取材リポート 冬の風物詩になった
イルミネーション点灯式

冬の風物詩になったイルミネーション点灯式

「5、4、3、2、1、つけてー!」

12月6日、岡山県北長瀬駅前の南口広場に子どもたちの大きな声が響く。その声を合図に、広場にある3本の木に明かりが灯った。これは岡山ブルー ライオンズクラブ(黒住輝久会長/10人)が取り付けたイルミネーションの点灯式の一幕だ。きらびやかなイルミネーションに、集まった人たちは大きな拍手を送る。誰もが皆、楽しそうだ。

舞台となった北長瀬駅は2005年の晴れの国おかやま国体に合わせて、旧国鉄岡山操車場跡地に開業した比較的新しい駅だ。岡山駅から一駅、電車では3分ほどで到着する。この場所には元々、倉敷に開園したチボリ公園(2008年末に閉園)を誘致する計画だったが、周辺住民の反対もあり頓挫してしまった。そのため北長瀬駅前は、広大な空き地が広がる、閑散とした雰囲気の場所となってしまった。

その後、2015年には駅前に総合病院岡山市立岡山市民病院が開業。16年に大規模な自転車置き場が設置され、18年春には新たな商業施設が作られるなど、急速に開発が進んだ。岡山市民病院は17年12月に公開された、岡山県内の夫婦の実話を元にした映画「8年越しの花嫁 奇跡の実話」のロケ地になったことでも、注目されている。

しかし、10年前は夜に駅を出ると、辺りは真っ暗闇。駅を利用する地元の方に少しでも温かい気持ちになってもらおうと、クラブではイルミネーションの取り付けを始めることにした。メンバーに専門業者がいるわけでもない。自分の家を飾り付けた経験があるメンバーがいる程度だ。そのため、最初は全てが手探りの状態だったという。だが、メンバーの努力のかいもあって、地元の方には大好評。最初は白一色だったイルミネーションも、「岡山ブルーライオンズクラブだから青を入れよう」「いや、この色もいいんじゃないか」と、回を重ねるにつれてカラフルになり、数も増えていった。今では地元の冬の風物詩になっている。

イルミネーションのデザインも取り付けもメンバーが行う。最近は数が多くなってきたので、高所作業車の一種であるバケット車も利用するが、低い部分はメンバーが木に登って取り付ける。取り付ける木には定期的に剪定が入るため、毎年イルミネーションの形も変わるのが難しいと言う。電球1万球以上をつけ、地面にも引く。このレイアウトはメンバー同士で決める。延べ3日ほどかかる重労働だ。終わった後は筋肉痛がひどいが、それでもイルミネーションが灯れば、その苦労も報われる。

寒い時期であるにもかかわらず、点灯式の前から駅前には徐々に人が増えていく。そこで、クラブでは7年ほど前から、お汁粉を用意し、訪れた方に配っている。今年は千食用意した。

当初はクラブのみで点灯式を行っていたが、徐々に規模を拡大。岡山市民病院が開院した年は、病院の電気も消してもらい、イルミネーションと同時に点灯するなど、タイアップイベントとして実施した。点灯の時のカウントダウンは児童養護施設・南野育成園の子どもたちが担当するなど、地域を巻き込んだ奉仕事業となっている。市民病院の患者さんも目の前のイルミネーション点灯式を病院の窓から眺めたり、車椅子に毛布をかけて病院の前に出てきたりと、楽しみにしてくれている。

2010年からは毎年、近くにある岡山県立岡山大安寺中等教育学校の吹奏楽部の部員約90人がクリスマスソングなどを演奏。点灯式に華を添えてくれた。ステップを踏んだり、拍手を求めたりと見ている人を飽きさせない演奏に、集まった人たちも自然と笑顔になる。

公共の場でもあるため、市や警察の許可を取るのがなかなか大変だが、毎年実施していることで、逆にクラブと行政側とのつながりも深くなった。電車内からも見えるため多くの人が楽しみにしており、メンバーにとっては充実感ややりがい、ライオンズ・メンバーとしての自覚を感じられる活動となっている。

この事業を行うようになってから、地域でライオンズクラブの知名度も上がったといい、多くの人に喜んでもらえ、かつPRにもなっている。大変なこともあるが、それだけの価値がある活動だ。イルミネーションの点灯は1月半ばまで。冬の寒い時期、クラブのイルミネーションは駅をやさしく照らし、多くの人の心を癒やしている。

2018.01更新(記事・動画/井原一樹 写真/関根則夫)