フォーカス 作業所・ちひろ珈琲の挑戦

作業所・ちひろ珈琲の挑戦
ちひろ珈琲に集う与野新都心ライオンズクラブのメンバーたちと

私がちひろ珈琲を始めることにしたのは、2011年のことです。元々、システムエンジニアとして働いていたのですが、コーヒーが好きだったことと、両親が小規模作業所をやっていたのを見てやってみようと思ったんですよね。ただ、安かろう悪かろうではダメで、やるからには良いものを出したいと思ったんです。それで、焙煎や豆の選別などを1年かけて専門店で学びました。そこの師匠の娘さんが今、うちで働いてくれているのもあって、本格的なコーヒーが提供出来ています。

今、うちでは精神障害を持った人を中心に50人ほどが働いています。最初は5〜6人だったのですが、徐々に評判になり、希望者が増えました。ちひろ珈琲での重要な仕事が「ハンドピック」と呼ばれる豆の選別です。コーヒー豆は自然のものですから、いくら生産者の方が気を付けてくださっても、虫食いやカビが生えてしまった豆が混入することがあります。こうした悪い豆が入っていると、雑味が残ってしまうんですよね。ハンドピックは根気のいる大変な仕事なのですが、みんな一生懸命にやってくれます。お客さんが「おいしい」と飲んでくれると、これがうれしいんですよね。こうした反応って働いてくれている障害者の方々にも届くんです。そうすると、もっとがんばろうって思える。やりがいが出てくるんです。それもあってか、最初は表情が暗かった人も、どんどん明るくなっていって、作業所を卒業していくケースが多いんです。

ちひろ珈琲では従業員は9時までは来ちゃいけないルールを作っているんですが、9時前になると、店の外に列を作って待ってくれているんですよね。それだけみんなここの仕事を気に入ってくれている。9時からはすぐに仕事を始めるんじゃなくて、カフェスペースでコーヒーを飲んだり、新聞を読んだりと自由な時間にしています。9時30分から掃除をして、終わり次第、午前の作業を進めます。12時にはカフェが開店し、17時に終業。その後、職員だけでミーティングをします。

今では一般の方には福祉施設としてではなく、コーヒーショップとして名前が少しずつ知られてきました。一方で障害者の方からはたくさん利用の希望が来ています。将来はもう少し広いところで、もっと多くの人を受け入れられるようにしたいと思います。

2018.08更新(取材・構成/井原一樹 写真/関根則夫)

たかはし・ちひろ 1963年7月24日生まれ。埼玉県さいたま市出身。元システムエンジニア。両親のやっていた小規模作業所を手伝っていたが、2011年から障害者の作業所を兼ねるカフェ、ちひろ珈琲を開業する。その後、2016年4月、埼玉県・与野新都心ライオンズクラブに入会。