取材リポート ライオンズ農園で
子どもたちと農業体験

ライオンズ農園で 子どもたちと農業体験

大船渡市は岩手県南部、海に面したエリアは典型的なリアス海岸で、市域は三陸復興国立公園のほぼ中央にある。市の沖合いは、黒潮と親潮がぶつかる好漁場となっており、魚影の濃さ、魚種の豊かさで日本一とも称される。

そんな土地柄だけに、大船渡には釣り好きが多い。1968年に結成された大船渡ライオンズクラブ(榊原昌宏会長/48人)にも、かつては釣り同好会があった。毎年、年の瀬には趣味と奉仕を兼ねて出漁するのが常で、釣り上げた魚は養護施設や母子家庭、老人ホームなどへ無料で配り、新鮮な魚を味わってもらっていた。

釣りキチたちが奉仕先の一つに選んだ児童養護施設「大洋学園」には、クラブでもさまざまな活動を実施。特に毎年年末には学園で餅つきを行うのが恒例で、長く交流を続けてきた。そんな中、2011年3月11日、東日本大震災が発生。大船渡湾に面した中心部の大船渡町は壊滅的な被害を受け、市役所などがある盛町も盛川をさかのぼった津波により多くの建物が損壊した。

大船渡町を中心に活動していた大船渡ライオンズクラブは全会員が被災、事務局も津波で流された。大船渡町にはしばらく会員が集まれるような場所がなかったため、当時の新沼学幹事所有の倉庫を改造し、震災から半年が経った9月になってやっと例会を開くことが出来た。

それでも奉仕の心が折れることはなく、自宅や事業所の再建と並行して震災復興のための活動を開始。10月には大船渡ライオンズクラブ杯復興チャリティーグラウンドゴルフ大会及びチャリティーバザーを開催した。これはクラブの継続事業だが、その年はスポンサー・クラブである一関ライオンズクラブを始め、一関市周辺の5クラブが昼食の提供などで協力してくれた。また一関ライオンズクラブは自クラブの結成50周年記念事業の一環として200万円を支援、大会運営に大きな助力となった。

会員たちは子どもたちの到着を前に、田んぼに線引きをするなど田植えの準備を行う

その後も大船渡ライオンズクラブは、11月に市内の中学校8校を訪問して、それぞれ10万円の支援金を贈ったり、被災地に元気を発信する大船渡屋台村を支えたりと、震災からの復興に向けて活動を展開。そして12月10日には、大洋学園で恒例の餅つき大会を行い、全会員が被災した中でも奉仕の明かりを絶やすことはなかった。

震災後、ライオンズと大洋学園の絆はますます深くなり、2012年からは子どもたちのために市内日頃市町の土地にライオンズ農園を開園。一緒に農作業をして、収穫した野菜や米を施設で利用してもらったり、収穫物の一部を売って学園の運営費に充てたりしている。農園は、香川県・高松中央ライオンズクラブからの義援金を元に開設したもので、土地は会員の鈴木弘さんが提供してくれた。鈴木さんは16年12月に亡くなられたが、その後も郁子夫人の好意でライオンズ農園として使用させてもらっている。

今年もゴールデンウィーク最終日の5月6日、大船渡ライオンズクラブの会員たちと大洋学園の子どもたちはライオンズ農園で田植え作業を行った。現代では、田植えと言ってもほとんど機械を使って植えられる。が、大船渡ライオンズ農園では、隣の田んぼの持ち主の協力を得て、昔ながらの手作業で植えていく。子どもたちにとっては、米作りの大変さを学ぶ貴重な機会ともなっている。

大洋学園の子どもたちが田植えに参加するのは今年で3回目。今回は未就学児と小学部の児童14人が挑戦した。そもそも田んぼに入ったことのない子どもたちにとって、泥の感触自体が未体験。最初は水の冷たさにとまどいの表情を見せるが、田んぼの中を歩くうち泥の温かさが足に伝わり笑顔に変化。そして田植えが進んで緑の苗が広がる頃には、作業自体に夢中になり、最後は真剣な表情を見せていた。

大船渡ライオンズ農園には畑もあり、キュウリやナス、カボチャ、サツマイモ、トウモロコシ、夕顔などを栽培。6月から11月いっぱいまで、年に8回ほど野菜を収穫している。また10月には稲刈りをして、子どもたちが自らの手で植えた米を学園に届けている。

「震災後、全国のライオンズクラブから支援をして頂きました。そのうち、高松中央ライオンズクラブの皆さんから頂いた義援金で青少年育成のためのライオンズ農園を開設させて頂きました。今日は田植えですが、畑では季節ごとに野菜も作っており、それらの収穫作業もあります。農業を通じて子どもたちと触れ合う機会にもなっており、今後ともこのライオンズ農園を継続していきたいと考えています」
と、榊原会長は話している。

大洋学園は1955年に開園。現在、34人の子どもたちが暮らしている。2012年からは、より家庭的な環境で一人ひとりに合った細かなケアを行うためのユニットケア(小規模グループケア)に全面移行しており、養育支援の改善を積み上げながら、先駆的な運営を行っている。希望郷いわて文化大使、さんりく大船渡ふるさと大使などを務め、東日本大震災後、移動式エンターテインメント一体型炊き出しキャラバン「いわて三陸復興食堂」代表として積極的に復興支援活動を行っているシンガーソングライターの松本哲也さんは、この大洋学園の出身だ。

2018.06更新(取材・動画/鈴木秀晃 写真/関根則夫)