取材リポート ノダフジの名所を
巡るスタンプラリー

ノダフジの名所を巡るスタンプラリー

4月9日、令和6年度上期に新札が発行されることが発表され、麻生太郎財務大臣から説明があった。新たな肖像に注目が集まっているが、裏面のデザインをご存じだろうか。新1万円札は東京駅の丸の内駅舎が、千円札は葛飾北斎の富嶽三十六景の一つ、神奈川沖浪裏がデザインされている。そして、紫色を基調とした5千円札には、色合いがなじむとされ、ノダフジが描かれている。

フジにはつるが右巻きのものと左巻きのものがある。左巻きのものはヤマフジと呼ばれ、右巻きのものがフジ、もしくはノダフジと呼ばれる種類だ。ノダフジの名所といえば、その命名の由来の地となった大阪市福島区野田である。江戸時代に「野田の藤」は「吉野の桜」「高雄の紅葉」と共に三大名所として多くの人に親しまれていた。福島区の花としても制定されている。

写真提供:大阪福島ライオンズクラブ

大阪福島ライオンズクラブ(八木正会長/58人)のメンバーであり、福島区のノダフジを管理している「のだふじの会」の顧問・藤三郎さんによると、区民の約8割はノダフジが区の花であることを認識しているという。

今では区民にこれだけ認知されているノダフジだが、実は野田のノダフジは明治以降、都市開発や戦争の空襲などによって数を減らし、戦後にはほぼ消滅してしまっていた。そんなノダフジを復興させようと立ち上がったのが大阪福島ライオンズクラブだ。

当時、結成からまだ間もなかった大阪福島ライオンズクラブは、クラブの核となる事業を探していた。そんな中、ノダフジの存在に着目。1971年にノダフジの史料を集めた展示会を実施したことを契機にノダフジの復興を目指して動き始めた。

大阪市公園局に働き掛け、小学校、幼稚園、保育園など多くの場所にフジ棚を寄贈。公園局と二人三脚でその数を増やしていった。寄贈されたノダフジの維持管理を行う「のだふじの会」も発足。ライオンズのメンバーも多く所属している。フジ棚を寄贈する、いわばハード面をライオンズが担当し、維持管理のソフト面を「のだふじの会」が担当。互いに協力し合ってノダフジの再興に尽力してきた。

そんな努力のかいもあり、寄贈したノダフジが花を咲かせ始めた。そこで27年ほど前から、クラブでは区民にノダフジのことを知ってもらおうと「のだふじウォッチングスタンプラリー」というイベントを実施している。「のだふじの会」、ライオン株式会社が協賛。今年は4月20日に開催された。一般募集に応募してきた人たちと共に、ノダフジの開花場所を巡るイベント。当初は参加者集めに苦労したが、継続していくうちに徐々に増加。効率よくノダフジを見て回ることが出来るため、区外からの参加者も増えてきた。

地元野田のフジに親しんでもらおうと、クラブでは数年前から区内の中学校と協力して、中学生にも参加してもらっている。今年は下福島中学校の1年生220人が参加した。

集合場所はJR環状線野田駅と阪神野田駅の中間にある江成公園。受付が始まる午前9時30分には、多くの人が集まっていた。この時間は中学生たちの出発時間でもある。一斉スタートでは人数が多くなり過ぎるため、中学生と一般の参加者は班を分けているのだ。どの班も引率するのはライオンズクラブのメンバー。吉野小学校、福島区役所、春日神社などを巡り、多くのフジ棚がある下福島公園でゴールとなる。

各地に配置されたチェックポイントでスタンプを押すのは、協力してくれている「のだふじの会」のメンバーだ。藤色のジャンパーに身を包み、参加者のスタンプ帳にスタンプを押していく。

福島区では同時期にノダフジにまつわるイベントを実施しており、4月21日にはスタンプラリーのゴールである下福島公園でのだふじまつりが開催された。また、ホームページで「のだふじMAP」というフジ棚の場所を示した地図を公開。駅には区外からの訪問者向けに「のだふじ巡り」のパンフレットを置いている。4月1日から5月31日にかけてはシェアサイクルを設置して回りやすいようにしている。

実際にスタンプラリーのコースを歩いてみると、至る所にフジ棚があり、まさに区の花という感想を持つ。それ以外にも、阪神野田駅前には大きく「区の花 のだふじ」のパネルがあり、商店街ではノダフジを模した造花が電柱に飾られていた。

チェックポイント以外のフジ棚でも引率するライオンズのメンバーは解説をする。松下幸之助創業の碑が置かれている大開公園、ノダフジ発祥の地として知られている春日神社といった観光スポットはもちろんのこと、コース途中にあるフジ棚一つひとつに対し、一言二言でもコメントを残していく。今年は実施時期が少し早かったため、花が咲いていない場所もあったが、メンバーの説明によって咲いていないフジ棚でも十分に楽しめる内容になっていた。

クラブでは今後もこの事業を継続し、ノダフジがより区民に親しまれ、区の観光資源となるように活動していきたいと考えている。難しいのはイベントの実施時期。昨年はフジの開花が早く、スタンプラリーの際には散ってしまっていたフジ棚が多かった。そこで今年は早めに設定したところ、今度は咲いていない棚が多いという事態になってしまっている。気象状況が以前と変わってきてしまっているため、フジの維持管理も難しく、開花時期も読めなくなっている。だが、クラブではわかふじ支部を作るなど、若い人の力も借りて事業を続けていこうとしている。

継続は力なり。行政と共に福島区のノダフジを復活させてきたライオンズクラブだからこそ、その言葉に重みが増すのだろう。

2019.06更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)