取材リポート 年に一度の出前授業で
手作りの昔遊び体験を

年に一度の出前授業で手作りの昔遊び体験を

屋外で遊ぶ機会がめっきり減った現代の子どもたちに、外で遊ぶ楽しさ、遊ぶ道具を自分で作る楽しさを経験させたいと、上板ライオンズクラブ(河野和明会長/32人)では16年前から「出前授業」の活動を行っている。この出前授業の目的は、学校としての実施が難しい安全教育を行うことにある。一つ間違えば凶器になるが、正しい使い方を身に付けさえすれば生活を便利にしてくれるナイフを使用し、命の大切さを教えながら手先の器用さを鍛え、遊びの面白さを体験してもらうという活動だ。具体的には、竹とんぼや紙玉鉄砲、竹にひもを通して下駄のように履いて遊ぶ竹ぽっくりといった竹を削って遊具を作る他、コマや凧、折り紙などの作り方、遊び方などを教えている。

活動が始まった当初は昔懐かしいおもちゃ作りを体験する単発の講座だったが、5年前から上板町内にある四つの小学校の全学年を対象とした授業として年間指導計画に組み込まれるようになった。これが実現したのは、クラブに在籍する元校長や教員メンバーの尽力によるところが大きい。学校教育に精通していることから、教育方針に沿った提案を行うことが出来たのだ。全部で15種類ほどある遊びを難易度で分け、各学校の学年ごとに希望を聞き、年間スケジュールを作成する。出前授業は年に25~30回あり、1回につき講師役の他に3~4人のメンバーを集めなくてはならない。平日の日中に行うアクティビティである上、希望が同じ月に集中することもしばしばで、参加メンバーの調整だけでもなかなか大変だ。更に、小学校3年生には「昔の遊びと暮らし」という単元があり、この授業にも、昔の暮らしぶりをよく知るライオンズのメンバーが講師役として駆け付ける。また最近では、参観日に臨時の出前授業を依頼されることもあるなど、活動のニーズは広がりつつある。

年の瀬も迫りつつある2017年12月15日、町立東光小学校の6年生が出前授業で竹とんぼ作りに挑んだ。1時間目と2時間目の2コマを利用して、前半で竹とんぼを作り、後半には校庭に出て飛ばす。授業はライオンズの自己紹介から始まった。相手は1年生の時から毎年出前授業で顔を合わせていることもあって、既にメンバーとは顔見知りだ。

「用事があって学校を訪ねた時も児童が名前を呼んで寄って来てくれるんです。年に1回の出前授業ですが、顔と名前を覚えてもらえるのがうれしいですね。この学校の6年生は今回が最後の出前授業。小さかった子がいつの間にか私の身長を追い越しているのを見ると、感慨深いものがありますよ」と、この活動を担当する青少年・LCIF・ライオンズクエスト委員会の日比生永子委員長は目を細める。

作業開始を前に、作る手順、ナイフを安全に使用するための注意点を説明するのは、出前授業の生みの親であるメンバーの三宅昇。子どもの頃、外で遊ぶ時にはいつもポケットにナイフを入れ、竹細工などをしていたという。説明の後、グループに分かれた子どもたちの元に竹とんぼの材料が配られた。材料の真竹は、ライオンズのメンバーが山で切り出して用意した。子どもが作業をしやすいようにと、あらかじめ竹を粗く切りそろえ、後は羽と芯棒をナイフで削って仕上げるだけという状態まで下準備を施してある。生まれて初めてナイフを使う子ばかりなので、ここまで用意しておかないと楽しさも半減してしまうだろうという、ライオンズの配慮だ。

最初はナイフの開き方も分からなかった子どもたちだったが、時には見本として配られた完成品をじっと眺め、グループごとにつくメンバーの手を借りながら、慣れない手つきで竹を削っていた。最後に紙やすりをかけ、色を付けると世界に一つだけの竹とんぼの完成だ。全員の片付けが終わると、担任の先生の合図で、子どもたちは出来たばかりの竹とんぼを手に我先にと校庭に飛び出した。うまく飛ばすコツは、竹とんぼ自体のバランスが整っていることと、勢いよく右手を前方に押し出すこと。軸がズレていたり、羽を逆さに取り付けてしまっていたりで、なかなかうまく飛ばすことが出来なかった子どもたちだったが、何度か飛ばすうちに竹とんぼが空を舞う時間も長くなってきた。最後に全員で滞空時間を競い合って出前授業は終了となった。

学校ではナイフを使う機会がないため、子どもたちが初めてというのは分かるが、実は担任の先生もナイフを使って竹とんぼを作るのは初めてだったそうだ。

「最初はナイフが怖くて、子どもたちも私自身もどうなることかと思っていましたが、だんだんものづくりの楽しさを感じるようになってきました。自分で作って自分で工夫する楽しさは教科書では勉強出来ないこと。地域の大先輩方に教えて頂くことが出来て、子どもたちも良い経験になったと思います」

現代の子どもたちは、生まれた時からテレビやDVD、ゲーム機が周りにあるのが当たり前な環境で育つ。また、凶悪な事件に巻き込まれる危険を避けるため、昔に比べ屋外で遊べる範囲も限られている。そんな事情もあって、自然物を使って遊び、友達と達成感を共有するような経験はほとんどない。

「ナイフで何かを作って遊ぶという経験はなかなかないと思うので、こういう機会にナイフは危ないけれど便利で役に立つものだということを教えたいし、出来た時のうれしさも伝えていきたいと思っています。上板の子は素直で、聞く耳を持ってくれているのでやりやすい。期待してくれているのがひしひしと伝わって来ますから。私たちも教えながら子どもたちから元気をもらっているんですよ」(日比生委員長)

2018.02更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)