進に強い関心を持っており、それをサポートするため、この事業を企画した。その中で、単にレクリエーションとして楽しんでもらうだけではなく、美しい海や川と触れ合うことで、地域の魅力を今一度認識してもらおうと、高津川河口の大塚海岸を体験講習会の会場に選定した。

益田市の人口は1955(昭和30)年の7万2991人をピークに減少。70年代半ばから80年代半ばにかけていったん増加したものの、その後は減少が続き、現在の人口約4万7000人はピーク時のほぼ半分となっている。日本全体が人口縮減社会に突入する中、2030年には4万人を割り込むとの予測も出ている。

が、もちろん行政も手をこまねいているわけではない。益田市のある島根県では、団塊の世代を中心に幅広い世代のUIターンを支援する「島根暮らしUIターン支援事業」を展開している。また益田市も「人口拡大への挑戦」を最重要施策に掲げ、さまざまな取り組みを実施。益田市への定住促進を目的として、UIターン者に対して奨励金を交付し、特に子育て世帯や若者世帯には加算制度も設けている。そして地域活性化のためには、住民自らが地域で協力し合い、未来を切り開く積極的な姿勢が不可欠だとし、そこに住む人たちが幸せを感じるだけでなく、地域外の人たちも引き付ける町となるよう「地域の魅力化」を支援する、としている。

「地域の魅力化」というキーワードは、まさに益田あけぼのライオンズクラブの事業にも通じるもの。同クラブの会員たちは、益田の美しい自然を若者にとって魅力あるものとして働き掛けることを主眼に、海洋レクリエーションの体験講習会を企画した。

第1回となる2010年は7月にサーフィン体験講習会として開催。益田サーフィン協会のメンバーに指導してもらい、19人の若い男女が初めての波乗りを体験した。翌年は、サーフィンだけではなく、シーカヤックを導入。浜田市三隅町のアクアみすみ(B&G海洋クラブ)からインストラクターを招き、20~40代の男女45人が楽しい時間を過ごした。

サーフィンとシーカヤックの二本立ては、13年まで3年間継続した。が、なんせ相手は自然。波があれば、サーフィンにはいいが、シーカヤックには不向き。逆に波がなければ、サーフィンは出来ない。そんなわけで、14年からはシーカヤック体験講習会に絞ることになった。また、その年から、美しい益田の海を守ることにも目を向けてもらおうと、参加者と会員で海岸のゴミ拾いをしている。

ちょうどその頃から、家族連れで参加するグループが増え始め、就学前の小さな子どもを連れた若い夫婦の姿も見られるようになった。今年は更に、初めて県外の広島県からの参加があったり、孫から祖父母まで3世代での参加があったりと、非常に幅広い層が体験講習会に参加した。

あいにくこの日はやや波が高く、海上での講習は取りやめ、高津川河口でシーカヤックを体験することになった。参加者は大塚海岸の集合場所で開会式に臨んだ後、ラジオ体操で体をほぐし、シーカヤック体験を行う河口まで移動しながら、海岸に落ちているゴミや漂着物などを拾い集めた。

その後、アクアみすみのインストラクターから、パドルの使い方やこぎ方、シーカヤックの乗り方など基本動作を学び、いよいよ水上へ。カヤックは、広義にはカヌーの一つに含まれるが、カヌーが手こぎボートと同じように基本的にオープンなのに対し、カヤックはクローズドデッキになっている。が、体験講習会では、シットオントップというタイプのカヤックが使われる。こちらはカヤックの中ではなく上に座るタイプで、横幅も広く安定性がいいので、初心者でも簡単に海上散歩を楽しむことが出来る。

またカヤックの場合、普通は水に浮かべてから乗り込むので少し不安定な状態になるが、ライオンズの体験講習会では水際で乗り込み、ライオンズの会員たちが前から引っ張り後ろから押して、水に浮かべてくれる。3人乗りのカヤックともなれば、かなり重く、会員たちは力を合わせながらサポートに当たっていた。

体験会は2組に分かれ、それぞれ2回ずつ実施。1回目は慣れることを主眼に、岸辺近くでこぐ練習をし、2回目はインストラクターの誘導でミニツーリングを行う。若い人や子どもたちは、すぐにこぎ方に慣れ、スイスイと進んでいく。スピードが出て、風を切って水上を進み始めると、どんどん楽しくなっていく。シーカヤックは水面が近いため、海の色や水の美しさも感じることが出来、時間が経つに従って、参加者の笑顔が増えていく。中には、お父さんの足の間で水に揺られ、気持ち良くなって熟睡して戻って来た小さな女の子もおり、会員たちの微笑みを誘っていた。

参加した人たちからは「初めて体験させてもらったんですが、風がすごく気持ち良くて、またやってみたいと思いました」(若いお母さん)、「海から見る景色が奇麗だったし、とても楽しかったです」(小学生男子)などの声が聞かれた。

主催する益田あけぼのライオンズクラブの野村会長はそんな声を聞いて、
「もともと若い人たちに益田の自然の魅力を感じてもらい、定住につなげられればと始めましたが、回を重ねるうちに、だんだんと家族連れの参加が多くなり、皆さん親子で楽しんでくださっているので、クラブとしては来年以降も事業を続けていきたいと思っています。当クラブは青少年育成に力を入れており、子育て支援センターへのサポート活動や小中学校での薬物乱用防止教室を実施しています。そのために毎年、『子どもたちに心の育ちと安心安全を』と銘打ったチャリティー・ゴルフ大会を開催しており、その収益をこうした事業のために役立てています」
と話し、次年度以降の事業継続に意欲を見せていた。

2019.07更新(取材・動画/鈴木秀晃 写真/田中勝明)