フォーカス 地域活性化として始まった
くろワンきっぷの仕掛け人

地域活性化として始まった くろワンきっぷの仕掛け人

北陸新幹線の構想は、東海道新幹線開業の翌年1965年に金沢市で開催された地方公聴会で発表され、出席していた鉄道官僚出身の佐藤栄作首相も興味を示されたと聞いています。その後、紆余曲折があって、それから50年後の2015年3月14日に金沢までの区間が開業しました。我々の地元、黒部宇奈月温泉駅もこの時に開業しています。

黒部宇奈月温泉駅は当初、82年に北陸新幹線富山県東部駅を黒部市の舌山付近に建設する計画が発表され、93年になって現在地に「新黒部駅(仮称)」を設置することが決定。そして13年にJR西日本から、駅名を「黒部宇奈月温泉駅」とすることが正式に発表されました。この間、黒部市では、駅の建物を始め新駅周辺の整備構想について、市民からの提言を得るなどの施策を展開しました。駅名候補の選定や駅周辺の整備に関して、提言の取りまとめを依頼されたのが、97年に誕生した「黒部まちづくり協議会」で、私が新幹線市民ワークショップの2代目リーダーに指名されました。

ワークショップでは、駅舎を全て木で作ろうとかガラス張りにしようとか、それこそさまざまな意見が出ました。その中で無料の駐車場を設けること(500台)や、ロータリーには一般車は入れずバスやタクシーのみ乗り入れが出来るようにするなどの提言は、そのまま生かされました。ただ、議論の中で、最も大きな課題とされたのが、二次交通の整備でした。

新幹線駅が開業しても、その先のアクセスが無ければ、乗降客の利便性が悪く、当然ながら利用客も少なくなるだろうとの考えでした。そこで目を付けたのが、新駅が開業する付近を通る富山地方鉄道(地鉄)でした。これを受け、地鉄では新幹線の新駅から500mほどの所にある舌山駅を廃止し、新幹線駅の前に新駅を作る構想を打ち出しましたが、通学など普段から使う地元の方から舌山駅存続の要望があり、舌山駅も存続しながら新駅を設けることになりました。

このように、最初は新幹線絡みの話として始まったんですが、活動の中で地元の生活に密着した鉄道としての役割を再認識し、そこにスポットを当てる動きが副次的に生まれました。そして官民一体となったディスカッションを重ねる中、鉄道マニアのメンバーから、ある鉄道会社がワンコインで1日乗り放題の切符を発売しているという話題が出されました。私は最初、ワンコインというと10円とか100円が思い浮かび、ピンとこなかったんですが、500円で乗り放題という話を聞いて「ああ、そうか」と(笑)。そこで早速、地鉄と交渉し、07年から「黒部ワンコイン・プロジェクト」を立ち上げ、春と秋の年に2回、土日限定で黒部市内の地鉄16駅(電鉄石田駅〜宇奈月温泉駅)とバス(新幹線市街地線及び生地循環線)は1日乗り降り自由というチケット「くろワンきっぷ」を発売することになりました。

その後、地元の人に関心を持ってもらおうと、住民やボランティアと一緒に地鉄の無人駅で駅舎や待合所のペンキを塗り直す「ペイント・ラッピング」事業を実施したりもしました。これは09年から始め、これまでに5駅で行いました。栃屋駅の場合、地元の人たちの提案で鮮やかなグリーンに塗り替えたんですが、田んぼに囲まれた駅なので「カエル色」にしようというユニークな案でした。また、駅を拠点にした町歩きなど、「くろワン」に合わせて、さまざまなイベントが実施されるようになり、地域の活性化にも役立っているようです。それらが評価され、14年には総務省の「ふるさとづくり大賞」を受賞しました。

「くろワンきっぷ」は既に10年を超え、この春で第23回を数えました。地鉄の話だと1日100人が採算ベースということなのですが、10年目の時に累計利用者数が5万人を突破しており、採算ベースの倍は乗車している計算になります。ライオンズクラブのメンバーなども、「くろワン」の時は積極的に切符を購入してくれ、お孫さんと一緒に電車に乗るなど、側面から支援してくれています。

黒部ワンコイン・プロジェクトのゆるキャラとして生まれた「くろワンちゃん」の管理も菅野さんの重要な仕事だ

ただ、こうして「くろワン」の認知度は上がっている反面、毎日の乗客が増えているかというと、なかなかそこまではいきません。特にバスの乗客が少ないため、市では今、そちらに力を入れているところです。更に最近では、本社機能の管理部門を黒部に移転したYKKが、社員の方に公共バスでの通勤を奨励するなど、官民で公共交通の利用促進に取り組んでいます。

高齢化が進む中、公共交通インフラの役割はますます重要になります。だから、私もライフワークとまではいかないまでも、ずっとこの企画に携わっていきたいと思っています。また、春と秋の「くろワン」イベント時には、市内でさまざまな企画が開催されるのですが、ライオンズクラブでも何らかの形で関わってもらえないか、今後、呼び掛けていきたいと考えています。

2018.06更新(取材・構成/鈴木秀晃)

すがの・かんじ 1950年2月10日富山県黒部市生まれ。㈱すがの印刷代表取締役社長。2007年に、黒部市内の富山地方鉄道を土日限定1日500円で乗り放題にする「黒部ワンコイン・プロジェクト」をスタートさせ、以来現在までプロジェクトの実行委員長を務め、公共交通にスポットを当てた地域活性化に貢献している。91年7月黒部ライオンズクラブ入会、07-08年度クラブ会長、今年度(17-18年度)2度目のクラブ会計を務めている。