取材リポート 落葉樹で山に保水力を
延べ7500本の植樹

落葉樹で山に保水力を 延べ7500本の植樹

福岡県南部、筑後平野にある久留米市は、佐賀との県境に位置し、人口は約30万人。県内では福岡市、北九州市に次いで3番目の都市である。1万人当たりの焼き鳥店の軒数は日本一だ。廃藩置県の際には久留米県の県庁所在地として栄えた歴史を持つ筑後地方の中心都市だ(久留米県はその後三潴<みずま>県となり、1876年に久留米地方は福岡県と合併した)。

久留米ちとせライオンズクラブ(冨安康太会長/21人)は毎年、信仰の山として人々に敬われる高良(こうら)山で植樹を実施している。今年も2月3日に実施した。今回の植樹場所は山中にある、久留米森林つつじ公園の北側だ。植えるのは山の保水力を高める落葉樹のヤマザクラとヤマモミジ。ヤマザクラは春に薄桃色の花で、ヤマモミジは秋の紅葉で山を奇麗に染めてくれる。ゆくゆくは観光資源となる可能性も考えてこの2種類を選んだ。

高良山の中腹には筑後一宮として信仰を集めてきた高良大社がある。国の重要文化財に指定されている社殿は久留米藩3代藩主有馬頼利の寄進によるもので、寺社建築としては九州最大級の大きさを誇る。奥院のある山頂付近は久留米森林つつじ公園として整備されている。公園内には市の花である久留米つつじを始め100種6万1000株のツツジが植えられ、筑紫平野を一望出来ることから、ハイキングに訪れる人も多い。高良山は標高約310mと高くはないが、主峰の毘沙門岳を始め、東西南北に広がる五つの峰から形成されているため、面積は標高に比して広い。そのため、訪れる人の多い高良大社やつつじ公園は手入れがされているが、それ以外の場所は行政の手がなかなか回らない状況だった。クラブが植樹をする前は台風などで倒れてしまった木、いわゆる風倒木が山中に放置されていたという。そこで、県や市に代わって未来の子どもたちに奇麗な水と空気を残すべく、クラブが立ち上がったのである。

こうして2008年、久留米ちとせライオンズクラブは植樹を始めることとなる。当初はメンバーとその家族、手伝ってくれるボランティアの方とで小規模に始まった事業だった。だが、徐々に規模を拡大。8年ほど前からは山のふもとにある南筑高等学校の生徒が参加してくれている。彼らは山すそから歩いて登り、道中でゴミ拾いもしてくれているという。ライオンズの奉仕の輪が高校生にも広がっているのだ。他に久留米学園のボランティア部や久留米信愛高等学校の生徒が参加することもある。一般のボランティアも募集しており、今年はヤマザクラとヤマモミジを合わせて500本植樹した。今回が12回目。植えた木の本数は延べ7500本に上っている。

クラブがこの事業の準備をするのは前年の7月頃から。市役所と話し合いをし、場所を決める。その後、11月頃には浮羽森林組合の協力を得て植樹場所で剪定作業を実施。同じ頃に毎年参加してくれている学校に声を掛ける。冬休みが始まる前くらいには各学校からの参加人数が分かる寸法だ。並行して一般のボランティアも1月中旬まで募集している。親と一緒に参加した小さな子が植樹の後、「また来たい」と言ってくれることも多い。また、こうして継続することで、事業の知名度が上昇。近隣のライオンズクラブからもメンバーが参加してくれるようになった。これらのクラブからは協賛金も集まり、苗木生育のために使用している。

2月3日はあいにくの雨予報。だが、この植樹事業、これまでは一度も中止をしたことがない。雪の降る中で実施したこともあった。今年も時折雨がぱらつく時はあったものの、予定通り実施することが出来た。この日は風が強く、植樹場所には急斜面が多いため、メンバーは事故がないよう気を付けていた。ボランティアの高校生たちは不慣れな様子ではあったが楽しそうに会話をしながら作業を進めていた。

作業が終わればボランティアの人たちには、ライオンズ・メンバーとその家族が豚汁とおにぎりを振る舞う。すると、終了を待ってくれていたかのような、土砂降りの雨。参加者はテントの下で温かい豚汁とおにぎりで疲れを癒やしていた。

参加してくれるボランティアの人たちには木札に名前とメッセージを書いてもらい、植樹した木に提げている。いつか、参加してくれた子が大人になった時、自分が植えた木を見付けて木の成長と自分の成長を重ね合わせ、地域の環境を守る大切さに思いをはせる。そんな日が来ることをクラブは楽しみにしている。

2019.03更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)