取材リポート 魚津でも知名度を上げたい。
車椅子バスケ大会協力

魚津でも知名度を上げたい。車椅子バスケットボール大会協力

2019年5月1日。この記事の掲載日は同時に新元号である「令和」の始まりの日でもある。4月1日に元号が発表された際には、出典が奈良時代に成立した和歌集『万葉集』であることも話題となった。『万葉集』の編集者としてはさまざまな説があるが、現在最も有力なのは大伴家持(おおとものやかもち)であるという。

大伴家持は746年、越中守に任ぜられた。越中、つまり現在で言えば富山県に当たる地域だ。751年に帰京するまでの5年間、多くの和歌を詠んでおり、『万葉集』には家持が富山について詠んだとされる歌が収録されている。
「あゆの風 いたく吹くらし 奈呉の海人の 釣する小舟 漕ぎ隠る見ゆ」
東風が激しく吹き、奈呉(なご)の漁師の釣りをしている小舟が波の間に見え隠れしている情景を詠んだものだ。奈呉とは今の富山県新湊市の海岸を指していると言われている。「あゆの風」は今は「あいの風」と呼ばれる、富山県では春から夏にかけて吹く北東の風のことを指す。沖から沿岸部にかけて吹くこの風は豊漁を運んでくると言われている。

2015年に北陸新幹線開通に合わせて開業した「あいの風とやま鉄道」がその名前を冠している他、新湊大橋の下層を通る歩行者用通路も「あいの風プロムナード」と名付けられるなど、多くの人に親しまれている愛称だ。

3月30日から31日にかけ、富山県魚津市の魚津テクノスポーツドーム(通称ありそドーム)で、この「あいの風」の名を冠したスポーツ大会が開かれた。あいの風車椅子バスケットボール競技大会だ。富山県車椅子バスケットボールクラブが主催するこの大会に、魚津ライオンズクラブ(畠山明会長/53人)は8年前から協力している。今回が21回目。県外からも多くのチームが参加している。今回は地元富山のチームに加え、長野、岐阜、愛知、三重、滋賀、石川、東京から来た8チームが参加した。

クラブに大会を紹介したのは三井田一博会計。三井田さんの友人の子が車椅子バスケットボールをしていたことから大会の存在を知った。地元、ありそドームで行われているにもかかわらず、それまで大会が開催されていることすら知らなかった。当時、ライオンズクラブと青年会議所の双方に在籍していた三井田さんは、何か手伝えることはないかと協力を申し出た。それがクラブの事業に発展していく。一緒に手伝っていた青年会議所のメンバーがライオンズクラブに入会するなど、思わぬ効果もあった。またクラブでは企業、団体に協賛品の提供を呼び掛けている。最近では近隣のライオンズクラブも協力してくれている。今回は黒部ライオンズクラブや入善ライオンズクラブ、朝日町ライオンズクラブから米などの協賛品が提供された。

クラブでは参加賞などを提供すると共に、3年前からは昼食時にみそ汁の提供も実施している。提供するみそ汁の具は、日本海で獲れるニギスという魚(富山では「ミギス」と呼ばれる)をすり潰して作る富山の食材「すりかまぼこ」。他県から来る選手たちからは「おいしい」と大好評だ。魚津の魅力もアピールしている。

毎年、関係各所と連絡を取り、3カ月ほど前から準備を進める。主催の富山県車椅子バスケットボールクラブとは練習の見学に行って交流するなど絆を深めている。

車椅子バスケットボールの試合は床面が傷つくなどの理由で開催が断られることも多く、出来る場所が限られている。そのため、会場の選定には困難な面がある。しかし、ありそドームはコートが3面あり、床面は車椅子を走らせても跡が残らないようになっている。また、各階に障害者用のトイレがあり、大きなエレベーターもあるなど車椅子でも不便がないように設計されている。それもそのはず、入り口に自由に借りて使えるレンタル用の車椅子が完備されているのだ。こうした施設は非常に貴重だと言う。そのため、当初は富山市内で行われていた大会がほどなくして魚津に移ってきた経緯がある。

選手たちには、地元で続いてきたこの大会を多くの人に知ってもらいたい、見てもらいたいという気持ちが強い。車椅子バスケットボールの体験会も実施しているが、参加する人が少なく、期待していた規模には至っていない。協賛品を提供してくれる企業や団体が増えてきているため、そうした人たちの力も借りて、大会の知名度を上げる努力をしていくつもりだ。

開会式で「よっしゃ来い!!CHOUROKUまつり」のPR

魚津ライオンズクラブは13年に始まった「よっしゃ来い!!CHOUROKUまつり」にも関わっている。毎年5月に開かれているこの祭りのメインは「よっしゃ来い!!CHOUROKU」のダンスコンテストだ。

実はこのダンスは魚津ライオンズクラブがプロデュースしたものだ。魚津に伝わる伝統の踊り「せり込み蝶六」を現代風にアレンジし、11年に曲を作った。「せり込み蝶六」は神事などで踊られており、一般の人が触れる機会が少ない。だが、この伝統を若い人にとっても身近なものとして愛してもらいたい。その気持ちからアレンジを加え、より親しみやすい形にした。伝統と現代の融合。幅広い世代のメンバーが在籍する魚津ライオンズクラブの今の姿を表すかのような事業だ。

この曲をCDにして各小学校に配ったところ、大好評。授業で扱ってくれる学校もあり、今では市内の約8割の学校の運動会でよっしゃ来い!!CHOUROKUが踊られるほど地元に定着した。そして2年後に「よっしゃ来い!!CHOUROKUまつり」が始まり、規模はどんどん拡大。今では大人から子どもまで700人以上がダンスコンテストに参加している。

今年は5月19日に開かれる「よっしゃ来い!!CHOUROKUまつり」。車椅子バスケットボール大会の開会式でもPRを兼ねてオーディションで選ばれたダンスチーム「POWER9」にダンスを披露してもらった。試合前で緊張気味だった選手たちもPOWER9の華麗なダンスを見ると笑顔になり、手拍子を送るなど少し緊張がほぐれた様子だった。

2日間にわたって行われた車椅子バスケットボール大会。地元富山のチームを含め、全てのチームが熱戦を繰り広げた。車椅子と車椅子が激しくぶつかり合い、応援にも熱が入る。試合形式は8チームが4チームごと二つのブロックに分かれて総当たりのリーグ戦を実施。各リーグ1位が決勝に、2位が3位決定戦に回る。今回は地元富山の富山県WBCがBリーグの2位に入り、3位決定戦へ。Aリーグ2位の東京のCOOLSを下した3位決定戦は大盛り上がりだった。

実際に見ると迫力が違う。コートの整備やタイムキーパーなどを担当していた県内三つの高校から来たバスケットボール部の高校生は、車椅子の高さからゴールを決める姿を目の当たりにして「あの高さから投げられるなんてすごい」と感嘆の声を上げていた。

2020年の東京パラリンピックを前に障害者スポーツに対する注目度は上がっている。迫力ある車椅子バスケットボールの大会が身近に見られる機会はあまりない。クラブとしてももっと地元の人にアピールをし、大会を盛り上げていきたいと考えている。

2019.05更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)