取材リポート 重症心身障害児と
三社大祭を楽しむ会

重症心身障害児と 三社大祭を楽しむ会

8月3日、青森県八戸市吹上にある独立行政法人国立病院機構八戸病院に、八戸三社大祭の山車が訪問。入院患者や家族、病院関係者らは、笛と太鼓の軽快なお囃子(はやし)が流れる中、豪華絢爛(けんらん)たる山車を笑顔で見上げていた。これは八戸中央ライオンズクラブ(渋谷裕子会長/64人)が毎年実施している事業で、今年で49回目を迎える。

八戸病院は1934年に八戸市立結核療養所として創設され、47年に国立八戸療養所として発足。その後69年に重症心身障害児病床を併設、予防法や治療法の発達で結核発症が大幅に減ったことを受け、2003年に結核病棟を閉鎖し、翌年から独立行政法人国立病院機構八戸病院として、国が担うべき医療と定められた政策医療分野の一つ、重症心身障害の専門医療施設となった。現在、リハビリテーションを含め、約150人の重症心身障害児(者)が入院している。

八戸中央ライオンズクラブが八戸病院への活動に取り組み始めたのは、1968年のクラブ結成翌年のこと。当時、クラブには医師のメンバーが多く、それらの医師会員により医療や福祉に関わる特徴的な事業が提案されていた。

その一つに、69年12月から71年6月まで毎月1回、スポンサー・クラブである八戸ライオンズクラブと共に、八戸の西30kmほどの新郷村で実施した医療奉仕がある。その頃、八戸ライオンズクラブには10人、八戸中央ライオンズクラブには14人の医師会員がおり、彼らが交替で看護師と手伝いのライオンズ会員を伴い無医地区を訪問。毎月継続して医療活動を行った。

また、八戸中央ライオンズクラブには八戸市心身障害児(者)福祉後援会長で、福祉事業への貢献を目的とする「あゆみの箱」青森県グループ代表でもあった医師会員がいた。更には、所有する山林を寄付して障害者支援施設(社会福祉法人のぞみ会)を作り、メンバー4人と共にその運営に当たった会員もいた。

八戸病院には、嘱託医として入院患者の診療を担当する会員も何人かおり、それらの医師会員が入院患者に対するケアを提案。クラブで議論を重ね、八戸を代表する三社大祭の見学に入院患者たちを招待することになった。この活動は69年から3年ほど続いたが、入院患者の中には重い身体的な障害を持つ人も多く、車椅子やストレッチャーなどで人混みに入って見学するのは大きな困難を伴うものだった。

そこで4年目には、山車の方から病院に来てもらうことを計画。会員が関係する山車組に依頼し、病院への三社大祭山車訪問が実現することになった。その後、十数年前から、病院と同じ町内の吹上山車組が協力してくれるようになり、毎年欠かさずに三社大祭の山車訪問が続いている。

八戸三社大祭は300年の歴史と伝統を誇る、国の重要無形民俗文化財で、2016年にはユネスコ無形文化遺産「山・鉾・山車行事」に登録された。三社とは、法霊山龗(おがみ)神社、長者山新羅神社、神明宮の三つの神社のことで、見どころはこれら三社の神輿行列と、神話や歌舞伎などを題材に各山車組が毎年製作する27台の山車の合同運行。山車は高さ10m、幅8mもあり、夜の運行ではライトアップされた山車が夜空に浮かび上がり、より一層、豪華さを増すことになる。

吹上山車組はその中で昨年、今年と山車審査で第2位となる優秀賞(八戸市長賞)を受賞。その前の2016年までは10年連続最優秀賞を受賞していた有名山車組だ。吹上山車組の方の話では、山車の製作は例年、5月の連休明け頃から始める。しかも、青森ねぶたなどと違い、八戸三社大祭の山車製作には山車組関係者自らが当たり、本業を終えてから集合して作り上げるのだという。山車のベースはユニッククレーン付きの4tトラックだそうで、多くは前部と中央部が横に展開し、後部がせり上がるなどの仕掛けが施されている。

八戸病院の訪問では、それらの仕掛けがフルで披露され、しかも細工物なども間近で見ることが出来る。以前は、山車に上がって小太鼓をたたかせてもらったりしたそうだが、重症患者が増えたため、今年は病院側の配慮もあって、それらの活動はなかった。それでも患者の表情からは祭りの高揚感が見て取れた。しかも、毎年の山車訪問は患者だけではなく、家族や病院関係者も楽しみにしており、今年も八戸三社大祭を楽しむ会終了後には早くも、病院関係者や親の会から「来年もよろしくお願いします」の声が上がっていた。

八戸中央ライオンズクラブでは毎年2月、八戸を代表する民俗芸能「えんぶり」を伴い八戸病院を訪問してもいる。こちらは73年からの継続事業だ。えんぶり訪問も、三社大祭山車訪問も、長期の入院生活で、地元のお祭りを味わうことが出来ない人たちに、お囃子を聞き、迫力ある山車や舞を近くで見ることで、少しでも祭りの雰囲気を感じてもらえればと続けている。
「患者さんの喜ぶ顔が自分たちのモチベーション」
八戸中央ライオンズクラブの会員たちはそう話す。

2018.09更新(取材・動画/鈴木秀晃 写真/田中勝明)