取材リポート 世界でたった一つの
椅子作り

世界でたった一つの椅子作り

岩手県西磐井郡平泉町は、2011年6月に「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―」として世界遺産に登録されたことで知られる歴史ある町だ。県南西部に位置し、平安時代末期には奥州藤原氏の本拠地として栄えた。

世界遺産の構成資産である毛越寺(もうつうじ)や観自在王院跡の近くに、平泉町立幼稚園と平泉保育所がある。この二つの施設は同じ建物に同居しており、双方を合わせて「二葉きらり園」という愛称で町民から親しまれている。自然も豊かでこどもたちが伸び伸びと暮らせる環境が特徴だ。

1月31日、その町立幼稚園及び保育所で平泉ライオンズクラブ(菅原弘会長/48人)が親子工作教室を開催した。今回で4回目となる事業だ。対象は今年卒園する園児とその親。今年卒園するのは幼稚園が15人、保育所が25人の計40人だ。教室は幼稚園と保育所でそれぞれ実施され、親子で協力して椅子を作る。出来上がった椅子は3月の卒園式で使用し、その後は自宅へ持ち帰ってもらう。

平泉ライオンズクラブは町立の平泉小学校、長島小学校、そして平泉中学校へは図書券を贈呈するなど青少年健全育成事業に取り組んできた。しかし、就学前の子どもたちを対象とする事業がなかったため、クラブ内で二葉きらり園での活動も実施しようという声が上がり、検討を重ねた結果、始まったのが親子工作教室である。

近年は子どもたちが工作をする機会があまりないという。協力して思い出の品を作ることで親子のコミュニケーションの機会にもなり、もの作りの体験も出来る。まさに一石二鳥の事業だ。これを機に工作が好きになってくれる子どもが出てくれれば、との思いで実施している。

普段工具に触ることの少ない子どもたちは、材料と道具が並んでいるだけで大興奮。そんな子どもたちがけがをしないよう、メンバーたちは椅子を作る工程と注意事項を丁寧に説明する。工作に慣れないお父さん、お母さんもいるので、メンバーがサポートに入ることもある。こうすることで不慮の事故を防止出来るのだ。が、あくまでも主体は親子。メンバーは必要以上のサポートはしないよう、黒子に徹している。

参加費は無料。材料は全てライオンズクラブで準備する。幼稚園、保育所の活動時間である1時間で組み立てられるよう、事前に部材を正しい形に切り出したり、溝をつけたりと加工するのもメンバーの仕事だ。

そして同じ時期に椅子の背もたれ板を幼稚園と保育所に渡す。そこに子どもたちに絵を描いてもらうためだ。絵が完成したら、それを再び受け取り、クレヨンで描かれた絵が消えてしまうのを防ぐためにコーティングを施す。初回は絵の具で描くことを想定して事業を進めていたため、クレヨンの絵が消えてしまうケースがあった。そこで2回目からはコーティングをしている。このように反省会の内容を翌年以降の開催に反映させている。

この教室に間に合わせるよう、材料を加工するのは冬の寒い時期だ。緻密な作業も求められ、なかなか大変だが、休憩時間を設けて和気あいあいとした雰囲気で準備しているという。当日、工作教室の開始前には材料を今一度チェックし、場合によっては参加者が組み立てやすいように微調整を施す。こうした工夫がなされているため、普段は工作をしていない園児たちでも簡単に作ることが出来る。親の手を借りるばかりでなく、自分で出来ることが多いため、園児たちは皆、楽しんで作業していた。

親子工作教室は非常に好評だ。作業の途中では来年卒園する園児たちが見学に来ていた。先生に「来年はみんなが作るんだよ」と言われた園児たちは、憧れの眼差しで先輩たちの作業を見つめる。幼稚園、保育所の思い出と言えば親子工作教室の椅子と言えるくらい、定着しつつある事業だ。「途中でやめてしまっては、かわいそうなので」と鈴木穂嘉実事業委員長が語る通り、クラブでは今後も継続して親子工作教室を実施していく予定だ。

完成した椅子は親子で作った世界でたった一つだけの椅子。記念撮影をする親子もいれば、恐る恐る座る子もいる。それぞれの思いがこもった椅子に座り、園児たちは新しい世界へと羽ばたいていく。

2019.03更新(取材・動画/井原一樹 写真/宮坂恵津子)