取材リポート 移動診療車を活用し
被災地で歯の無料検診

移動診療車を活用し被災地で歯の無料検診

11月3日、仙台市宮城野区田子西3丁目の町内会集会所で、仙台高砂ライオンズクラブ(澤田裕一会長/38人)による歯の無料検診が実施された。この辺りは、以前は田んぼだったが、仙台駅まで十数分のJR仙石線福田町駅にも近いため、分譲住宅や福祉施設が相次いで建ち、東日本大震災後は災害公営住宅建設や集団移転促進事業に伴う宅地造成により人口が急増。周辺にはスーパーやドラッグストア、各世代の学校もある。

震災で被災し、田子西地区に集団移転してきた住民の多くは、沿岸部の蒲生地区に住んでいた人たちで、現在122世帯がここで暮らす。蒲生地区は震災当時、1150世帯が暮らしていたが、そのほとんどの家が全壊もしくは半壊となり、300人以上の方が亡くなった。

今回、歯科検診を実施した仙台高砂ライオンズクラブの主な奉仕地域である高砂は仙台市の東部にあり、太平洋に面した蒲生地区や、避難所となっていた中野小学校の体育館が七北田川を逆流した津波にのみこまれた中野地区などが含まれる。ライオンズクラブの会員も多数被災したが、会員数を減らすことなく、被災された方たちの支援活動を展開。震災発生翌月の4月には県内の被災小学校へランドセルを寄贈すると共に、避難所に寝袋や寝具、傘などを届けた。また5月には石巻市北上町十三浜で屋台を設営。「炊き出し&春の縁日」として、焼きそばや揚げ物、コーヒー、綿菓子、ポップコーンなどを提供した。

更に6月に入ると、気仙沼、南三陸、女川、石巻、東松島、七ケ浜、亘理など県内各地の被災地を始め、岩手県大船渡まで支援物資の配布を行い、被災地では子どもたちに綿菓子とポップコーンを配り、喜ばれた。その後もクラブでは、ライオンズクラブ国際財団(LCIF)の東日本大震災指定交付金を活用し、被災者へ電気カーペットや湯たんぽなど冬の備えを贈ると共に、被災児童の心のケアや子育て支援のための活動を実施した。

被災地での歯科検診も、こうした一連の活動の流れで計画。検診だけではなく、震災以来、被災地でフル稼働してきたポップコーン機と綿菓子機を今回も出動させ、無料サービスの温かいコーヒーを飲みながら、地域の方たちが語り合うコミュニティーサロンとしてプチ縁日を開催した。

被災地での無料歯科検診には、LCIFから宮城県歯科医師会に寄贈された移動歯科診療車(4194万8550円)も出動。仙台高砂ライオンズクラブ会員である歯科医の大内康弘医師が車内で検診を担当した。また外では同クラブ入会予定者の平田政嗣医師が、歯周病の簡易検査を行いながら訪れた人たちの相談に乗り、生活習慣などについてアドバイスを行った。

LCIFから移動診療車が贈られることになった際、歯科医師会側の窓口を務めたのが、当時まだライオンズ入会前で医師会の常務理事を務めていた大内医師だった。宮城県歯科医師会の医師らは震災後、被災地に入り支援に当たった。大内医師もその活動に参加し、派遣先の一つ東松島市で、京都府歯科医師会から貸与された移動診療車を見て必要性を痛感。その後、ライオンズクラブから医師会に、必要備品の打診があった際、担当者として診療車を提案した。

震災翌年の2012年5月にライオンズクラブ332-C地区(宮城県)と歯科医師会で最終打ち合わせを行い、歯科診療車とポータブルデジタルエックス線装置の支援が決定。特注車のため若干の時間を要し、10月23日に引き渡し式が行われた(移動診療車寄贈に当たって愛称募集が行われ、宮城県登米市立柳津小学校3年の三浦百花さんによる「歯☆ぴか号」が採用された)。ただ、この頃から被災地に仮設診療所が続々と開院。移動診療車の出番はなかなかこなかった。

移動診療車が納車された年、歯科医師会側の窓口を担当した大内医師が、ライオンズクラブの支援に感動して仙台高砂ライオンズクラブに入会。さまざまな面での環境が整ったところで無料歯科検診の活動が提案され、今年5月に第1回を田子西の復興住宅集会所で実施した。そして今回、第2回の無料歯科検診を開催したわけだが、クラブではLCIFから贈られた移動診療車の有効活用という意味からも、今後は活動範囲を広げ、県内の他の被災地にも出動したいと考えている。

また、仙台高砂ライオンズクラブでは、新潟県中越沖地震など、東日本大震災以前から災害被災地への支援活動を実施しており、今年も西日本豪雨や北海道胆振東部地震の被災地へ支援を行っている。そのため今後、日本の各地で災害が起きた際に、移動診療車と共に駆け付けられる態勢が構築出来ないか、地区に提案することも視野に入れている。

「当クラブは、支援活動を重ねながら、15年に地区の企画で開催された『炊き出しメニューナンバーワン!  L-1グランプリ』では第1位のグランプリを獲得するなど、確実にチーム力を上げてくることが出来ました。来年の19年7月から始まるライオンズの新年度は、当クラブ所属の木川田明弘332-C地区第1副地区ガバナーが、地区ガバナーに就任する予定です。木川田副地区ガバナーも被災地支援に熱心なので、この機会に地区として、より積極的なアラート活動が展開出来るよう検討して頂きたいと期待しているところです」
と、仙台高砂ライオンズクラブの会員たちは事業の広がりに思いを馳せている。

2018.12更新(取材・動画/鈴木秀晃 写真/関根則夫)